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望遠鏡導入計画

(8)購入条件に合う天体望遠鏡を探す

これまで見てきたように、天体望遠鏡は、対物口径、架台、三脚とも大きければ大きいほど性能が高くなります。そして、価格も高ければ高いほど機能や精度、堅牢性、耐荷重もアップします。しかし、今回望遠鏡を導入するにあたって、(1)自動導入機能を備えていること、(2)できるだけコンパクトであること、(3)カメラの装着が可能であること、(4)10万円以内で購入できることの4つを優先したいと思います。正直なところ、10万円ですべての条件を満たせる製品があるの?と自分でも自信がありませんが、この不況下において自腹で捻出できる費用は今のところこれが限度です。とにかく今回はこの目標で頑張ってみましょう。

 

10万円で購入できる自動導入式の望遠鏡は?

 

そもそも自動導入式の天体望遠鏡は10万円で購入できるものなのでしょうか?「望遠鏡導入計画 ? 2 メーカーはやはりタカハシか?」で書いたように、まったく希望がないわけではありません。ビクセン、MEADE、CELESTRONの3メーカーなら、自動導入機能を備えている製品でも目標に近い金額で購入できるかもしれません。

 

ビクセンでもっとも低価格な自動導入式天体望遠鏡は「スカイポッドVMC110L」という経緯台式の製品になります。定価は12万4950円で、スカイポッド経緯台、VMC110L鏡筒、デスクトップ脚、接眼レンズがセットになっています。「望遠鏡導入計画 ? 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」でも紹介しましたが、「STAR BOOK – TypeS」というコントローラで自動導入ができる経緯台式の架台と「望遠鏡導入計画 ? 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」で紹介したVMCと呼ばれるビクセンオリジナルのマクストフ・カセグレン方式の鏡筒を組み合わせた商品です。

 

ビクセンでもっとも安い自動導入式の天体望遠鏡は、VMC方式の鏡筒と経緯台を組み合わせた「スカイポッドVMC110L」になります。

 

では、MEADEはどうでしょうか。以前にも紹介しましたが、過去にETXシリーズという10万円以下で自動導入式経緯台と鏡筒がセットになった非常にリーズナブルな製品がラインナップされていました。屈折式の「ETX-90AT」は6万7200円、マクストフ・カセグレン方式の「ETX-125AT」は9万8700円という設定で、より低価格の「ETX-60AT」「ETX-80AT」という製品もありました。しかし、現在は日本での販売を終了しているため、もっとも安いモデルは「LT-15SC」(13万2300円)だと思われます。

 

MEADEは日本国内において低価格のETXシリーズの販売を終了しているため、より高機能な「LT-15SC」がもっとも買いやすいモデルです。

 

CELESTRONは、102mmのマクストフ・カセグレン方式の自動導入式経緯台「NEXStar 4SE」(16万1700円)の他にも10万円以下で購入できる「NEXStar SLT(Star Locating Telescope)」と「LCM」というシリーズがあります。ただし、「LCM」シリーズは販売しているショップが少なく、海外代理店からの輸入販売がほとんどのようです。また、両シリーズとも簡単にアライメント(初期設定)ができるスカイアラインシステムを搭載していますが、登録天体数は「NEXStar SE」シリーズの4万個に対して4000個となっています。入門用に特化しているため、全体の構造もあまり頑丈に作られていないようで、価格の面では魅力的なのですが、カメラを搭載したいので今回の購入対象としては難しいかもしれません。

 

CELESTRONは、より低価格なモデルもありますが、完全に入門用でありスペックがかなり下がるため「NEXStar 4SE」が狙いです。

 

