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望遠鏡導入計画

(5)どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編

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架台を選ぶ場合の注意点

 

それでは架台の紹介です。架台は、鏡筒を支えるとともに目的の天体に向けるためのパーツです。鏡筒は大きければ大きいほど性能がアップし、さらに直接自分の目で覗くため性能の違いがわかりやすいのですが、架台は外見だけではなかなかわかりません。内部の構造は分解してみないと確認できないので、そこそこの大きさで頑丈そうに見えても意外に貧弱で精度が低いということもあります。実際に使って試してみるのが一番なのですが、残念ながらそういう機会はほとんどありません。仕方なく、メーカーの信頼性や巷の評判に頼ることが多くなってしまうのですが、絶対に選んではいけない製品だけはハッキリしています。カメラの三脚のような貧弱で微動ハンドルのない架台が付属している望遠鏡です。

 

天体望遠鏡はカメラなどとは違って高倍率で見るため視野が非常に狭く、指先で軽く鏡筒に触れただけでも目的の天体が視界から消えて(外れて)しまうことがよくあります。場合によっては、風や地面の振動だけで消えてしまいます。逆に目的の天体を視野に入るのはとてもたいへんです。月や太陽のように明るくて見かけのサイズが大きいものはともかくとして、広大な宇宙にある惑星や暗い星雲を望遠鏡の狭い視野に入れるためには微細な動きが要求されるため、少しずつ望遠鏡を動かすことができる微動ハンドルが必須となります。カメラ三脚のような構造で微動ハンドルのない架台で天体を観測するのは無理なんです。皆さん、これだけは忘れないでください。

 

架台の種類はいくつあるの?

 

架台も鏡筒と同様に複数の方式があり、選び方を間違えると使い勝手が悪いだけでなく、目的を果たせないこともあります。ただし、鏡筒と違って一般向けの架台は大きく分けて「経緯台」と「赤道儀」の2つしかありませんので、仕組と特徴を理解できていれば架台を選ぶ悩みは大きく減ります。もちろん、精度や堅牢性、あるいはモータによる自動追尾機能やコンピュータを利用した自動導入機能の有無といった違いはあります。このあたりはスペックの違いということになりますので、天体望遠鏡に投資できる金額によって変わってきます。お金を出せば出すほど頑丈で高機能なものが購入できますが、数百万円もポンと払える人はそうはいないので悩ましいところです。また、高価で高機能な架台は使う側にも高い技術力と知識が要求されます。数百万円払えば誰でも簡単に目的の天体が見られるということではありません。

 

 

左が上下左右に回転する経緯台(ビクセンのポルタIIシリーズ)、右が天体を追尾できる赤道儀(ビクセンのSXシリーズ)。

では、「経緯台」と「赤道儀」の違いを簡単に説明しておきましょう。一般的な経緯台と赤道儀はそれぞれ2つの軸を持っています。経緯台は上下左右にしか動かすことができません。その代わりシンプルな構造なので価格が安く、軽量で手軽に扱うことができます。ただし、天体は北極星付近(極軸)を中心に日周運動して円を描いているため、例えばカメラを固定して空に向けて長時間撮影すると曲線になってしまいます。経緯台はそれを追うためには上下左右の両方を動かさなくてはなりません。そのため、長時間の観測や写真撮影はほぼ不可能です。

 

経緯台の動きを図にしてみました。星は東から昇って北極星付近を中心に回りながら西に向かいます。経緯台は上下左右にしか動かせないため、天体を追うためには①の場合には左右を左に動かして上下を上に向ける必要があります。②の場合は左右を左に動かして上下を下げます。長時間追い続けるのは辛いですね。

 

赤道儀も軸は2つなのですが、1つの軸(赤経軸)を常に北極星付近(極軸)に向けることによって、日周運動と同じ動きをさせることができます。当然ながら天体を一度視野に入れてしまえば、赤経軸を回すだけで天体を追って行くことができるため、長時間に渡る観測が楽なだけでなく、シャッターを長く開放した写真撮影も可能になります。ただし、赤経軸を正確に極軸に向ける必要があるため、どうしても天文の知識とある程度の技術が必要となります。また、正確に天体を追っていくには複雑な構造と高い精度が要求されるので赤道儀の価格はどうしても経緯台よりもアップしてしまいます。

 

赤道儀は赤経軸が極軸を向いているので天体を導入したら赤経軸のみ回転させれば天体を追っていくことができます。カメラを固定して長時間撮影をすると恒星は円を描く線になってしまいますが、赤道儀を使用すれば点として撮影することが可能になります。

 

通常、経緯台は初心者向け、赤道儀はレベルの高いアマチュア向けという認識で間違っていませんが、目的によっては必ずしも当てはまるわけではありません。月や惑星を楽しみながら見る「観賞」の用途であれば、わざわざ赤道儀を使わなくてもきちんとしたメーカーの経緯台の製品であればまったく問題ありません。アマチュア天文家でもサブ機として経緯台を使用している方もよく見かけます。目的の天体を望遠鏡の視野に導入することさえできてしまえば数分程度は上下左右に動かして追うのはそれほど難しいことではありません。さすがに長時間天体を追って点として撮影するには赤道儀を使用して追尾する必要があります。

 

 

デジタルカメラをカメラ用の三脚に固定して長時間天体を撮影すると日周運動によって円を描くため曲線になります。

 

カメラを三脚に固定して空を長時間撮影したときのイメージ。北極星はほとんど動かないためほぼ点になります。高い感度が設定できるデジタルカメラなら露光時間を短くすることができるため、固定撮影でも点として写すことができます。しかし、暗い天体は露光不足になってしまい固定撮影では難しいのが現状です。

 

 

赤道儀にカメラを搭載して天体を追尾しながら長時間撮影すると点として写すことができます。写真はビクセンのSX赤道儀(18万3750円)。

 

赤道儀で追尾しながら撮影した時のイメージ。赤道儀は、暗くて長時間露光が必要になる天体を撮影する際に威力を発揮します。

 

次回はさらに詳しく架台を見て行きましょう。

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

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著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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