第3回 簡単がいちばん、クランブルで作るタルト|くらしの本棚

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第3回 簡単がいちばん、クランブルで作るタルト

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

タルトは、秋の足音がそろそろと近づいて来ると、いちばんに焼きたくなるお菓子。9月から11月、私が全身に秋を感じて過ごす3か月の間で、手みやげやおもてなしに用意するお菓子を考えた時、まず頭に浮かぶのが、焼き込みタルトです。

土台になるサクサクのタルト生地を広げた型に詰めるのは、たっぷりのアーモンドクリーム。アーモンドクリームとは、アーモンドパウダー、バター、卵、砂糖と、少しの粉などを合わせたもので、火を通して味わうフィリングのこと。やわらかく目の詰まった、濃厚でしっとりとしたバターケーキのような生地は、アーモンドの風味がとても豊か。ジューシーな果物、ほくほく系の甘い野菜、ナッツや豆、どんな材料もおいしく包み込んでくれるんです。

ことのほか、秋の食材とはよく合うように感じていて、りんごやいちじく、洋梨、ぶどう、さつまいも、栗、かぼちゃなど、旬の味覚をぎっしりと焼き込めば、そこにはもう幸せしかないんじゃないかなと思えるくらい、ハッピーなお菓子が出来上がります。

今でこそ、何かにつけてはせっせと焼いているタルトですが、その昔、実は、敬遠していたお菓子だったんです。なぜって? それは、作るのが大変だから。笑。

タルト生地とフィリングと具になる素材、最低限3つのパーツを準備しなきゃならない。生地は幾度か休ませる必要があるため、出来上がるまで時間がかかる。生地を上手にきっちりと型に敷き込むことには、ちょっとした気合いとプレッシャーも。当然ながら、めん棒も不可欠、生地を伸ばし広げるための作業スペースも確保しなきゃならない。そして、いわゆる側面がひらひらのタルト型は、下準備も使用後のお手入れもひと手間かかる。

好きなお菓子なのに、自他共に認める面倒くさがりな私にとっては少々ハードルが高く、ここぞという場面にしか焼く機会のなかったタルトなのですが。

ある程度の経験と年齢を重ねる中には、様々な発見や気付きがあるものですね。当たり前のことと何一つ疑問に思わなかったスタンダードなタルトの形、固定観念や常識をいったんフラットにして、何のために、誰のために、どんなお菓子を作りたいんだろうと、少しだけ立ち止まってみたら。案外単純で易しい答えが、そこにはありました。

もちろんタルト生地も好きなんだけど、私がタルトのパーツの中で特に食べたいところは、アーモンドクリームの部分。だったら、チーズケーキみたいに、側面の生地はなくても土台だけあればOKなんじゃないかな。それならこれも、チーズケーキの土台作りに倣って、前もって土台の生地を伸ばしたりせず、ぽろぽろの状態の生地(クランブル)を型に入れ、指先で押し広げながら平らに詰めれば出来るはず。

売るためのお菓子ではないのだから、完成された美しさよりも、手作りならではの温かな小奇麗さがあればいい。大事なのは、作りやすいこと、作りたいと思えること。構えず、気負わず、作る工程から楽しめて、自分の感じる“おいしい”を形にすることが、私にとって優先したい大切なこと。

そんなふうにしてできた、クランブルで作る、底だけタルト生地のタルト。ひらひらのタルト型を使ったスタンダードな製法のタルトや、型を使わずフリーハンドで成形するタルトなども焼くのだけれど、頻繁に焼いているのはやはり、この形。私の今いちばんの、定番タルトです。

今回ご紹介するのは、りんごぎっしり、アーモンドクリームが主役のタルト。アクセントにラムレーズンを加えました。りんごは千切りにするから果汁がたっぷりとアーモンドクリームに移り、ひときわしっとりな食感。冷蔵庫で冷やして食べても美味。翌日には、底のタルト生地もアーモンドクリームとしっとり馴染んで、ケーキのようにいただけます。
りんごは、お好みの大きさの角切り、乱切りにしてもOK。切り方で食感や味の印象が変わって、面白いですよ。

手作業でも簡単においしく作れますが、フードプロセッサーがあればぜひ活用を。タルト生地、アーモンドクリーム共に、笑っちゃうくらいのスピードとラクさで、いい状態の生地に仕上がります。フードプロセッサーで初めてタルトを作った時、難しく手間のかかるものと思っていたタルト作りが一瞬で終わってしまい、ズルいことをしているような、何だかいけないことをしているような、そんな気にさえなったものです。手放せない私の片腕、フードプロセッサーについても、いつかまたゆっくりとお話が出来たらいいな、と思っています。

クランブルで作るりんごとラムレーズンのタルト

材料(直径15cmの底の取れる丸型 1台分)

●タルト生地
  • A 薄力粉 35g
  •   アーモンドパウダー 10g
  •   グラニュー糖 15g
  •   塩 ひとつまみ
  • バター(食塩不使用) 20g
●アーモンドクリーム
  • アーモンドパウダー 65g
  • バター(食塩不使用) 50g
  • グラニュー糖 40g
  • 卵(Mサイズ) 1個
  • 薄力粉 10g
     
  • りんご(小さめのもの) 1個
  • ラムレーズン 35g
  •  
  • 仕上げ用・・・粉砂糖適量

下準備

・クランブル用のバターは、1~1.5cm角に切って冷蔵庫で冷やしておく。
・アーモンドクリーム用のバターと卵は室温に戻す。
・りんごは皮と芯を除いて、せん切りにし(粗めでよい)、ラムレーズンを合わせておく。
・型にバター(食塩不使用)を塗る(分量外)。

作り方

①タルト生地を作る。ボウルにAを入れ、泡立て器でぐるぐると混ぜてふるい合わせる。バターを加え、指先ですり合わせるようにして粉と混ぜ、ぽろぽろのそぼろ状にする。

②型に入れ、指先などで底にきっちりと詰めて平らにならす。フォークでところどころ空気穴をあけ、ラップをかけて冷蔵庫に入れておく。オーブンを180℃に温める。

③アーモンドクリームを作る。別のボウルにやわらかくしたバターとグラニュー糖を入れ、泡立て器でよくすり混ぜる。アーモンドパウダー、溶いた卵、薄力粉を順に加え、その都度よく混ぜてなめらかな状態にする。りんごとラムレーズンを加え、ゴムベラに替えて、全体に混ぜ込む。

④ ②のタルト生地の上に③を流し入れ、表面をざっと平らにならし、表面に粉砂糖をふる。180℃のオーブンで40分ほど焼く。粗熱が取れたら型から出す。冷めたら好みで粉砂糖をふって仕上げる。

※フードプロセッサーで作る場合

1.タルト生地を作る。
フードプロセッサーにAを入れ、3~5秒回してふるう。バターを加え、スイッチのオンとオフとを繰り返し、ぽろぽろのそぼろ状になれば出来上がり。これ以降は上の②と同じ。

2.アーモンドクリームを作る。
フードプロセッサーにアーモンドクリームの材料全てを入れて撹拌する。なめらかになれば別のボウルに移し、りんごとラムレーズンを加えて、ゴムベラで全体に混ぜる。これ以降は上の④と同じ。

◎焼く前の生地にふる粉砂糖は、純粋なものを。焼き上がってから仕上げにふる粉砂糖は、溶けにくいタイプのものがおすすめです。
◎15cmくらいのセルクルをお持ちの方は、セルクルを使って。底からの火通りがよくなるので、しっかりと焼けます。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。