候補としては、「スカイポッドVMC110L」「LT-15SC」「NEXStar 4SE」の3製品になりますが、この3製品はすべて経緯台式なので長時間の写真撮影には向きません。そこで、自動導入式の赤道儀で対象になるものはないか調べてみたのですが、ビクセンでもっとも安いのは、VMC110L鏡筒と赤道儀のSXCマウントを組み合わせた「VMC110L-SXC」が18万7950円でした。この他に赤道儀単体では、ケンコーの「Sky Explorer II」(17万円/三脚付)、高橋製作所の「EM-11 Temma2M」(34万4400円/三脚別売)がありますが、さすがに鏡筒が別売でこの価格のため、10万円という予算に納めるのはかなり難しそうです。「スカイポッドVMC110L」「LT-15SC」「NEXStar 4SE」も定価ベースではすべてが10万円を超していますが、実売では希望に近い価格で販売しているショップが見つけられるかもしれません。また、赤道儀ではないので長時間の撮影は諦めざるを得ないかもしれませんが、とりあえず現実的に購入できそうな経緯台式の自動導入モデルを中心に検討してみたいと思います。

 

自動導入機能の差は?

 

今回の購入にあたって、一番気になるのが自動導入機能です。「望遠鏡導入計画 ? 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」で紹介しましたが、コンピュータに目的の天体を指示して、上下左右のモータをコントロールして視野に入れるわけですが、最初にアライメント(初期設定)が必要です。赤道儀のように極軸を合わせるような面倒な作業ではありませんが、架台を水平に設置したり、コンピュータに現在位置や日時を入力して、基準星によって望遠鏡の向きを認識させなくてはなりません。高価な自動導入式経緯台になると、GPSで位置や日時の情報を取得したり、CCDで基準星を自動的に捉えてアライメントを行なってしまうなど凄い機能を搭載していますが、さすがに10万円で購入しようというモデルでは無理のようです。しかし、各社とも低価格ながらさまざまな工夫を凝らしており、機能的には決して低いものではありません。では、3製品の違いを簡単に比べてみましょう。

 

【スカイポッドVMC110L】

160×160ドットの2.6インチモノクロ液晶を搭載した「STAR BOOK-TypeS」コントローラが付属しています。日本語はもちろんのこと、6カ国語に対応し、ウォームホイールは両軸とも歯数70枚で最大900倍速の導入速度となっています。MEADEとCELESTRONのコントローラはテキストが2行で表示される簡素なものですが、「STAR BOOK-TypeS」は、星図、星座解説機能、惑星情報表示が可能で、さらに拡大率と連動して経緯台の速度も変化します。アライメントはオーソドックスな方式で、登録された天体から2つ以上の基準星を選び、視野の中央に入れて調整するタイプです。

 

◯付属コントローラ:STAR BOOK-TypeS(日本語、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語)

◯アライメント:2個以上の基準星

◯登録天体数:2万2725個

◯自動導入速度:900倍

 

【LT-15SC】

鏡筒を水平にして真北に向けると自動的に2つの基準星を導入してくれるので、後はコントローラで視野の中心に基準星をもってくるだけでアライメントが完了する「イージーアライン」というシステムを採用しています。両軸に歯数154枚という巨大なウォームホイールを採用しており、導入可能な登録天体数は3万8320個となっています。英語と仏語のみとなりますが音声ガイド機能も備えた16文字2行のコントローラ「オーディオスター」が付属しています。ETXシリーズは日本語の表示が可能でしたが、このモデルは対応していないのは少々残念です。

 

◯自動導入システム:イージーアライン

◯付属コントローラ:オーディオスター(英語、仏語)

◯アライメント:2個の基準星(自動で導入)

◯登録天体数:3万8320

◯自動導入速度:960倍

 

【NEXStar 4SE】

水平に設置して適当に2.5等以上の明るい星3個を順次望遠鏡の視野の中心に導いて行くだけでアライメントが終了するスカイアラインシステムを搭載しています。従来のコントローラに表示された星を導入するのとは違い簡単な操作で自動導入が可能になります。もちろん、これまでの方法でのアライメントも可能です。16文字2行のコントローラが付属しています。

 

◯自動導入システム:スカイアラインシステム(英語)

◯アライメント:3個の基準星(任意でOK)

◯登録天体数:4万個

◯自動導入速度:960倍

 

鏡筒の性能は?

