【AIとサービス】SENSYー感性データでパーソナル化 事例詳細|つなweB

感性をデジタル化する

多量のデータを人間より高速かつ正確に分析するというのが、現在AIの利用方法として多いものとなっていますが、SENSYでは、ユーザーの行動履歴などを元に、人間の“感性”をデジタル化しさまざまな分野で活用できるようにしています。つまり、AI登場以前には具体的な指標が持てなかったものが、判別できるようになったというわけです。その仕組みを、SENSY(株)代表取締役CEOの渡辺祐樹さんはこう話します。

「SENSYのベースにあるのは感性工学という学問で、人間の感性を分析することにAIを使っています。感性が形成されるのには何かしらの要因があるはずです。しかし、それは非常に複雑な因果関係を持ち、同じ人でも感性は常に変化をしています。そのため、これまでは分析をするのは困難でした。そこをディープラーニングによって複雑な因果関係を分析し、感性をデジタル化可能にしたのがSENSYの機能です」

そうしてユーザー個々のファッションセンスや味覚といった感性を導き出しています。

 

感性を活用するためのさまざまなサービス

同社では、感性を元に、来店や購買といったビジネスに繋がる行動を予測・促進させるサービスを提供しています。

「人間の感性を分析するSENSYがすべてのサービスの基盤エンジンになっていて、そこで誰がいつどこで何を買うというようなことを予測します。そうした予測を各サービスがアプリ的に機能し、それぞれに搭載したAIによって具体的な機能へと落とし込んでいます」

このとき、顧客の平均像ではなく、個々の感性を分析している点が大きな特徴です。そうしたデータを元に現在提供しているサービスには、需要予測・生産計画などを行う「SENSY MD」(01)、パーソナライズしたDM発行などができる「SENSY Marketing Brain」(02)、アパレルのECサイト上でコーディネート提案ができる「SENSY CLOSET」、試飲データを元に個々の好みに応じた飲料を提案してくれる「SENSY Sommelier」、チャットボット「SENSY bot for biz」、チャットボットと有人サービスセンターを連携させる「SENSY Chat Desk」があります。

「特に需要が高いのが、業種問わずマーケティングに活用いただけるSENSY MDとSENSY Marketing Brainです。前者は、アパレル業界を中心に百貨店、スーパーなどの小売業で導入されています。たとえばアパレルの場合、発売から一定の期間で売れ残ったものは一律30%値引きというようなことをやってきましたが、個々の顧客の購買データを分析し、『これはまだ定価でも買ってくれる人が多くいそう』『これは値引きしたら買われそう』という予測を立て、商品ごとに細かな調整を行い、無駄な値引きや売れ残りを極力なくすようにしていきます。そして後者は、ユーザー一人ひとりの属性や購買履歴などを元に個々の感性を紐解き、DMに掲載するキャッチフレーズやレコメンドする商品、デザインなどをパーソナライズしていくものです」

 

個々のユーザーに寄り添ったビジネスを実現

一般的に、AIを活用する大きなメリットとして作業の効率化が挙げられますが、SENSYはそうした発想と逆行する考え方をしています。

「クライアント企業と最初に打ち合わせをする際、顧客一人ひとりに担当者がつき、予算や時間を無制限にかけられるとしたら、どういう業務が設計できるかというところからディスカッションしていきます。いかに業務を効率化するかではなく、これまでコスト面などで不可能だった高度な業務をいかにAIで効率化して実現していくかと考えていくのです」

たとえるなら、小さな食堂の店主が、常連さんそれぞれの味覚にあわせて味付けをカスタマイズしてくれるようなおもてなしを、AIによって大規模でも実現していけるようになるということ。ペルソナのように顧客の平均像を見出す考え方とは根本的な発想が違ってきます。

「顧客が100万人いたら、100万人のペルソナを表現するモデルをAIでつくるというのが弊社の考え方です。顧客の好みは多様化し、商品・サービス自体も多様化している昨今、パーソナルにアプローチしたマーケティングがより重要になってきていると感じています(03)」

 

企業は感性をどう活用しているのか

もともとアパレル向けのサービスから始まった同社ですが、現在は食品や化粧品、飲料、インテリアといったメーカー、スーパーマーケットなどの小売業、金融などとクライアントの業種の幅も広がっています。

「アパレルではAIで出した販売予測を元に各店舗の店長さんの考えを加味して入荷をすることで、人間の経験値をAIにもフィードバックさせたり、保険会社では既存顧客の解約防止に活用されたりもしています。利用される業種が広がるたびに、パーソナライズした感性の用途が広がっていきました」

これまであいまいだった感性が具体化し、顧客一人ひとりに対峙できるようになることで、マーケティングの考え方も大きく変化していきそうです。

 

 

平田順子
※Web Designing 2018年10月号(2018年8月18日)掲載記事を転載

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