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(4)犬神家の一族とルパン三世の意外な関係

横溝正史さん原作の映画「犬神家の一族」とモンキー・パンチさんの代表作「ルパン三世」には意外なつながりがあることをご存知でしょうか?

前回は那須神社のロケ地「国宝仁科神明宮」について紹介しました。今回は、角川映画第1作目「犬神家の一族」(1976年/角川春樹事務所制作・東宝配給、原作:横溝正史、監督:市川崑、主演:石坂浩二)の中で重要な役割を果たしている音楽について紹介したいと思います。

映画の冒頭では、犬神佐兵衛翁の臨終とともに画面は題字に切り替わり、「タンタンタン、タンタータ、タンタターン~」という音楽が流れ始めます。この映画の象徴的な曲である大野雄二さん作曲の「愛のバラード」です。映画のヒットとともに有名になったこの曲は恐ろしくも悲しくそして愛に満ちた映画の映像とともに多くの人の記憶に今でも残っているでしょう。

「犬神家の一族」は、登場するさまざまな人物たちの思いが織りなす愛と憎しみの物語です。この曲をはじめとして「犬神家の一族」の音楽は『「犬神家の一族」オリジナルサウンドトラック(1976)』というアルバムに収録されており、現在でもアップルのiTunesストアAmazonで購入が可能です。収録されているタイトルは、「愛のバラード」「怨念」「呪い住みし館」「仮面」「終焉」「愁いのプロローグ」「憎しみのバラード」「瞑想」「湖影」「祈り(「愛のバラード」より)」「受難の血」「幻想」「孤独(「愛のバラード」より)の全13曲です。「愛のバラード」に対して「憎しみのバラード」があるという点もこの映画の特徴をよく表しているアルバムだと言えるでしょう。映画の中の怖いシーンを思い出しそうな曲も収録されていますが、全体的に美しい調べのアルバムで、「犬神家の一族」のファン以外にもぜひ聴いてほしい一枚です。Amazonのプライム会員特典に含まれていますので、会員の方は気軽に聴くことができます。
 

  映画では使われていませんが、「愛のバラード」には直木賞受賞作家であり「よこはま・たそがれ」(五木ひろし)や「うそ」(中条きよし)などのヒット曲の作詞家でもある山口洋子さんが作詞し、高名なシャンソン歌手の金子由香利さんがヴォーカルを担当した歌の付いたバージョンが存在します。しかし、金田一耕助シリーズ第4作目「女王蜂」(1978年/製作・配歌給:東宝、出演:石坂浩二/高峰三枝子/仲代達矢)のように映画と主題歌の同時展開がなかったこともあり、この曲を知る人は少ないようです。
 
 
「ゴールデン☆ベスト 金子由香利 Limited Edition」をはじめとして、現在販売されている金子さんのアルバムには収録されていないようですが、レコチョクで『「犬神家の一族」より 愛のバラード」』としてダウンロード販売されているので入手可能です。さらにサウンドトラックに収録されている「仮面」が金子さんの歌で『「犬神家の一族」より仮面』としてラインナップされています。また、後で紹介する「金田一耕助の冒険 特別版」にも収録されています。

カバー曲として、角川映画第3作目「野生の証明」(原作:森村誠一、監督:佐藤純彌、出演:高倉健/中野良子/薬師丸ひろ子)でわずか13歳で女優デビューした薬師丸ひろ子さんのアルバム「Cinema Songs」やエヴァンゲリオンの主題歌「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」のヴォーカル高橋洋子さんの「20th century Boys & Girls II」にも収録されていますが、こちらもあまり認知されていないのは残念です。

薬師丸さんは、2016年12月10日に放送されたNHKの「SONGSスペシャル 薬師丸ひろ子~高倉健さんが教えてくれた映画のすべて~」でも、高倉さんと共演した「野生の証明」の主題歌「戦士の休息」と一緒に「愛のバラード」を熱唱しています。「戦士の休息」は町田義人さんが歌っていた曲ですが、実はこちらの作曲も大野さんです。ジャズピアニストである大野さんは、アーティストへの楽曲提供だけでなく、CM、ドラマ、映画、アニメなど様々な分野で作曲家として活躍されており、角川映画との縁も深く、第2作目「人間の証明」(原作:森村誠一、監督:佐藤純彌、出演:岡田茉莉子/松田優作/ジョージ・ケネディ)の音楽も担当しました。
 
