一般名称になった商標 ~商標の希釈化~ 事例詳細|つなweB

シンガーソングライターの瑛人さんが歌う楽曲「香水」が2020年、人気を博しています。有名ブランドの香水が登場する歌詞とメロディがとても印象的です。

「DOLCE & GABBANA(D&G)」は商標登録されています。商標は自分の商品やサービスを他社の商品やサービスと区別するための目印です。瓶やパッケージに「D&G」という商標をつけることで、シャネルやティファニーといった他社の香水と区別することができます。消費者は商標を見ることでそのブランドを認知し、信頼をして商品を購入するわけです。もし真っ赤な偽物に商標がついていたら消費者の信頼は損なわれ、ブランドに対するイメージも悪くなってしまいます。

ところが、商標が特定のブランドではなく、その商品の一般名称として使われるようになってしまう場合があります。裁判で一般名称になったと認められた商標には、うどんなどの食材をだし汁で煮込む鍋料理?「うどんすき」や、ぶどうの品種「巨峰」などがありま す。これらは商標として登録されているのですが、裁判所によって一般名称になったと判断されました。

一般名称になったということは、もはや他社の商品やサービスと区別する目印としての機能が果たせていないということです。ですから商標権を持っていなくても「うどんすき」という名前の料理を提供したり、「巨峰」という名前の葡萄を販売したりしても商標 権侵害にはなりません。

一般名称になったかどうかは、その商標が社会でどのように使われているかで判断されます。裁判で争われる場合は、?さまざまな用例からも検討されることになり、辞書に一般名称として掲載されているかが最も有効な例です。新聞やWebの記事であった り、場合によっては「多くの人が一般名称として使っているか」のアンケート調査を実施することもあります。

もし商標登録されている言葉を一般名称であるかのように使ったりすると、商標権者からクレームがきたり、法律的には不正競争防止法違反とされる可能性もあります。Webサイトなどでも「~は~社の登録商標です」といった記載を目にすることがありますが、その用語が普通名称ではないということを明らかにして、商標権者からのクレームを避ける狙いで書かれます。

瑛人さんの「香水」はD&Gの「その香水」という、特定ブランドの香水という意味がはっきりした表現になっています。普通名称として使っていないことが明らかなため、クレームの対象にもならないのでしょう。これがD&Gの「香り」という言い方だったら、「D&G」を一般的な香水を指す言葉として使っているとしてクレームが来たかもしれません。Webサイトなどでも登録商標の取り扱いには気をつけましょう。

「うどんすき」「巨峰」など、社会で一般的に使われているような商標は、商標としての役割が希釈化し、一般名称化していると言える
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2021年2月号(2020年12月18日発売)掲載記事を転載

関連記事