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望遠鏡導入計画

(4)どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編

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今回は鏡筒について紹介します。天体を直接目で観ることができる装置で、望遠鏡を構成するパーツの中でも最も重要な部分だと言えます。対物口径が大きければ大きいほど明るくて鮮明に観ることができ、対物焦点距離が 長ければ長いほど、接眼レンズの焦点距離が短ければ短いほど拡大倍率がアップするという特徴がありますが、方式だけでもかなりの種類があります。

 

鏡筒の種類ってどんなものがある?

 

鏡筒は「対物レンズまたは対物鏡」と「接眼レンズ」が組み合わされて構成されています。方式によってはこれに副鏡や補正レンズなどが加わりますが、実際に望遠鏡を購入しようとカタログやショッピングサイトを見るとその種類の多さに驚きます。例えば、ビクセンのカタログには単体で販売されている鏡筒だけでも15種類、高橋製作所のWEBサイトには20種類もラインナップされています。大きさはまちまちで、形も細長いものもあれば、太いものもあり、中には極端に太くて短いものもあります。価格も数万円から100万円以上と幅広く、どれを選んだらいいのか本当にわかりません。そこで、まずは鏡筒の主な種類を一通り紹介します。特性や構造を覚えながら、自分に合うものはどれかを考えてみてください。

 

一般向けの望遠鏡としては主に「屈折式」「反射式」「反射屈折式」の3種類があります。それぞれにメリット、デメリットがあり、目的によって使用感もかなり違います。「屈折式」はレンズを「反射式」は鏡を使用しているのですが、「反射屈折式」は両方の特徴を備えています。一般的には初心者は屈折式望遠鏡が向いていると言われていますが、それぞれの特性をよく理解した上で、自分の用途に合った望遠鏡を選びましょう。

 

屈折式望遠鏡の種類と構造

 

対物部分にレンズを使用した望遠鏡です。倒立像のケプラー式と正立像のガリレオ式があります。鏡筒内が閉じられているため、外気との温度差による像の揺らめきが少なく、安定した観測ができます。反射式に比べて扱いやすくメンテナンスも楽なので初心者にお勧めですが、レンズを使用しているために色ズレなどの色収差が生じてしまいます。また、大口径レンズになると価格が飛躍的にアップし、重量もかなりのものになってしまいます。

 

【ケプラー式】対物レンズ→接眼レンズ

倒立像になりますが高倍率でも視野が広いケプラー式は天体観測に向いています。対物レンズの構造は、天体望遠鏡ではシンプルなシングルレンズのものはほとんどなく、屈折率の異なる2枚のレンズを組み合わせてコマ収差と球面収差を補正したアクロマート、より補正の能力をアップするために3枚玉や蛍石(フローライト)レンズやEDレンズを使用したアポクロマートが一般的です。対物レンズの口径は60mmから100mm、焦点距離は500mmから1000mmぐらいの製品が一般向けに数多く発売されており、価格はだいたいアクロマートレンズの鏡筒で数万円?10万円です。アポクロマートともなるとさらに価格はアップし、例えばビクセンのアクロマートレンズのA105Mは7万8750円ですがアポクロマートのED103Sは20万4750円です。対物口径が100mmを超すアポクロマートタイプのものは価格もぐんと高くなる傾向にあり、高橋製作所のTOA-150などは150mmの口径ということもあって124万9500円もします。

 

左にある対物レンズによって集光し後方から覗きます。対物レンズの種類はアクロマートやアポクロマートなどがあります。

◯メリット
像が安定している、扱いが簡単、メンテナンスが楽
◯デメリット
大口径は高価で重くなる、色収差がある

 

ビクセンのポルタII A80Mは、口径80mmのアクロマートレンズおよび焦点距離910mmの鏡筒と上下左右の微動ハンドルを装備した経緯台の組み合わせでなんと7万9800円で購入できます。さらにほぼ同じ仕様でロープライスのポルタII A80Mf(5万7750円)というお買い得モデルも用意されています。

 

反射式望遠鏡の種類と構造

 

とにかく安くて高性能な鏡筒を求める人には最適です。主鏡に凹面鏡を使用して集光するため、屈折式よりも安価で大口径の鏡筒を作りやすいメリットがあります。対物レンズがないので色収差もありません。低価格で高性能な鏡筒を求める方にお勧めです。しかし、鏡筒が密閉されていないために外気との温度差によって像が揺れやすく予め外に出して温度に順応させなくてはいけません。また、構造上、光軸がずれやすいという問題もあり、メンテナンスが必須となるため、初心者にはあまりお勧めできません。