 

架台の性能も大切ですが、望遠鏡は鏡筒の性能が一番気になります。3製品ともカセグレン方式の鏡筒で、「スカイポッドVMC110L」と「NEXStar 4SE」がマクストフ・カセグレン方式、「LT-15SC」がシュミット・カセグレン方式となっています。さらに「スカイポッドVMC110L」は、鏡筒の先端に補正レンズを置かずに副鏡の手前に設置して補正するというビクセン独自のVMC(ビクセンオリジナルマクストフカセグレン)方式を採用しています。

 

「LT-15SC」の採用しているシュミット・カセグレン方式。鏡筒先端にシュミット補正レンズが取り付けられています。

 

「NEXStar 4SE」のマクストフ・カセグレン方式はメニスカス補正レンズを使用しています。

 

VMC(ビクセンオリジナルマクストフカセグレン)方式は副鏡の前に補正レンズが取り付けられています。

 

 

【スカイポッドVMC110L】

◯対物口径:110mm

◯焦点距離:1035mm

◯分解能:1.05秒

◯集光力:247倍

◯極限等級:12等星

 

【LT-15SC】

◯対物口径:152mm

◯焦点距離:1524mm

◯分解能:0.76秒

◯集光力:472倍

◯極限等級:14等星

 

【NEXStar 4SE】

◯対物口径:102mm

◯焦点距離:1325mm

◯分解能:1.14秒

◯集光力:212倍

◯極限等級:11.8等星

 

鏡筒は口径がもっとも大きい「LT-15SC」の性能が抜きに出ており、「スカイポッドVMC110L」と「NEXStar 4SE」は口径サイズが近いこともあって、性能もそれほど大きな差にはなっていません。ただし、「スカイポッドVMC110L」のVMC方式は鏡筒の先端に補正レンズがないため、他の2製品に比べると温度差による鏡筒内の空気の揺らめきが発生しやすい可能性があります。

 

サイズと重量の違いは?

 

天体望遠鏡は大きくて重いほうが安定した観測が可能になります。しかし、逆に移動や運搬、組み立て、保管がたいへんになってしまい使い勝手が悪くなります。きちんとした観測や撮影をしたいのであれば気にしてはいけないのでしょうが、夜になっても暗い場所が少なく、マンション暮らしが多い街中に住んでいる人にとっては現実問題として実に悩ましいところです。できるだけ軽くて小さいほうが保管や移動が楽なのはもちろんのこと、車に天体望遠鏡を載せて家族と一緒に郊外に出て観察する場合はなおさらです。太陽や月の観測は自宅の庭やマンションのベランダでも大丈夫ですが、あまり大きいと部屋から移動する際に苦労します。それだけならまだいいのですが、組み立てたまま部屋から出せないという事態も考えられます。そこで、今回選ぶ望遠鏡は、軽量でコンパクトであることにこだわりたいと思います。

 

3製品とも内部で光が折り返すカセグレン方式の鏡筒を採用しているためとても短くなっています。また、赤道儀よりも構造がシンプルなので、架台も軽量で小型です。ビクセンの「スカイポッド経緯台」と「SXCマウント」を比較した場合、前者が2.8kgで後者が5.9kgで倍近く違います。では、3製品のサイズと重量を比べてみましょう。

 

【スカイポッドVMC110L】

◯重量(鏡筒+架台+三脚):6kg

◯サイズ(鏡筒):外径119mm、長さ370mm

◯サイズ(架台):高さ190mm、幅210mm、奥行き200mm

◯サイズ(三脚):半径185mm、高さ64mm

 

【LT-15SC】

◯重量(鏡筒+架台+三脚):16kg

◯サイズ(鏡筒):外径233mm、長さ400mm

◯サイズ(架台):高さ590mm、幅400mm、奥行き不明

◯サイズ(三脚):高さ65?1115mm

 