 

  さて、大野さんといえば、もうおわかりだと思いますが、モンキー・パンチさん原作のテレビアニメ「ルパン三世」シリーズの音楽を担当していることでも有名です。オープニングに使われた「ルパン三世のテーマ」は、国民的ヒーローであるルパン三世を象徴する曲であり、日本に住んでいてこの曲を耳にしたことがないという人はいないのではないでしょうか。そして、「犬神家の一族」と「ルパン三世」の間には、どちらも音楽を大野さんが担当しているという大きなつながりがあるのです。

しかし、推理小説をベースとした劇場映画と漫画をベースとしたテレビアニメでは、さすがに音楽の傾向も使われ方も異なり、映像から受ける印象も大きく違うので両方とも本当に大野さんの曲なの?と思われる方もいるでしょう。そんな方は、宮崎駿監督の不朽の名作「ルパン三世 カリオストロの城」(製作:東京ムービー新社、配給:東宝)で使われている主題歌「炎のたからもの」と「愛のバラード」を聴き比べてはいかがでしょうか。特に注目してもらいたいのは導入部ですが、「愛のバラード」は映画では導入部がカットされているため、オリジナルサウンドトラックを聴く必要があります。この導入部を聴けばほとんどの方が「ああ、なるほどね」とおわかりいただけるはずです。
 

  残念ながら大野さんと市川崑監督&石坂浩二さんの金田一耕助シリーズについての関係は「犬神家の一族」の1作品のみにとどまりました。2作目「悪魔の手毬唄」(1977年/製作・配給:東宝、出演:石坂浩二/岸恵子/若山富三郎)は、音楽は村井邦彦さん、編曲を田辺信一さんが担当しています。3作目「獄門島」(1977年/製作・配給:東宝、出演:石坂浩二/司葉子/大原麗子)、4作目「女王蜂」、5作目「病院坂の首縊りの家」(1979年/製作・配給:東宝、出演:石坂浩二/佐久間良子/桜田淳子)は田辺さんが音楽を担当しています。なお、2006年の「犬神家の一族」リメイク作品では、大野さんは参加されておらず「愛のバラード」など一部が使用されたのみでした。
 
 
「獄門島」では、イメージソングとしてペドロ&カプリシャスの初代ヴォーカルだった前野曜子さんが「愛のテーマ」を歌っています。この曲は、富士キネマの「獄門島 オリジナル・サウンドトラック盤」とリッキー&960ポンドの「抱きしめて Original recording remastered」に収録され今でも聴くことができます。
 
 
 
「女王蜂」では、ミュージカル俳優の塚田三喜夫さんがヴォーカルを務めたイメージソング「智子のテーマ 愛の女王蜂」(作詞:松本隆、作曲:三木たかし、編曲:田辺信一)が、映画とは別にカネボウとのタイアップのために用意されました。佐田啓二さんの長女中井貴惠さん(中井貴一さんの姉)がヒロイン役として起用されていますが、「ミステリアクイーン」というフレーズが印象的なこの曲は「二重口紅カネボウリップスティック」のCMでメイキング映像とともに放送されました。CMで使われた「口紅にミステリー」「女王蜂のくちびる」というキャッチコピーを覚えている方も多いのではないでしょうか。映画の中で等々力警部役の加藤武さんが「口紅にミステリー」と言うシーンも懐かしい限りです。この曲は『「女王蜂」オリジナルサウンドトラック』には含まれていませんが、オムニバス集「金田一耕助の冒険 特別版」に収録されています。
 
 

  「病院坂の首縊りの家」では他の4作とは異なり、映画のオリジナル曲ではなくミュージカルや映画でお馴染みの「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」(作曲:ハロルド・アーレン、作詞:ビリー・ローズ /エドガー・イップ・ハーバーグ)を歌うヒロイン役の桜田淳子さんの姿が素敵でした。富士キネマの「病院坂の首縊りの家 オリジナル・サウンドトラック盤」で聴くことができます。
 