 

【ニュートン式】主鏡(放物凹面)→副鏡(平面)→接眼レンズ

主鏡に放物面凹面と副鏡に平面鏡を使用した反射式望遠鏡として最もポピュラーな方式です。図のように平面鏡で横に光を導きだすため、覗く位置が鏡筒の先端に近くなってしまい、屈折式に比べると見るのに苦労する場合があります。対物鏡口径は100mm?200mm、焦点距離は600mm?1000mmのものが数多く発売されています。価格は100mmぐらいなら数万円から購入でき、ビクセンのR200SS鏡筒でも13万6500円と非常にリーズナブルで同口径の屈折式よりも安く購入できます。ただ、反射屈折式の普及により、以前よりもニュートン式は市場全体での種類が減っているように感じます。

 

右の凹面鏡で光りを反射させ、平面鏡で覗く位置に導きます。レンズは覗く部分だけに使用するため色収差がありません。焦点距離は筒の入り口ではなく、主鏡で反射された時点からの長さになります。

◯メリット

低コストで大口径の鏡筒が作れる、色収差がない
◯デメリット

像が不安定になりやすい、メンテナンスが必要

 

ビクセンのポルタII R130Sfは、口径130mmという大型の鏡筒(焦点距離650mm)と上下左右の微動ハンドルを装備した経緯台の組み合わせで価格は6万3000円です。ポルタII A80Mの倍近い口径で価格はほぼ同じです。

 

【カセグレン式】主鏡(放物凹面)→副鏡(双曲凸面)→接眼レンズ

反射式望遠鏡の一種で、副鏡に凸面鏡を使用して主鏡の中央から光を導き出すため、屈折式のように後方から覗くことができます。しかし、レンズを使用していないので屈折式ではありません。内部で、主鏡→副鏡→接眼レンズの経路で光が折り返すため、鏡筒の長さ以上の焦点距離を取ることが可能であり、コンパクトな設計にすることができます。ただし、球面鏡に比べて加工コストが高い放物面鏡と双曲面鏡を使用するため、後述のシュミット・カセグレン式やマクストフ・カセグレン式よりも鏡の部分の製作コストが高めになります。

 

カセグレン式は、光の経路が長くなるため、ニュートン式と同じ長さの鏡筒でも焦点距離を長く取る事ができます。逆に言えば、短い鏡筒でも長焦点の製品を作ることができます。

◯メリット

短い筒で長い焦点距離が可能、後方から覗くことができる

◯デメリット

シュミット式のような球面鏡に比べると高価、像が不安定になりやすい、メンテナンスが必要

 

 

【グレゴリー式】主鏡(放物凹面)→副鏡(楕円凹面)→接眼部

一見カセグレン式のように見えますが、副鏡に凹面鏡を使用しています。そのため、正立像で見ることが可能で、地上の物体を見る際には便利ですが、天体望遠鏡としてこの方式を見かけることはほとんどありません。

 

カセグレン式に似ているが副鏡が凸面ではなく凹面になっています。正立像として見えるのが特徴です。

◯メリット
正立像で見られる、後方から覗くことができる
◯デメリット
視野が狭い、像が不安定になりやすい、メンテナンスが必要

 

反射屈折式(カタディオプトリック式)の種類と構造

 

カセグレン式に似ていますが、反射望遠鏡と屈折望遠鏡の両方の良い部分を取り入れたのが屈折反射式望遠鏡です。鏡筒の先端に補正レンズを置いており、屈折式と同様に外気との温度差による像の揺らめきが少ないのが特徴です。光は背面の凹面鏡へと誘導された後にさらにシュミット補正板付近にある凸面鏡に反射され、後方の接眼部へと導かれます。カセグレン式と同様にコンパクトな筐体にしやすいのが特徴です。補正レンズを使用していますが、屈折望遠鏡に比べると安価に製造できます。主な方式として「シュミット式」「シュミット・カセグレン式」「マクストフ・カセグレン式」がありますが、「シュミット式」は肉眼による観測ではなく撮影に利用されています。

 

