第1回 はじめてのお菓子の記憶|くらしの本棚

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第1回 はじめてのお菓子の記憶

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

はじめまして、こんにちは。稲田多佳子です。
本業は主婦、のつもりでいながら、お菓子とお料理のレシピブックを毎年数冊ずつ、マイペースで作っています。
1冊目の出版から数えて今年で12年、この春の『マフィン型で焼くケーキとお菓子』(マイナビ出版)がちょうど、30冊目の本になりました。
この連載では、お菓子を焼く日々にある楽しみや小さな幸せなど、私のお菓子な暮らしのひとこまを、気ままに綴っていけたらと思っています。コーヒーや紅茶片手のリラックスタイムに、ちょっとした隙間時間に、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

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私がお菓子作りを始めたのは、小学生だった頃。 お菓子を焼きたいと思ったきっかけが何だったのかは定かではないのですが、記憶の細い糸をたどってみれば、間違いようがないほど甘いものが大好きで食いしん坊な女の子だった私、好きな甘いお菓子を自分の手で作ってみたかった、という気持ちが多分、始まりだったのかな、と思います。普段のおやつにドーナツを揚げてくれたり、時々アップルパイを焼いてくれたりしていた母の影響も、少なからずあったのかも知れません。

初めて一人で作ったお菓子は確か、型抜きクッキーでした。キッチンというよりも、昭和の匂いのするこぢんまりとした台所で、丸いダイニングテーブルの上を粉だらけにしながらハートや動物の抜き型で生地を抜き、天板に並べる。そんな光景と、用意するものは粉とバターと砂糖と少しの卵、「へー、いつも家にある材料だけでお菓子って作れるんだねー」と、子ども心に感心した感覚が、頭と胸の片隅に残っています。

「バターを室温に戻すって、固さはどのくらい?」「ポマード状って何?」「混ぜ過ぎてないかな?」「生地を伸ばす厚さはこのくらいでいいの?」などと、誰に教わるでもなくイラストで説かれた子ども向けのレシピ本と、ひとりにらめっこ。未知なる世界に一歩足を踏み入れたような、ドキドキとワクワクに包まれながらの作業でした。

思っていた以上に楽しかったのが、クッキーの焼ける様子を見守る時間。不安半分、だけど躍る心でオーブンの中を覗き込むと、白かった生地がゆっくりと黄金色に色づいて、次第に深呼吸したくなるような、バターと粉の甘く芳ばしい香りが部屋中にふんわりと漂い出して。四角いガスオーブンがまるで、魔法の箱みたいに見えたものです。

そんなこんなで何とか無事に焼き上がったクッキー、肝心の味に関しては何だかパサッと粉っぽく、いかんとも言い難いような感じで、まぁ、普通に食べられるかな、くらいのものだったのだけれど。焼き上がった時の嬉しい気持ちや達成感はこの上なくて、お菓子作りってこんなに楽しいんだ!という気付きと実感が、大きくありました。そして何より、自分の作ったお菓子を誰かが喜んで食べてくれて、「おいしい」って言ってもらえることが、とにかく嬉しくて(本当はおいしくなかったはずなのにね。笑)。そんな気持ちが、お菓子をこよなく愛する現在の私に繋がって、今も、あの頃とそう変わらないごく普通の小さなキッチンに立ち、日々、お菓子を焼き続けているんだと思います。

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今回ご紹介するレシピは、軽やかなさっくり感に、ほろりと崩れるような生地感が自慢のシンプルなクッキー。私のお菓子を初めて食べてもらうなら、まずはこれかな、という定番的なお菓子がいくつかあって、そのうちのひとつ。これまで何度も焼いてきた、定番であり鉄板でもある、ご挨拶代わりのクッキーです。

原型は、いわゆるスノーボールとも呼ばれるクッキーのレシピで、どなたにも喜ばれる素直な味わいです。ここではキューブ形に作りましたが、コロコロッと小さく丸めたり、アイスボックスクッキーの要領で細長い棒状に成形して冷やし固め、カットして焼いたりなども、よくしています。
ちょっと変わった食べ方としては、冷蔵庫や冷凍庫に保存して、冷たく食べる方法。冷凍庫に置いてもガッチリ固く凍らないから、出してすぐに食べられるんです。ひんやりコリコリッとした食感が意外にもおいしくて、今の時季、暑い夏にも、また、冬場にもおすすめです。


ほろほろキューブクッキー

材料(15×15cmスクエア型1台分) ※切り分けて36個分

  • A 薄力粉 120g
  • アーモンドパウダー 75g
  • バター(食塩不使用) 75g
  • グラニュー糖 30g
  • 塩 ひとつまみ
  • 仕上げ用…粉砂糖(溶けにくいタイプのもの) 適量

下準備

  • バターは室温においてやわらかくしておく。
  • 生地が取り出しやすいよう、型にラップを敷き込む。

作り方

①ボウルにバターを入れ、ハンドミキサーでクリーム状に混ぜる。グラニュー糖と塩を加え、更によく混ぜる。Aを合わせてふるい入れ、ゴムベラでさっくりと混ぜてひとまとめにする。
②①を型に入れてきっちりと詰め、指先やスプーンの表面を平らにならす。ラップでぴったりと覆い、冷蔵庫でしっかりと冷やし固める(できれば一晩)。
③オーブンを170℃に温める。②を縦横6等分して36個に切り分け、オーブンシートを敷いた天板に間隔をあけて並べる。170℃のオーブンで15分ほど焼く。完全に冷めたら、粉砂糖を入れたポリ袋に数個ずつ入れ、やさしくまぶしつける。

※フードプロセッサーで作る場合

フードプロセッサーにバター以外の材料を全て入れ、3~5秒回してふるい合わせる。約1.5cm角に切った冷たいバターを加え、スイッチのオンとオフとを繰り返し、ほぼまとまれば出来上がり。これ以降は、上の②からと同じ。

◎スクエア型がなければ、生地をラップに挟むかポリ袋に入れ、めん棒で約15cm角にのばすとよい。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。