○目安は石の強弱
勢力圏を広げる際、特に意識するべきことは石の強弱です。強い石からはなるべく離れ、弱い石があればその近くに打つのが布石の基本で す。それは自分の石に対しても、相手の石に対しても言えることです。

3図をご覧ください。91ページの小林─今村戦です。黒1は右下白の勢力圏拡大を防ぎつつ、黒の勢力圏を広げる手ですね。ではなぜこの位置かと言えば、最大の理由は白△が非常に強いということです。石数が多いうえに連絡がしっかりしており、眼形も作りやすいです。また、これに比べれば黒△はさほど強い石ではありません(弱い石でもありませんが)。ですから、黒△との間を切られないよう、黒1と大ゲイマに打ったのです。また、この後白aのツメ、黒bのヒラキは当面急ぎません。どちらが打っても、強い石から小さく地を増やすだけの手になるからです(黒1により、黒△が強くなっています)。なお、黒×が弱い石なので、黒1では黒cなど左上に打つ手は当然考えられますが、なぜそう打たなかったかについては第3章で解説します。

さて、それでは3図黒1で、4図黒1まで進めるとどうなるでしょうか? すると、白2などとすかさず打ち込んでくるでしょう。白6まで、明らかに黒が攻められています。この後、白aと打たれると右辺黒が非常に苦しくなりますし、白bと打たれると黒△がいじめられそうです。黒は石の強弱の判断を怠ったばかりに、あっという間に不利な戦いに引きずり込まれてしまいました。
このように、相手の強い石に近付いても得るものがないうえ、非常に危険です。お互いの石の強弱をしっかり確認する癖を付けておきましょう。これは皆様が対局する際、ぜひ心がけて頂きたいことです。ただ、分かっていても、途中でつい忘れてしまうという方も多いのではないでしょうか。対局中は色々なことが気になってしまうものですからね。また、視野が狭くなり、碁盤の一部分しか目に入らなくなってしまうこともあるでしょう。その点、棋譜並べは安定した練習方法と言えます。相手の着手に心を乱されるようなこともなく、落ち着いて碁盤全体の状況を確認しながら並べることができますからね。慣れてしまえば、特に意識せずとも、自然と石の強弱を判断するようになるでしょう。対局の際にも、忘れることがなくなります。
『やさしく語る 棋譜並べ上達法』は「碁の本質」「布石の原則」「碁の大局観」といったテーマで、丁寧な解説が大好評をいただいている「やさしく語る」シリーズで「棋譜並べ上達法」をテーマにした書籍です。
Amazon
マイナビブックス