2013.12.04
太陽の近日点通過直後に核の消滅が伝えられ、その後V字型に明るい輝きを放つ姿が確認されたことから核の生き残りの可能性が期待されていた「アイソン(ISON)彗星」について、NASA(アメリカ航空宇宙局)および国立天文台から新しい見解が発表されました。実に残念なことですが、その内容は彗星の核が残っている可能性はほとんどないという内容です。
国立天文台によれば、太陽&太陽圏観測衛星「SOHO(Solar and Heliospheric Observatory」の画像を確認すると、近日点に近づいた際には-2等級の明るさになっていたものの「SOHO」の遮光板に隠れる直前に核が暗くなっていることから、この時点ですでに崩壊して大きな破片に分かれてしまい、近日点付近で溶けてなくなってしまったのではないかということです。NASAの映像からもわかるように、V字型の輝きは太陽から遠ざかるに連れて上縁は拡散し下縁は淡くなっています。上縁は核が崩壊し始めた際に放出された塵によってできた尾であり、下縁は彗星の軌道上に残された大きめの塵または崩壊の際の破片群と見られています。近日点通過後にまだ核が存在しているのであれば、新しい塵の供給によって上縁よりもさらに上に塵の尾が伸びるはずだと言うのです。
この状況から、今後は彗星らしい尾が見られる可能性は低く、近日点通過後に見えていた尾も日本時間の12月5日頃には天の川の最も濃い部分の5分の1の輝度(天の川がハッキリ見られるかなり条件のよい環境でも肉眼で見えるかどうかの明るさ)と予想され、空が明るくなり始める日の出前では肉眼で見ることは難しいでしょう。天の川が確認できないような条件の悪い市街地ではほぼ絶望的です。
NASAでも近日点通過後に輝いていたものが、小さな核なのかどうかの詳細な分析を進めていましたが、それが塵の雲なのかそれとも核だったのかはともかくとして、米国時間で12月1日の時点では核がすでに無くなっているようであり、現在は単なる塵であろうとしています。今後は、ハッブル宇宙望遠鏡で観測できるかどうということです。
さすがに「アイソン彗星」の核の存在は諦めたほうがよさそうですが、今回は地上からの観測に加えて太陽観測衛星を駆使するなど、彗星の動きをここまで詳細に追うことができたのは素晴らしい成果だと言えるでしょう。今後は、さまざまな観測用の人工衛星や地上の望遠鏡を駆使して「アイソン彗星」のその後を追って行くことになります。さらに今回は、若田光一宇宙飛行士が「国際宇宙ステーション(ISS)」から崩壊前の「アイソン彗星」を超高感度4Kカメラで捉えています。12月4日19時30分から放送予定のNHKスペシャル「宇宙生中継 彗星爆発 太陽系の謎」でその映像が放送されます。
「アイソン彗星」は残念な結果に終わりそうですが、2011年に近日点通過を生き残って大彗星になった「ラブジョイ彗星(C/2011 W3)」の発見者であるテリー・ラブジョイ氏がその後に発見した新しい「ラブジョイ彗星(C/2013 R1)」がその姿を現しています。現在は4等級程度で明るさで明るくなっても3等級程度と予測されているので、肉眼で観察するのは少々辛そうですが、双眼鏡があれば見られるでしょう。国立天文台の図を見ていただくとわかりますが、12月19日頃に「アイソン彗星」と近づく予定になっていたので少々残念ではありますが、こちらの彗星もぜひ観測にチャレンジしてみましょう。
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著者プロフィール
- マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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