文章の目的は、情報を正しく伝えること ならば文章は「短く」、「能動態」で書け! 事例詳細|つなweB

今日は時間がないので長い手紙になる

現在、私はライターさんの書いた文章を校正する仕事をこなしています。さまざまなタイプの書き手さんの原稿を拝見するのですが、その作業のなかでとにかく多く指摘するポイントが2つあります。まず一つが「ひとつの文が長いです。2文か3文に分けましょう」ということ。もう一つが「受動表現を止め、文章に責任を持ちましょう」というもの。この2つのポイントを知らないで原稿を書くと、とにかくその内容が理解しにくいものになるうえに、文章自体の責任の所在が極めて曖昧になってしまいます。本連載の第1回で、私は次のように書きました。「サイトに掲出される文章は、正しく表現し、作り上げたコンセプトが誤った形で伝わるのを防ぐ必要がある。表現を間違えると、作ったもののブランド価値を落としうる」。文章は、サイトの、いやその奥にあるサービスや企業の顔なのです。長ったらしく冗長な表現を止め、受動表現を極力避けた、凛々しい文章が必要です。ひとつずつ説明していきましょう。

さて、はたしてひとつの文章の長さはどのくらいが適切でしょう。これは教え手、書き手によって違いはありますが、私は「60文字以内」を一つの基準としています(多少の揺らぎはOK)。これを超えてしまうと、主語と述語の関係にねじれが生じたり、修飾の順序が乱れたりと、いろいろな問題が発生するもの。例文を書きましょう。

【悪い文】20XX年の日本の総広告費は、継続する景気拡大に伴いX兆0,000億円(前年比XXX%)となり、X年連続でプラス成長となったが、媒体別にみると、インターネットSNS広告費の伸長に反し、雑誌広告費は前年比XX.X%と大きく規模を縮小してしまったために、新聞を含めた紙媒体だけを切り取ると、その規模は年々縮小していると言わざるを得ない。

一文が168文字。極端な例ですが、このくらいの文章は現実的によく見かけます。複数の主述関係が内包されているため、理解に負担がかかるのです。

【良い文】20XX年の日本の総広告費は、継続する景気拡大に伴いX兆0,000億円(前年比XXX%)となり、X年連続でプラス成長となった。だが、媒体別にみると、インターネットSNS広告費の伸長に反し、雑誌広告費は前年比XX.X%と大きく規模を縮小している。新聞を含めた紙媒体だけを切り取ると、その規模は年々縮小していると言わざるを得ない。

3文(一文50文字前後)に分けてみました。いかがでしょう。「文章の理解しやすさ」という意味では、劇的に改善していると思います。フランスの哲学者・数学者のブレーズ・パスカルは、こう言ったそうです。「今日は時間がなかったので、申し訳ないが長い手紙になる」。そう、わかりやすい文章とは、常に短く整理されたものであるべきなのです。

文章から説得力を奪う受動表現という罠

2点目。文章は、「誰が、何のために」書いているか、という責任の所在が重要です。しかし、文章のなかには「と考えられている」「と言われる」など、一体誰が主体者なのかわかりにくいものが散見されます。このような受動表現になるのは、「自信がない」「根拠がない」「体験したことではない」といったことが原因。もちろん「予測」や「一般論」など断言できない事象の説明文では受動表現を用い、その事実の不確実性を示すことはあります。しかし、「明確な事実」「調べたこと」「体験したこと」は、書き手は自信を持って能動表現にしないとなりません。

【悪い文】出版市場、とりわけ雑誌の落ち込みの原因は、インターネットの隆盛が原因と考えられる。一方で、書籍市場はまだまだ活気があるとされ、その落ち込みのスピードは雑誌よりも緩やかと言われている。

【良い文】出版市場、とりわけ雑誌の落ち込みの原因のひとつは、インターネットの隆盛が原因だと考える。一方で、書籍市場はまだまだ活気があり、その落ち込みのスピードは雑誌よりも緩やかと言える。

責任を持った能動表現が、その奥にあるメディアの信頼を生みます。「考えらえる」「される」「言われる」で、姿の見えない第三者発信に逃げるのは止めにしましょう。さて、今回の例文は奇しくも雑誌業界の不況を伝えるものとなりました。しかし、その例に反し、「WebDesigning」は今日も雑誌の体裁で発行され続けています。その理由は、岡編集長の巧みな媒体マネジメント力であると考えられます(ここは根拠が不明なため、文責をあいまいにさせていただきます)。

受動表現は、文章内容としては「別におかしくない」のが怖いポイントです。チェックする側も「内容がわかるし、いいか」となりますが、やはり文章全体の印象がぼやけてしまうもの。自身の体験や正しいエビデンスをもとに書く文章ならば、「だ・である」としっかりと言い切りましょう。
まついけんすけ
株式会社ワン・パブリッシング取締役兼メディアビジネス本部長。20年間雑誌(コンテンツ)制作に従事。現在はメディア運営のマネジメントをしながら、コンテンツの多角的な活用を実践中。自社のメディアのみならず、企業のメディア運営や広告のコピーライティングなども手掛ける。ウェブサイトのディレクション業務経験も豊富。
松井謙介
※Web Designing 2022年4月号(2022年2月18日発売)掲載記事を転載

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