第1回 ドライブ休憩はのんびり足湯で ~in EXPASA足柄編~|くらしの本棚

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第1回 ドライブ休憩はのんびり足湯で ~in EXPASA足柄編~

私――松川利美(まつかわりみ)は、人生で忘れることのない、とても刺激的な旅をした。
これは、そんな一泊旅行の中で取りこぼした、覚え書き。
大切な思い出を、ちゃんと心のアルバムに仕舞いたいから、私はメモを取る。
あの時に感じた旅の楽しさを、二度と失わないように――。

旅の道中は、車のドライブ。東京から京都までのびる高速道路を走りながら、時折休憩に立ち寄るのが、サービスエリアやパーキングエリアといった場所だ。
最近のサービスエリアは観光地化しているという話は聞いたことがあったけれど、こうやって実際に目にしてみると、純粋に感心する。
お祭りみたいに屋台が並んでいて、建物も大きく、グルメやお土産屋の多さに圧倒される海老名サービスエリア。観覧車や綺麗な噴水、アスレチックまであるテーマパークみたいな刈谷ハイウェイオアシス。
どれも魅力が満載で、言葉だけじゃ伝えきれない。そんな中、静岡にあるサービスエリア『EXPASA足柄』も思い出深かった。

「このサービスエリアの特徴は、何といっても温泉なんだよな」

旅の道連れは、常盤真(ときわまこと)さんという私の上司にあたる人。ひょんなことからタッグを組んで仕事をする事になったけれど、とても明るくて前向きな人だ。
それにしても温泉があるサービスエリアなんて。刈谷ハイウェイオアシスの観覧車にも驚いたけど、場所によって様々な特色があって、面白い。

「温泉は魅力的ですけど、私達は京都に向かっているところですし、さすがにお風呂には入れないですね」

残念に思いながら言うと、常盤さんはニッコリと笑みを浮かべた。

「それが、ここには足湯もあるんだよ。そこに行ってみよう」

常盤さんが私を連れて行ってくれたのは、建物の二階にある『足湯カフェ』。そこではカフェスペースの中にいくつかのテーブルと、その下にお椀型の湯船があった。たっぷりのお湯からは、暖かそうな湯気が立ち上っている。

「すごい。ドクターフィッシュの足湯まであるんですね」
「ああ、入ってみようか」

常盤さんと一緒にドリンクを購入し、足湯のあるテーブルに移動する。どうやら湯船によって効能が違うようで、色々入ってみるのも楽しそうだった。
人前で靴下を脱ぐのは少し勇気がいるけど、エイッと脱いで、素足を湯船に沈める。

「うわあ……これは、いいですね~」
「あ~これはいいな。気持ち良すぎる……」

膝までスラックスをまくり上げた常盤さんが、べったりとテーブルに突っ伏し、幸せそうな声を上げる。彼はすっかりリラックスモードだ。
私も気持ちいい。車で移動しているから、さほど歩いたわけではないのに、それでも足は疲れていたのだろう。
足湯にはジャグジーがついていて、こぽこぽした湯の感覚が心地良い。じんわりした暖かさを感じながら飲むジュースはおいしくて、つい、時間を忘れて堪能してしまう。

「もう、ここが終着地でいい気がするよな。温泉もあるし、富士山の見える眺めは最高だし」
「だ、だめですよ。その気持ちは分かりますが、私達は京都に行かなきゃならないんです」

ぬくい足湯で、体がとろけてしまいそう。だけど私達にとってEXPASA足柄はあくまで休憩所だ。惜しむ気持ちで足湯を終え、タオルで拭いて身支度をする。

「おおっ、足が軽い!」
「本当。10分程度の足湯だったのに、すっかり疲れが取れましたね」

まだまだ足湯には入っていたかったけど、こういう後ろ髪を引っ張られる気持ちが「またここに行きたい」と思わせるのかもしれない。
足取りも軽くお土産屋を巡っていると、私は見知った店を見つけて足を止めた。

「常盤さん、『らぽっぽ』がありますよ!」
らぽっぽ? と常盤さんが首を傾げる。
「おいもスイーツのテイクアウト専門店で、私はここのポテトアップルパイが大好きなんです。砂糖を使わない、おいもだけの甘さを十分に引き出していて、サクサクしたパイがすごく美味しいんですよ」

話しながら、陳列された商品を眺める。サービスエリアにもらぽっぽがあるんだなぁと思っていると、ふと、ひとつのスイーツが目に入った。
「これ、足柄サービスエリア限定ですって。きんたろうのスイートポテト」

どうやら、足柄ブランドのきんたろう牛乳を使用しているらしい。美味しそうだなあと見つめていると、隣で常盤さんが軽く笑った。
「買って食べてみるか」
一も二もなく頷く。ふたつ購入して、駐車場に帰る道すがら、ぱくっと頬張った。

「んんっ、おいもを凝縮したような甘さがおいしい! 食べごたえのあるスイーツですね。しっとりしていて、舌触りがなめらかです」
「確かにボリュームがあるな。でも確かに、甘さが優しい」

常盤さんも美味しそうに食べている。足湯で体はぽかぽかで、おいものおいしさで心がほっこりした。
顔を上げると、そこには遠く、富士山が見える。

「景色も見ごたえがあって、いい休憩所ですね」
「全くだ」

私の言葉に、常盤さんがひょいと肩を上げる。空は快晴。富士山はくっきりと見えて、美しかった。

(イラスト:桔梗楓)

SHOP DATA
「EXPASA足柄(下り)」内「足柄浪漫館 足湯カフェ
静岡県御殿場市深沢1792
TEL(0550)70-0268

「EXPASA足柄(下り)」内「らぽっぽ
静岡県御殿場市深沢1792
TEL(0550)82-3633

書籍情報

※この連載は下記書籍のスピンオフストーリーです。
マイナビ出版ファン文庫より 3月20日ごろ発売予定!
おいしい逃走ツアー!  東京発京都行き ~SAサービスエリアグルメ食べ歩き~(桔梗楓・著 マキヒロチ・イラスト)』(旧題:ツアープランはサスペンス)

「第2回お仕事小説コン」優秀賞受賞!

旅行会社に勤める松川利美(まつかわりみ)と、その上司・常盤真(ときわまこと)が主人公。
ひょんなことから、謎の箱を京都に届けることになったふたり。だが、箱を狙う追っ手がやってきて…? 東京―京都間を、実在するサービスエリア等の美味しいグルメや京都などのご当地グルメを食べつつ、ドライブしながら謎の箱を持って逃げまくる、美味しくスピード感溢れるお仕事グルメミステリー! カバーイラストは大人気コミック『いつかティファニーで朝食を』『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』の漫画家・マキヒロチ氏の描きおろし!


【201704旅行・中部】​

 

プロフィール

桔梗楓(著者)
桔梗楓(ききょう・かえで)
娯楽小説を中心に物書きを営む。趣味はコンシューマーゲームと家庭菜園。ドライブ旅行は年数回のお楽しみ。2015年に『コンカツ!(アルファポリス刊)』が「第8回恋愛小説大賞(アルファポリス)」大賞を受賞し、2016年にデビュー。同年9月に『ツアープランはサスペンス』が「第2回お仕事小説コン」で優秀賞を受賞し、今年3月20日に『ツアコン・利美の食べ歩き逃走ツアー京都編(仮)~SA(サービスエリア)・ご当地グルメを食べ尽くせ(仮)~』と改題されてマイナビ出版ファン文庫より刊行予定。
※本連載は書籍『ツアコン・利美の食べ歩き逃走ツアー 京都編(仮)』のスピンオフストーリーです。