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らしさをえがく Web Designing 2020年8月号

意味を突き詰めて境界を超える 何を想い、どう形にするか。CIデザインの裏側に迫る

ブランド統合というと、各ブランドの特長を組み合わせたり、どちらかを軸にするやり方が考えやすいでしょう。ただ、「統合にどんな意味があるのか」「そもそもサービスの価値は何なのか」を突き詰めると、文字通りの「統合」に留まらない「進化」を遂げることができます。今回、ヘイ株式会社による主要事業のブランド統合事例を取材しました。 

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ヘイ株式会社
コイニー株式会社とストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社の経営統合によって誕生。「お店のキャッシュレスサービス」と「ネットショップ開設/運営サービス」を「STORES」として開発、提供する。

[Start]統合による事業アップデート

2020年1月30日、新しいサービスブランド「STORES(ストアーズ)」がリリースされました(01、02)。背景には2018年2月、実店舗向けキャッシュレス導入サービス「Coiney(コイニー)」とネットショップ開設・運営サービス「STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)」が経営統合されて、それぞれが「ヘイ株式会社(hey)」の傘下になっていたことが挙げられます。

もともと、2020年春以降にテレビCMなどの各サービスのプロモーションを計画していたこともあって、その前のタイミングで、両者のサービスブランドを統合することを決断。新たなブランドでスタートを切ることにします。

「hey創立当初は組織統合を優先してきましたが、世の中の変化は速いです。私たちのサービスを通じてビジネス展開するお客様が、オンライン/オフラインに関わらず事業の幅を広げている昨今、お客様の動きに各サービスが追いつくには、バラバラのままでなく1つにブランド統合すべきだと経営判断しました。資金調達なども行い、財務やリーダー層の人材確保など経営側の基盤が整っていたことも後押ししています」(松本隆応さん)

2つのブランドが1つにまとまることで当然浮上するのが、統合後のサービスロゴをどうするかという問題です。

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01_ブランド統合後の新しいサービスロゴ
2020年1月、ネットショップ開設・運営サービス「STORES.jp」と、キャッシュレス導入サービス「Coiney」がブランド統合し、新たなサービスブランド「STORES」が誕生。そのロゴデザインには「STORES」の世界観が反映されている
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02_ブランド統合の概要
ネットショップ運営者向けの「STORES.jp」と、実店舗向けの「Coiney」が統合。新たなサービスブランドのもとで、前者は「STORES」、後者は「STORESターミナル」「STORES請求書決済」としてサービス自体は変わらず提供されている

 

[Process]チームで議論を繰り返す

ロゴ刷新を決めると、2019年10月、代表取締役社長の佐藤裕介さんをはじめとする経営層が新ロゴデザインの開発に向けて動き出します。ブランドデザインを担当するチームは、Coiney出身のリードデザイナーである松本隆応さんとデザイナーの三浦巧さん、STORES.jp出身のデザイナーである荒木脩人さんの3名を中心に、コンセプトメイキングで協力を仰いだ外部パートナー2名を加えた計5名で編成されました(03)。

「経営層と意見を交わす際に、考えや意向を引き出すには言葉の説明だけでは前進しないため、常に複数のビジュアル案を携え、ビジュアルを叩き台に経営側の内面に秘めている言葉を引き出したいと考えました。引き出した言葉が、さらにブランドコンセプトの強度を高め、チームの議論も活性化し、再度ビジュアルに反映し直すといった相互作用を起こしながら進めていました」(松本さん)

このブランド統合には、すでに確立していたサービス同士の統合だからこそ、一筋縄ではいかない背景がありました。

「Coiney側からするとサービス名称が跡形もなく消えてしまいます。そのため、思い切りや覚悟が伴う大きな変化を意味しました。STORES.jp側からしても、2019年7月10日にSTORES.jpのリブランディングをリリースしたばかりで(笑)。このリブランディングとブランド統合は別の経営判断で進んだプロジェクトだったので、短期間での再変更は、ストアオーナーさまやストアでの購入者さまに混乱を生み、リスクにならないかという懸念がありました」(荒木脩人さん)

ただ、そうした懸念がありながらも、スタートアップ企業らしく「それらを乗り越えてでもやり遂げる」という経営陣の思い切った決断があり、ブランドデザインチームもそれに応えます。そして、単なるブランドの統合やロゴデザインに終始することなく、自社のサービスそのものを見直すような徹底的なブランドデザインが展開されていきます。