  さらに『「犬神家の一族」オリジナルサウンドトラック(1976)』は、映画を見ていなくてもこれ一枚で曲を楽しめる作品として構成されているのに対して、「悪魔の手毬唄」と「獄門島」は、メインテーマ曲に加えて劇中の音源が収録された映画通のための総劇伴集が富士キネマより2012年に発売されています。テーマ曲の他にも効果音に近い使われ方の短い曲も多数収録されており、映画ファンには貴重なアルバムとなっています。「悪魔の手毬唄 総劇伴集」には、事件を解く鍵となる鬼首村の手毬唄が「手毬唄の記憶」として収録されているのも嬉しいところです。
 
 
 
このように映画と音楽はさまざまな意味でとても重要な関係にあり、映像とともに音の記憶としても人々の胸に深く刻まれるのが特徴です。「犬神家の一族」のロケ地となった信州の大町市を訪ねる機会がありましたら「愛のバラード」を聴きながら旅をしていただくのもいいかもしれません。
 
松本、安曇野、大町、白馬をドライブすると、そこには雄大な北アルプスの自然と素朴だけど温かい人々との出会いが待っています。「愛のバラード」は、そんな旅にぴったりの曲です。

 
「犬神家の一族」や「ルパン三世」にとどまらず、数々の名曲を世に送り出した大野さんは、現在でも新バンド「Yuji Ohno & Lupintic Six」を結成して「ルパン三世」をテーマにしたコンサートを各地で開催しており、アルバムも次々に発表して活発に活動されています。大野さんの詳細な情報は大野さんのオフィシャルWebサイトでご確認ください。
 
 
【犬神家の一族について】
横溝正史原作の探偵金田一耕助が活躍する長編推理小説。「犬神家の一族」は、信州那須市の犬神財閥の総帥である犬神佐兵衛翁の死と共に勃発した連続殺人事件を描いた作品である。映画としては、片岡千恵蔵主演の「犬神家の謎 悪魔は踊る」(1954年東映)、市川崑/石坂浩二主演の「犬神家の一族」(1976年東宝)、石坂浩二主演の「犬神家の一族」(2006年東宝)の3本が制作され、特に1976年の「犬神家の一族」は、角川春樹事務所が制作した意欲的な作品で斬新な演出や豪華なキャストで話題を呼んだ。犬神佐兵衛に三国連太郎、古館弁護士に小沢栄太郎、那須神社神官に大滝秀治、橘警察署長に加藤武、犬神松子に高峰三枝子、犬神梅子に草笛光子、宮川香琴に岸田今日子、犬神幸吉に小林昭二、犬神寅之助に金田龍之介といったベテラン俳優陣に加えて、あおい輝彦、島田陽子、地井武男、坂口良子など注目の若手俳優も加わった一大プロジェクトであった。この作品を機に、監督の市川崑と主演の石坂浩二は、2作目「悪魔の手毬唄」をはじめとして「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」を世に送り出すことになる。2006年のリメイク版「犬神家の一族」では、市川崑監督をはじめとして、金田一耕助、橘警察署長、那須神社神官は同じ俳優が演じていることでも話題になった。1976年版はブルーレイが、「犬神家の一族 完全版 1976&2006」はDVDが発売されている。また、テレビドラマでは、古谷一行、中井貴一、片岡鶴太郎、稲垣吾郎らが金田一耕助を演じた本小説原作の作品が放送されている。
 
 
 
 

国宝仁科神明宮は、JR大糸線安曇沓掛駅から徒歩約30分ほどの所にある。那須湖のロケ地であった仁科三湖と同様に大町市ではあるが、仁科三湖が市の北端であるのに対して南端にあり隣の池田町に近い。そのため、車で訪れる場合には安曇野インターチェンジから30分ほどで到着する。

<仁科神明宮へのアクセス>住所:長野県大町市社宮本1159。アクセス:安曇野インターチェンジから約30分、JR大糸線安曇沓掛駅から徒歩約30分。参考情報:仁科神明宮

 
 
犬神家の一族の舞台となる那須市は、信州(長野県)にあったとされています。マイナビ出版では期間限定で通常5,400円のところ0円で長野県の白地図を提供しています。県内全市町村ごとにデータが分かれており、Illustratorで色分けするなど自由に編集可能なプロ仕様の商品です。ぜひこの機会にお試しください。

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著者プロフィール

マイナビ出版 旅・鉄道編集部(出版社)
マイナビ出版の地図・旅行ガイド関連編集部員が、自らの旅の記録を交えつつ、鉄道や旅行の情報をおとどけしていきます。