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信州ちょっとだけマニアックな旅

(3)犬神家の一族の那須神社は国宝仁科神明宮

市川崑監督の映画「犬神家の一族」で犬神家と深い結びつきのある那須神社。ストーリの中で欠かせない存在であり、信州の小都市の神社でありながら迫力のあるその風格は、多くのファンの記憶の中に残っているのではないでしょうか。

2回に渡って、映画「犬神家の一族」(1976年/角川春樹事務所制作・東宝配給)に登場した信州(長野県)那須市の那須湖について紹介しました。「犬神家の一族」で重要な場所と言えば、犬神御殿、那須湖、那須ホテル、那須神社、那須市街地、那須駅です。今回は、ストーリの中で欠かせない存在である那須神社について紹介します。田舎の一神社でありながらその重厚な風格は、今でも忘れることができません。

犬神家と縁の深いこの神社は、物語の中心人物の1人である野々宮珠世の出生やその恋人であり犬神佐兵衛翁の孫である佐清の正体、佐兵衛翁の隠し子であった青沼静馬の生い立ちなどに深く関わっています。この神社の神主である大山神官の役は、1976年版と2006年のリメイク版の両作品とも大滝秀治さんが演じました。30年が経過しても声の張り以外は見た目もほとんど変わらない大滝さんには驚きましたが(これは両作品で橘警察署長を務めた加藤武さんも同じ)、その存在感のある演技は、なかなか他の役者さんでは難しいことを改めて感じました。残念ながら大滝さんは2012年に、加藤さんは2015年に亡くなられていますが、金田一耕助役の石坂浩二さんを含め、この3名は映画版犬神家の一族の中で特別な存在だと言えるでしょう。

さて、当たり前の話ですが、那須市が架空の街である以上、那須神社も架空の神社ということになります。しかし、金田一耕助と古館弁護士(小沢栄太郎さん)が大山神官に会いに行く場面で映し出された那須神社は登場シーンが少ないもののセットではなく実際に存在する神社でロケを行っています。
 
201610031604_1.jpg犬神家の一族の那須神社のシーンで撮影されたのが、長野県大町市の自然豊かな森に囲まれたこの神社です。

 
実はこの神社は、犬神家の一族のロケ地として前回紹介した仁科三湖(木崎湖、中綱湖、青木湖)と松本市の中間に鎮座する「仁科神明宮」です。かなり離れてはいますが、住所は仁科三湖と同じ大町市になります。神社の説明によれば、造営は江戸時代の寛永13年(1636年)で、380年前に建てられた日本最古の神明造の建築物であり、しかも神明造の社としては唯一の国宝というたいへん貴重なものなのです。国宝の神社で撮影をしていたというのもちょっと驚きですが、本物が持つ歴史の重みがあったればこそ、あの印象深いシーンが生まれたのでしょう。
 
%E6%9C%AC%E6%AE%BF3.jpg仁科神明宮の本殿は、室町時代からの神明造の様式を伝える貴重な建造物です。

 
神明造の神社は明治以降に増えていますが、仁科神明宮の創祀は平安時代なのではないかと推測されるほど古い歴史を持ち、伊勢神宮や籠神社などと並んで数少ない古くからの神明造の神社であったようです。なにしろ、南北朝時代の永和2年(1376年)から式年遷宮を行った記録が書かれている木造棟札と呼ばれるお札が620年分33枚(27枚は国の重要文化財)が残されており、これだけ長期にわたって奉仕とその記録が残されている例はほとんどないそうです。

ここで不思議なことは、なぜすべての神社の頂点に立つ伊勢神宮を差し置いて仁科神明宮が日本最古の神明造となっているのでしょうか?実は、伊勢神宮は、20年ごとに大規模な建て替えを行う「神宮式年遷宮」を行っており、天照皇大神を祭神としている仁科神明宮も伊勢神宮に習って20年に一度本殿を建て替える式年遷宮を行っていました。つまり、式年遷宮を続ける限り古い建物は残らないことになります。ところが、奉仕していた仁科氏が戦国時代に滅びた後にそれを引き継いでいた松本藩が寛永13年から事情があって建て替えはせずに修理のみとしてしまったのです。つまり、神明造の古い神社そのものが少ない中で、仁科神明宮はどこよりも早くから建て替えをやめたお陰で最も古い神明造の本殿として残ったというわけです。

では、この由緒正しい神社を参拝するにはどうすればよいでしょうか?基本的には仁科三湖と同様に東京方面であれば新宿駅からJR東日本中央本線で松本駅まで行き、JR東日本大糸線を利用するのがよいでしょう。大町市の南端になるので木崎湖のある信濃木崎駅よりも5つ手前の安曇沓掛駅で下車して、長野県道334号大平大峰沓掛線に出たら東に直線距離でも2kmほどの場所にあります。
 