【シュミット・カセグレン式】シュミット補正レンズ(高次非球面)→主鏡(凹球面)→副鏡(凸球面)→接眼レンズ

先端に取り付けられた凸面のシュミット補正レンズで収差を補正します。主鏡と副鏡に加工の簡単な球面鏡を用いるため、カセグレン方式よりもコストを抑えることができます。ただし、シュミット補正レンズは高次非球面のため加工が難しく、次に紹介するマクストフ・カセグレン式のほうが、より製作コストが抑えられる傾向にあります。それでも同口径の屈折式よりは安価に製造することが可能です。MEADEやCELESTRONの自動導入式の経緯台タイプの天体望遠鏡はこの方式が多くなっています。ちなみにCELESTRON(セレストロン)のNexStar 5SEは口径127mmで18万9000円です。NexStarシリーズにはこの他に口径の違う「4SE」「6SE」「8SE」がラインナップされていますが、「4SE」のみ次に紹介するマクストフ・カセグレン式になっています。なお、写真撮影に使用されるシュミット式は、副鏡に当たる部分(位置は図とは違いますが)にフィルムや撮像素子がセットされます。

 

すべての鏡が球面になっており、左に高次非球面の補正レンズを配置して収差を補正をします。

◯メリット
像が安定している、鏡筒が短くできる、大口径のものが安価で製作できる

◯デメリット
メンテナンスが必要

 

CELESTRONのNexStar 8SEは、口径203mm、焦点距離2032mmという大型の望遠鏡ですが、シュミット・カセグレン方式により鏡筒長はかなり短いものとなっています。自動導入式の経緯台がセットになって価格は37万2750円です。

 

【マクストフ・カセグレン式】メニスカス補正レンズ(球面)→主鏡(凹球面)→副鏡(凸球面)→接眼部

シュミット・カセグレン式によく似ており、外観上の区別がなかなかつきません。違いは、先端取り付けられているレンズが高次非球面のシュミット補正レンズではなく、メニスカス補正レンズとなっていることです。シュミット・カセグレン式と同様に主鏡と副鏡が球面のため、コストを抑えて製作することができますが、メニスカス補正レンズを含め、すべて球面のため完全な補正が難しいと言われています。しかし、手軽で安価なシュミット方式としてCELESTRONの低価格モデルNexStar 4SEに採用されています。また、ビクセンは、メニスカス補正レンズを鏡筒先端に付けずに副鏡の位置に配置した独自のVMC(ビクセンオリジナルマクストフカセグレン)という方式を開発し、VMC110Lは110mmで3万450円という低価格を実現しています。ただし、補正レンズが前面を被っていないために反射式と同様に像が安定するまでに時間がかかります。

 

すべての鏡やレンズが球面で構成されているのが特徴です。図では左のメニスカス補正レンズの後ろに副鏡が独立して配置されていますが、メニスカス補正レンズの裏にメッキを施してそれを副鏡の代わりにしている場合もあります。

◯メリット
シュミット・カセグレンよりもさらに安価に製作できる、短い鏡筒で長焦点が可能
◯デメリット
すべて球面のため補正が難しい、メンテナンスが必要

 

口径110mm、焦点距離1035mmながら実際の長さは370mmしかないビクセンのVMC110L鏡筒を搭載した自動導入式経緯台のスカイポッドVMC110L。価格は12万4950円。

 

初心者は屈折式が無難な選択

 

以上が主な鏡筒の種類ですが、本当にたくさんあって、どれを選んだらいいのか迷ってしまいます。はっきりしていることは、口径が大きければ大きいほど明るく鮮明な像が得られるということですが、性能がアップするにつれて価格だけでなくサイズも大きくなるので、必ずしも良いことだけではありません。また、太陽を見るのか、月を見るのか、それとも惑星を見るのか、あるいは星雲や星団を見るのか、写真の撮影もしたいのかなど、目的によって使いやすい種類もかなり変わってきます。

 

初心者の方は、反射式のように光軸の調整も基本的には必要なく、像も安定して見られることから、屈折式を選ぶのが無難だと思います。両方の特徴を備えた反射屈折式もコンパクトで明るくて使いやすいのですが、光軸がズレやすく調整が必要な点は反射式と同じです。

 

また、太陽を直接見るのは非常に危険なので太陽投影版を使用することになりますが、屈折式以外の鏡筒では構造的に投影版が取り付けられなかったり、あるいは集光力があり過ぎて危険な場合があります。5月21日の金環日食を目的に初めて望遠鏡を買われる人は、ビクセンのポルタIIシリーズの屈折式をお勧めします。リーズナブルな価格ですし、太陽観測なら経緯台で充分です。架台の詳しい話は次回しますが、初心者でも簡単に扱えるだけでなく、全周微動のハンドルを装備しているので、惑星や星雲といった天体も容易に見ることができます。望遠鏡の紹介が一通り終わったら、このあたりの話もまとめて紹介したいと思います。

 

では次回は架台の話に移ります。

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

『望遠鏡導入計画』の記事一覧はこちら

著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
天文イベントや天体観測・撮影、宇宙関連グッズに関する情報を紹介していきます。