【NEXStar 4SE】

◯重量(鏡筒+架台+三脚):10kg

◯サイズ(鏡筒):外径不明、長さ343mm

◯サイズ(架台):不明

◯サイズ(三脚):不明

 

3製品ともカセグレン方式のため、サイズはかなり小さく、経緯台ということもあってスペックを見る限りは、それほど大きな差はないようです。ただし、「スカイポッドVMC110L」はデスクトップ脚という900gの卓上型の三脚とのセットのため重量が軽くなっています。専用のスカイポッド三脚(3.7kg)と組み合わせ場合には8.8kgになります。また、「LT-15SC」と「NEXStar 4SE」が三脚の中心側に鏡筒をぶら下げる片持ちタイプのシングルフォーク式であるのに対して、「スカイポッドVMC110L」は外側にぶら下げる方式になっており、カメラ等を追加で搭載する場合にはバランスウェイトを鏡筒の反対側に取り付ける必要があります。

 

カメラの装着について

 

今回の目的の一つとして写真撮影があるのですが、経緯台式の架台では天体が視野(カメラの場合は「写野」ですね)内で回転してしまうため天体写真の撮影には向きません。本来、赤道儀が最適なのですが10万円の予算では難しそうです。ただ、経緯台式でもまったく撮影ができないわけではなく、太陽(金環日食も含めて撮影は非常に危険なので詳細は後ほど)や月といった明るい天体はシャッタースピードを速く設定できるので問題ありません。比較的明るい天体である惑星も使用する機材によっては撮影できなくもないのですが、暗めの星雲や星団、あるいは星野写真になると厳しくなります。「LT-15SC」と「NEXStar 4SE」は、ウェッジを使用すれば赤道儀として使用できなくもないのですが、「LT-15SC」はオプションのためその分価格がアップしてしまいます。「NEXStar 4SE」は三脚にウェッジの機能が組み込まれているので追加費用なしで赤道儀として使用することができますが、極軸合わせや追尾精度については若干心配があります。

 

3製品ともオプションで一眼レフカメラを鏡筒に取り付けるアクセサリが用意されているので写真撮影が可能です。一眼レフカメラを取り付ける場合は、鏡筒をそのままカメラのレンズと同じように使用する直焦点撮影と接眼レンズを使用する拡大撮影があります。高い倍率で撮影した場合には拡大撮影となりますが、像が暗くなったりボヤけてしまうことがあります。価格は以下の通りですが、Tリングというオプションは、一眼レフカメラを鏡筒を接続するためのもので、各カメラメーカーごとに用意されています。ビクセンはコンパクトデジタルカメラを鏡筒に取り付けて撮影できるオプションも販売しています。

 

【スカイポッドVMC110L】

◯拡大撮影カメラアダプタ(一眼レフ用/1万2600円)

◯Tリング(一眼レフ用/2310円?5250円)

◯デジタルカメラアダプタ(コンパクトデジタルカメラ用/1万500円)

◯DGリングDX(コンパクトデジタルカメラ用/2625円)

◯デジタルカメラクイックブラケット(コンパクトデジタルカメラ用/1万500円)

◯ユニバーサルデジタルカメラアダプタ(コンパクトデジタルカメラ用/9975円)

 

【LT-15SC】

◯Tアダプタ(一眼レフ直焦点用/6300円)

◯バリアブル拡大撮影アダプタ(一眼レフ用/7350円)

◯バリアブル拡大撮影アダプタ1.25インチ(一眼レフ用/8400円)

 

【NEXStar 4SE】

◯撮影アダプタ(6510円)

◯拡大撮影アダプタ(1万1760円)

◯Tマウントリング(オープン価格)

 

次回は購入する望遠鏡を決めます。

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

『望遠鏡導入計画』の記事一覧はこちら

著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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