第24回 簡素でいて容姿端麗、パウンド型で焼くバターケーキ|くらしの本棚

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第24回 簡素でいて容姿端麗、パウンド型で焼くバターケーキ

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

バターケーキを1本焼くならまずはコレで、と広く認識されているであろう、お馴染みのパウンド型。ですが、実のところ私、それほどそんな風には思っていなかったりします。何故なら、長方形のパウンド型で焼いた場合、ケーキの両端が低くなり、中央が盛り上がりがちなので、切り分けた時の1ピースに不公平が出ることが多いから。その点、丸い形に焼けば均等に平等に切り分けることが出来るため、バターケーキも丸型、リング型、フラワー型、クグロフ型などの丸型焼成推奨派、なのです。

しかしながら、あのシュッとした直方体にキリリと焼き上がったバターケーキは、やはり恰好のいいもの。甘いお菓子を甘さのない形に焼くことで生まれる絶妙に潔い甘辛のさじ加減は、パウンド型ならではの魅力。ならば、「ケーキのふくっと焼けたおいしいところをみんなに食べてもらって、両方の端っこは自分で食べればいいんだわ。」と、落としどころを見つけ、今日もまたせっせとパウンド型でバターケーキを焼いています。

細身だったり小太りだったり、背高だったりおチビちゃんだったりと、様々なスタイルに作られているパウンド型。わたしもいくつか揃えているわけですが、中でもマトファーのケーキドロワ(ケークドロワとも呼ばれます)と、cuoca×CHIYODAパウンド型のSサイズ、この2つは贔屓目に偏愛中。プライベートで焼くパウンド型のお菓子はここ数年、これでしか焼いていないんじゃなかろうか。そのくらいの勢いで特別に気に入っています。

cuoca×CHIYODAパウンド型のSサイズは、細さと長さの釣り合いに加え、おおよそ卵1個分の生地で1台、一般的なパウンド型1台分のレシピで2台作れるというサイズが殊のほかよいのです。カットせず1本丸ごとの状態でも贈りやすい大袈裟にならない大きさで、自宅消費のお茶菓子用にも日常的にヘビーユース中。細身なのだけれど、人気のポピュラーなスリムパウンド型ほどに細すぎない、ほどほどのスタイリッシュさがわたし好み。適度に持たされた幅のお陰で、生地も入れやすいんですよ。「お菓子を焼く日々のこと」、連載5回目のコーヒーのバターケーキ連載10回目の抹茶のパウンドフィナンシェもこちらの型で焼いているので、バックナンバー遡ってちらっと見てみてくださいね。

マトファーのケーキドロワはベーシックな長方形の型ですが、パウンド型にありがちな扇形に広がりすぎていない縦横のバランスが大変好ましいのです。焼き上がったお菓子の角と直線がシャープに出る上、側面がスッと立ち上がり、素朴さの中にも凛とした強ささえ感じ取れるような見映えする姿と出会えます。もちろん、熱伝導もすこぶるよく、外側にはきれいな焼き色がつき、内側は必要な水分を逃がすことなくしっとりとした生地感に。また、ベコベコしない材質は、充分な丈夫さと耐久性も兼ね備えています。

朴訥だが、明晰。シンプルだが、奥が深い。サントリーウイスキー「山崎」の“何も足さない。何も引かない。” という懐かしいキャッチコピーを思い出させるような、完成された媚びない美しさのある型。オーソドックスでシンプルなものが広く愛され続ける理由ここにあり、ですね。どちらの型とも、末永くお菓子焼きを共にして行こうと、心に決めています。

さて、今回ご紹介するお菓子は、栗を贅沢に混ぜ込んだ、ブランデーが香る大人のバターケーキです。栗は、スーパーなどで手に入る身近なむき栗を使いました。製菓材料店などで入手可能な蒸し栗や、甘さを抑えて煮てある渋皮煮で作るのもおすすめ。砂糖はさらりとした甘みのグラニュー糖とコクのあるきび砂糖を併用しましたが、全量をグラニュー糖、またはきび砂糖にしても構いません。秋から冬に楽しむお茶時間に合わせて、ぜひ焼いてみてくださいね。

「栗のブランデーケーキ」

材料(18×8×高さ8cmのパウンド型 1台分)

A薄力粉80g
 ベーキングパウダー小さじ1/4
 塩少々

Bグラニュー糖45g
 きび砂糖50g

アーモンドパウダー35g
バター(食塩不使用)100g
卵2個
牛乳大さじ1/2
ブランデー大さじ1
むき甘栗120g

仕上げ用のブランデー 適量

下準備

・バターと卵は室温に戻す。
・むき甘栗は手で割り崩し、ブランデーと合わせておく。
・型にオーブンシートを敷くか、型にバターを塗って強力粉をふり、余分な粉を落とす。
・オーブンを170℃に温める。

作り方

①ボウルにやわらかくしたバターを入れ、ハンドミキサーでクリーム状に混ぜる。Bを加え、白っぽくふんわりとした状態に泡立てる。溶いた卵の1/2量を少しずつ加えてよく混ぜる。アーモンドパウダーを加えてよく混ぜ、残りの卵を少しずつ加えて更にふんわりとよく混ぜる。

②Aをふるい入れ、ゴムベラで底からすくい返すようにして混ぜる。粉気が見えなくなれば、むき甘栗とブランデーを加え、ツヤが出るまでよく混ぜる。牛乳を加え、手早くかつムラなく混ぜる。

③型に入れて平らにならし、170℃のオーブンで45分ほど焼く。焼けたら取り出して、熱いうちにブランデーをケーキの表面にハケで好みの量塗る。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。