人工知能型チャットボットー導入前に知っておきたいこと 事例詳細|つなweB

1. 人工知能型チャットボット導入の3大メリット

はじめに、AIを搭載した「人工知能型チャットボット」を導入するのに、最適なケースを整理しておきましょう。

もっともわかりやすいのは、コールセンターを設けるほどの規模で有人の問い合わせ対応をしているような現場に対して。割かざるをえない人手や工数の代替手段として導入されています。

もしくは、WebサイトにFAQページを用意はしているものの、そのボリュームが膨大で、ページを利用してもユーザーの知りたい情報が見つけられないケース。チャットボットがあれば、ディレクトリの奥深くに眠るコンテンツを探す手間が省けます。ユーザーに大きな負荷がかからず、運営側の管理負担も軽減されます。

チャットボットを導入するメリットは、大別すると、3点が挙げられます。1点目は「コスト削減」。人手や工数の代替手段として機能すれば、単純に人件費が削減できますし、採用費などの周辺的なコストも軽減できます。数値化しやすいので、コスト削減は目立つ理由ですが、メリットはそれだけにとどまりません。

2点目が「業務効率」です。例えば、問い合わせの同時対応率や対応数の改善。同時に5人からの問い合わせが入ったとして、今までは2人に対応中、3人は待機だったのが、電話以外にチャットボットがあると、問い合わせ先が分散され、有人での対応率が上がります。同時対応率が良くなれば、必然的に対応できる数も増えるでしょう。

しかも、無人のチャットボットなので、24時間365日対応が可能。夜中の対応もできます。有人対応なら受付時間外で、メールの受け付けや問い合わせフォームだと、電話ほどでないけれど面倒といった心的な負担や、すぐに返答が来ないデメリットもあります。コンタクトをとろうと来訪したユーザーとのつながりを失い、機会損失になりかねないのです。

3点目は、今まで気づけなかった、マーケティングのニーズを拾えるようになること。チャットボットには会話のログ(履歴)が残るので、ログからお客様の要望が拾いやすくなります。中身を分析できれば、マーケティングデータとして業務改善にも結びつけられます。

最終的には、これらのメリットをベースに導入に踏み切るかどうかです。例えば、アイアクトでは日本語理解の優位性を持つIBM Watsonベースの「Cogmo Attend」というチャットボットを開発しています。一問一答式ではないので、AIが学習を通じて違う言葉、異なる言い回しにも対応でき、会話が分岐してもその内容を受けて続けていくことができます。では、導入によって一定の効果が得られた場合、どの部門がどれほど貢献したと解釈すべきでしょうか? 速やかに対応できたことと、将来的なコンバージョンにどう因果関係を見出すのか? 導入を検討する場合は、ここまで踏み込んで検討しておくべきでしょう。

 

2. テスト導入して、自社にとっての効果の意味を探ろう

約1年前に本誌でAIを特集した当時(2017年)と今(2018年)を比べると、現場担当者を中心にAIへの理解は確実に進んでいます。かなり精通している担当者のみなさんが増えてきて、テスト導入に積極的な企業も格段に増えています。

1年前が“徐々に社内で導入してみよう”というケースが出てきた時期とするなら、2018年は明らかに社外向けサービスとして導入するケースが増えています。一方で、コスト削減という単純な話だけでなく、導入の成果は多角的な考えに基づくので、一つの決まった指標を示しづらい。そこで増えているのが、ゴールイメージは「社外向けの一般サービス化」としながら、最初にスモールサイズで試すという選択です。小さくはじめてみながら、会社ごとで指標の形、評価体系、考え方をつくっていくわけです。最初はKPIの体感値がない中での導入ですが、ためらう時間がもったいない。そう判断した場合に、小さな規模で、社内向けに運用してみる傾向は、今後さらに強くなると想像します。

他にも、導入時によくある相談内容として、AIは搭載するべきかどうか。ボタン遷移による自動応答で解決することなら、AIを搭載しない人工無脳型でも対応できます。あらかじめ項目を並べておき、ユーザーに選択してもらうフローで完結可能なら、開発費や運用費が下げられて、導入のハードルも低くなります。

ですが、少しでも細かな商品の説明について回答できるようにしたいなら、人工知能型は機械学習していきますし、設定する手間は人工無脳型より楽だったりもします。機械学習させたコーパス(自然言語のデータベース)も手元に残ります。これは会社ごとのオリジナルの資産になります。人工知能型だと月額10万円程度からの運用でテストできる状況なので、例えば1年間、1名の派遣社員を雇う代わりに、といった予算感でトライ可能です。

 

3. Q&Aリスト作成後、約1カ月で本格的な運用が可能

チャットボットに限らずAI技術で起きていることは、CMSで起きていることに似ています。無償で使えるWordPressは制作者自らが手を動かすには手軽でしたが、企業のWeb担当者が独力で使おうとすると、手が出しづらいですよね。管理画面が使いやすいわけではありませんし、サポートも自己責任。ビジネスで使う場合、その多くがサービスやサポートが行き渡った商用CMSを利用しているのが現実です。

AIも同様です。自社で何から何までやる選択もあれば、パートナー企業がつくる“運用しやすい”仕様/サービスを活用しながら、AIの知見を貯めていく手もあります。その先に、将来的な自社だけでの運用も視野に入るのかもしれません。自社にとって継続的に取り組める仕組みかどうかは、導入における大きな判断材料の1つです。

では、パートナーを見つけて「いざ導入」を考えた場合、運用開始までの時間はどれほどかかるのか? アイアクトを例にすると、Q&Aリストの数が60問前後であれば、リスト作成後から約1~1.5カ月くらいが公開までの目安です。100問以上になると、2カ月強は見ておきましょう。

Q&Aリストについては、すでにFAQページを持っていれば、そのデータを活用することが可能です。また、パートナー企業と進める場合、パートナー企業次第ですが、リスト作成を託すこともできますし、30問はパートナー企業に作成してもらい、つくり方のレクチャーを受けた後、追加30問は自社でつくる、といった対応も可能です。別事業への横展開を視野に入れていたり、知見を重ねていきたい企業は自社で用意するとノウハウも蓄積しやすいでしょう。導入する目的によって、リストのつくり方も変わるのです。「ここから先は有人対応に切り替え」といった機能も搭載できるので、目的と設計はきちんと詰めていきながら進めましょう。

昨今はLINEなど主流アプリとの連携で使われるケースも増えています。新たな打ち手として、現実的な予算で、ますますチャットボット活用が身近になるでしょう。

 

教えてくれたのは…西原中也_Chuya Nishihara
(株)アイアクト CTO。2001年、(株)アイアクト入社。前職である編集の情報整理力とシステムの知見を活かし、メディア運用から大規模システム構築など幅広くWebに関わる。2016年にWatson連携の会話ロボットを製造。以降Watson、人工知能の事業責任者。人工知能学会会員。東京大学中退。浄土真宗本願寺派の僧侶でもある
遠藤義浩
※Web Designing 2018年10月号(2018年8月18日)掲載記事を転載

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