201610031604_3.jpgJR東日本大糸線のリゾートトレイン「リゾートビューふるさと」。ディーゼルエンジンとリチウムイオン蓄電池によるハイブリッドシステムを採用したHB-E300系車両を採用しています。ディーゼルエンジンは駆動用ではなく発電用として搭載されており、従来のディーゼル機関車のように直接駆動させているわけではありません。車では日産NOTE e-POWERが似たような構造です。

 
高瀬川を渡り長野県道51号大町明科線と交わる宮本交差点から斜面に建つ住宅街の間を抜けていくのですが、かなり急な坂の連続で徒歩で訪れるには少々頑張りが必要です。車で訪れる場合は、大糸線と並んで通っている千国街道から徒歩と同様に県道334号を利用するか、県道51号を利用するのがわかりやすいでしょう。一ノ鳥居を抜けてしばらく行くと社の入り口に着きます。入り口の右側には広めの駐車スペースがあるのでそこに駐車しますが、三本杉から順に見るのであれば少しだけ入り口まで逆戻りする必要があります。
 
一ノ鳥居を抜けると神明宮の入口があります。映画のシーンの金田一と古館弁護士のルートを辿るのであれば入り口の右側にある駐車場に車を置いて奥にある階段を昇って手水舎に直接出ます。中央やや左に見えるのが三本杉です。

 
入り口からすぐの所に三本杉(落雷によって中央の杉が折れてしまい現在は二本)があります。それを左手に見ながら奥に進むと手水舎に突き当たり、左には二ノ鳥居がありますが、逆に右には階段があってそれを降りると来客用の駐車場に出ます。映画のシーンでは、三本杉を上からなめるようにティルトして手水舎を映し出し、そこに金田一と古館弁護士が右手から現れますが、二人は古館弁護士の車で訪れていたので、入り口を通らずにどうやら駐車場から直接手水舎に入ったようです。三本杉を見るのであれば少々手間ですが入り口まで戻ってから参拝することをお勧めします。
 
映画のシーンでは、こんな感じで杉の木の上の部分が最初に映し出されました。


 
そのままカメラは三本杉の根元までティルトします。


 
三本杉の真ん中は落雷で燃えてしまい現在は株が残るのみです。


 
こんな感じでカメラに映し出された手水舍の前を金田一と古館弁護士がを右手から横切りました。


 
手水舍はこのようになっています。右に駐車場への階段、左に二ノ鳥居があります。


 
左を向くとすぐ二ノ鳥居です。

 
二ノ鳥居からは石畳になっていて左手に社務所があり、それを越したあたりから石段を昇り、三ノ鳥居をくぐると境内社に出て、神門、拝殿、本殿へと続きます。映画は二人が三ノ鳥居をくぐる直前で室内にカットが切
り替わるため、境内社から先の様子はよくわかりません。実際はどのようになっているのでしょうか?
 
左にちょっとだけ見えているのが社務所。その先の建物が宝物収蔵庫です。右には神苑内の池があります。


 
社務所のを通り過ぎて階段を上って三ノ鳥居を潜ります。


 
神門です。1976年版ではここまで映し出されて室内のシーンに切り替わります。2006年のリメイク版では神門の写真だけが一瞬映し出されただけでした。


 
左手にある境内社です。奥に井戸が見えています。

 
三ノ鳥居をくぐり境内社に近付くとこれまでとは空気が違うことに気づく方が多いはずです。山や森林、川、湖、神社、寺など、昔から自然崇拝が行われていたり、人々の信仰が集まる場所では俗に言う「パワースポット」的な力を感じられることが多いのですが、仁科神明宮はその中でもかなりの強さだと言えます。個人的な感想になりますが、諏訪大社4社の中でも特に力が強い前宮と比べてもまったく引けを取りません。しかし、場所が場所だけに残念ながら参拝する人の数を見ても諏訪大社よりも知名度が低いことは否めませんが、安曇野を訪れる機会がありましたら、ちょっと足を伸ばしてぜひ参拝していただきたい神社です。
 
神門の右には神楽殿があります。


 
神門と神楽殿の間に階段があるのでそれを昇ります。


 
上に屋根が付いた元御神木です。巨木ですが残念ながら今は朽ち果てた姿となっています。


 
元御神木の裏側から中門と釣屋を見ることができます。釣屋の右側が国宝の本殿です。

 
神門には賽銭箱が設置されていてその奥に拝殿が見えます。ここで参拝(二拝二拍手一拝)したらそのまま帰らずに拝殿の右にある元御神木にも行ってみましょう。ちょっとわかりにくいのですが、神門の横にある潜り戸を入るか、拝殿境内の右側面にある神楽殿と神門の右端の間にの細い階段を登っていくと元天然記念物の大きな幹の痕がああります。ここからは神明造の特徴がよく現れた本殿を横から見ることができ、神門、拝殿、中門、釣屋、本殿の順番で並んでいます。拝殿以外はすべて国宝であり、その重々しい風格は素晴らしいというよりも凄いの一言に尽きます。
 
