第6回 秋のお菓子便りと、少しずつ冬支度|くらしの本棚

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第6回 秋のお菓子便りと、少しずつ冬支度

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

紅葉の便りがちらほらと聞かれる頃。朝晩には、肌寒ささえ感じるようになりました。ついこの間、暑かった夏がやっと終わったと思っていたところなのに、早くももう、冬の気配だなんて。秋は短いのですね。冬生まれだからなのでしょうか、冬の寒さってそんなに嫌いではありません。「寒いー、寒いー」と言いながら、ひりひりするくらいの寒さを面白がっているようなところもある私です。

うちのオーブンは、システムキッチンにビルトインしたガスオーブン。設置しているLDKもそう広くないスペースだから、オーブンがこの時季ちょっとしたストーブの役目を果たしてくれます。朝、起き出して来て冷えたキッチンに立ち、簡単なお菓子や卵料理なんかを焼いているうち、お部屋がだんだんと暖まって来る。そんな日常の一コマが嬉しくなると、冬はもうすぐそこまで。

リビングに敷いているマットをふかふかの暖かなラグに取り替えたり、子どものワードローブ、Tシャツを半袖から長袖に入れ替え、少し厚手の上着を用意したり。磁器やガラスの器を選びがちだったテーブルに、ぽってりと厚みのある陶器を並べたくなっていることにふと気付いたり。暮らしも気持ちも、少しずつ、ひとつずつ、気付いたところからの冬支度をのんびり楽しんでいます。

さて、この秋、プライベートでおやつによく焼いているのは、マフィンとスコーンです。気取りのないお菓子だから、気を遣わないやり取りが出来るのも嬉しく、ささっとラフに包んで友人に届けたり、取りに来てもらったり。焼いた日にちょうど来客があれば、「おやつにどうぞ」くらいの気安さで、持って帰っていただいています。また、お菓子の持ちもよい季節、贈るお菓子を宅急便に乗せる機会も増えて来ました。こちらは、バターケーキとクッキーを組み合わせるのが変わらない定番。チョコレートを使った焼き菓子も、そろそろよさそうですよね。

フレーバー素材で目立って多いのは、コーヒーと紅茶。そしてもちろん、さつまいも。秋素材、ほくほく部門の三大選手、芋、栗、かぼちゃ。食べることに関しては、優劣付けられないくらいにどれも横一列で好きなんですが、お菓子やお料理に使うなら、まさに秋限定で出回る栗よりも、一年を通していつでも手に入る、フレンドリーなさつまいもとかぼちゃ。特にさつまいもには、深い親しみを覚えます。

ちょっと煮てバターケーキに焼き込む、ペーストにしてロールケーキのクリームに加える、スイートポテトやプリンにするなど、あれやこれやの工夫が楽しい日々。ですが、ただ蒸したり焼いたりと、素材そのままの形でいただくのが本当はいちばん好きで、手を加えない純朴な味わいが何よりのご馳走なのではないかな、とも。こう言ってしまうと、身も蓋もない。笑。そんなさつまいもの持つ自然な滋味に敬意を払いつつ、私なりの解釈でおいしいお芋のお菓子を焼きたいなとレシピを考える、毎年の秋です。

さつまいもの下ごしらえでは、時に手っ取り早く、電子レンジを使ってスピーディーにしてしまうこともままありますが、火でゆっくり加熱したさつまいもの甘さ、しっとりとしたほくほく感など、本当に別格。こんなに違うものなのかと、驚かされることも多いもの。

密閉度の高い厚手のお鍋で蒸し焼きにする。濡らしたキッチンペーパーとアルミホイルで二重包みにし、魚焼きグリルで焼き上げる。手を掛けず、時間だけ掛けて、じっくりと。掛かる時間の待ち遠しさも、さつまいもを甘く柔らかくしてくれるとっておきのスパイスと捉えて。

また、製菓材料店ではすぐに使えるおいしい材料、さつまいもあん、さつまいもペーストなど様々揃っていて、どんな味なのかなと時々試してみたりもしています。味や使い勝手を知る勉強になる上、自分で加工するプロセスをざっくり省略。ラクしておいしいものが作れるなんて実にありがたいこと。
一から全てを手作りでとこだわらず、便利なものには素直に甘え、メーカーさんの努力の結晶に助けてもらって。私のお菓子のある毎日は、頑張ることはあっても無理をしない、しんどくならない範囲での手作りがモットーです。お菓子作りは楽しいものじゃなくちゃ、ね。

今回のレシピは、はちみつとバターのしみたさつまいもに、カリカリの歯ごたえが香ばしいくるみを合わせて焼いたスコーンです。生クリームで作るから、まろやかな味わい。さっくりと軽い生地の中で、さつまいもとくるみがゴロゴロ入った、素朴ながら賑やかなレシピ。コーヒーにもよく合いますが、熱いほうじ茶とのペアリングも絶妙。これからの寒い季節、ちょっぴり和風なお茶の時間でほっと温まってくださいね。

さつまいもとくるみのスコーン

材料(10個分)

  • A 薄力粉 120g
  •   ベーキングパウダー 小さじ1
  •   きび砂糖 20g
  •   塩 ふたつまみ
  •  
  • B 生クリーム 100g
  •   プレーンヨーグルト 20g
  •  
  •   さつまいも 約120g
  •   はちみつ 15g
  •   バター(食塩不使用) 15g
  •   塩 ひとつまみ
  •  
  •   くるみ 40g

下準備

・くるみは粗く砕く。
・天板にオーブンシートを敷く。
※生クリームは乳脂肪分47%のものを使いました。
※くるみはオーブンやトースターで空焼きするか、フライパンで乾煎りしたものを使うと、より香ばしく焼き上がります。

作り方

①さつまいもは皮ごと約1cm角に切り、水にさらす。水気を切って鍋に入れ、はちみつと塩、水(分量外)をひたひたに加え、中火で煮る。水分が少し残る程度でバターを加え、静かに混ぜながら絡ませて水分を飛ばし、火を止めてそのまま冷ます。

②ボウルにAを入れ、泡立て器でぐるぐると混ぜてふるい合わせる。Bを合わせて加え、ゴムベラでさくさくと切るようにして粉に混ぜ込む。

③粉っぽさがまだ残るくらいで①とくるみを加え、さっくりと混ぜながら、ゴムベラを時々押し付けるようにしてまとめていく。だいたいなじんだら、手で軽くこねるようにしてざっとひとまとめにする。

④オーブンを180℃に温める。10等分して丸め、間隔をあけながら天板に並べ、180℃のオーブンで18~20分焼く。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。