これが中門です。切妻造で本殿と同様に国宝に指定されています。


 
中門から釣屋が本殿に繋がっています。神明造で屋根は檜皮葺(ひわだぶき)です。


 
御神木の左には拝殿があります。


 
拝殿は国宝ではありませんが、なかなかの趣があります。


 
左側から見た本殿です。神明造りの特徴がよく出ています。


 
本殿の左に小さな社があります。これが式年正遷宮の際に仮の住まいとなる仮宮です。

 
本殿の左奥には小さな建物があるのですが、実はこれが遷宮の際に使用する仮宮です。現在、本殿の建て替えは行っていませんが、造営修理のために20年に一度の式年正遷宮祭は続いており、前回の式年正遷宮祭は平成11年(1999年)だったので次回は2019年を予定しています。本来は深夜に執り行われる厳粛な儀式とのことですが、実際には多くの人が集う賑やかなお祭りとなっているようです。

2006年のリメイク版では、残念ながら仁科神明宮での撮影シーンはなく、神門の写真が一瞬だけ映し出されるのみでした。考えて見れば、推理小説をベースにした映画に国宝の神社が撮影に使われたこと自体が驚きですが、きっかけはどうあれ仁科神明宮と出会う機会を持てた人たちの多くが、この神社の力強いパワー分けてもらえたのではないでしょうか。


 
【犬神家の一族について】
横溝正史原作の探偵金田一耕助が活躍する長編推理小説。「犬神家の一族」は、信州那須市の犬神財閥の総帥である犬神佐兵衛翁の死と共に勃発した連続殺人事件を描いた作品である。映画としては、片岡千恵蔵主演の「犬神家の謎 悪魔は踊る」(1954年東映)、市川崑/石坂浩二主演の「犬神家の一族」(1976年東宝)、石坂浩二主演の「犬神家の一族」(2006年東宝)の3本が制作され、特に1976年の「犬神家の一族」は、角川春樹事務所が制作した意欲的な作品で斬新な演出や豪華なキャストで話題を呼んだ。犬神佐兵衛に三国連太郎、古館弁護士に小沢栄太郎、那須神社神官に大滝秀治、橘警察署長に加藤武、犬神松子に高峰三枝子、犬神梅子に草笛光子、宮川香琴に岸田今日子、犬神幸吉に小林昭二、犬神寅之助に金田龍之介といったベテラン俳優陣に加えて、あおい輝彦、島田陽子、地井武男、坂口良子など注目の若手俳優も加わった一大プロジェクトであった。この作品を機に、監督の市川崑と主演の石坂浩二は、2作目「悪魔の手毬唄」をはじめとして「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」を世に送り出すことになる。2006年のリメイク版「犬神家の一族」では、市川崑監督をはじめとして、金田一耕助、橘警察署長、那須神社神官は同じ俳優が演じていることでも話題になった。1976年版はブルーレイが、「犬神家の一族 完全版 1976&2006」はDVDが発売されている。また、テレビドラマでは、古谷一行、中井貴一、片岡鶴太郎、稲垣吾郎らが金田一耕助を演じた本小説原作の作品が放送されている。
 
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国宝仁科神明宮は、JR大糸線安曇沓掛駅から徒歩約30分ほどの所にある。那須湖のロケ地であった仁科三湖と同様に大町市ではあるが、仁科三湖が市の北端であるのに対して南端にあり隣の池田町に近い。そのため、車で訪れる場合には安曇野インターチェンジから30ほどで到着する。

<仁科神明宮へのアクセス>住所:長野県大町市社宮本1159。アクセス:安曇野インターチェンジから約30分、JR大糸線安曇沓掛駅から徒歩約30分。参考情報:仁科神明宮

 
 
犬神家の一族の舞台となる那須市は、信州(長野県)にあったとされています。マイナビ出版では期間限定で通常5,400円のところ0円で長野県の白地図を提供しています。県内全市町村ごとにデータが分かれており、Illustratorで色分けするなど自由に編集可能なプロ仕様の商品です。ぜひこの機会にお試しください。

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著者プロフィール

マイナビ出版 旅・鉄道編集部(出版社)
マイナビ出版の地図・旅行ガイド関連編集部員が、自らの旅の記録を交えつつ、鉄道や旅行の情報をおとどけしていきます。