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03_社内デザイナーが中心のチーム体制
今回の取材に登場した松本さん、三浦さん、荒木さんの3名の社内デザイナーを中心に、外部パートナーとともに「ブランドデザインチーム」が発足。経営層とコミュニケーションを取りながらプロジェクトが進められた

 

[Breakthrough]第三者の視点を取り入れる

ブランドデザインチームは、週に1度の定例会議で全員が集合。ステークホルダーを交えながらその都度出てきた複数のデザイン案、コンセプト案を持ち寄っては批評や検討を行い、出てきたフィードバックを反映して改善案へと洗練させていく、というサイクルを続けていました。定例会議のほかにも、経営層とチームをつなぐメッセンジャーも利用し、意見交換や意思疎通を欠かさないようにしていたそうです。

ユニークな点は、制作期間中はずっと、オープンスペースの一角をプロジェクトルーム的なスペースとして利用していたこと(04)。ミーティングルームを終日押さえられないなど、社内事情も絡んだ措置でもありながら、結果として限られたメンバーでの作業を避ける形となり、全社的に工程が公開された状態になりました。

「オープンスペースにある卓球台1台とホワイトボードを借り、社内の3名は出社早々直行して、延々とやっていました。当初はコンセプトがすぐに決まるだろうと思っていたので、やりやすい形で始めましたが、なかなか決まらず(苦笑)。案をつくり出す過程も社内でオープンになっていました」(荒木さん)

「ホワイトボードや卓球台には、ひたすら考えた案を複数置いていたり、コンセプト案を付箋で貼っていたりしたので、直接関わっていない社員たちもそれらを覗いてくれていました。意外だったのが多くのエンジニアが声をかけてくれて、率直な意見や感想を伝えてくれました」

キーワードやコンセプトとビジュアルとの突き合わせを繰り返す日々だからこそ、第三者的な観点が発想の風通しをよくし、メンバー間の内向きになりがちな視点を引き戻す作用もあったようです。

また、最終候補案は、長年懇意にしているオーナーなどに見てもらったそう(05)。

「辛辣かつ愛のある指摘をもらえました。一方で、STORESの新たな歩みに理解を深めてもらう機会にもなったと思います」(荒木さん)

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04_社内オープンスペースが拠点に
いわゆるプロジェクトルームのような拠点はオープンスペースに設けられた。会議室の制約があったのも大きな理由だが、通りがかりの社員が意見をくれるなど、ポジティブな効果もあったとのこと
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05_最終案にユーザーからフィードバック
最終候補案を絞った段階では、実際にサービスを利用している複数のストアオーナーを訪問。ポジティブな意見、ネガティブな意見など、さまざまなフィードバックを丁寧にもらい、その後の判断に役立てた

 

[Output]辿り着いた挑戦的なビジュアル

試行錯誤の末に決めた指針、タグラインは「Go Original」という言葉でした。ロゴとともに、STORESらしさを伝えるものとして使われています。

「実は当初、内部ではこの言葉へのアレルギー反応が強くありました。ここまではフレンドリーでポップな印象を大事にしていたので、Originalという言葉が強すぎる、となったからです」(松本さん)

内部メンバーだけでは発想が内向きで、延長線上から外れない議論になりがちです。その点では、オープンスペースという環境だけでなく、外部パートナーの存在も大きな効果を発揮します。定例会議以外でも外部パートナーと意見を交わし続けたことで、内側からは出てこないベクトルに気づけたそうです。メンバーたちは、改めて「Original」という言葉の意味を問い直し議論を重ねながら、これまでにはない納得度を徐々に深めていきます。

「当初は直感的に“無理!”と思うほど、違っている言葉に感じていましたが、コンセプトを改めて根本から見つめ直す機会となって、英語としてどうか、日本語がいいのではないか、などの話も加わったのもよかったです。以降、ビジュアルの受け止め方も変わりました」(荒木さん)

並行して進めていたロゴのビジュアルにも作用があり、行き着いたのはグラデーションを施したデザイン(06)。新ロゴはエンドユーザーとともに、サービス利用側(オーナー)が使うダッシュボードや決済端末などにも出てきます。「商売を支えるサービス」という裏方の立ち位置を考慮すると、グラデーションは主張しすぎ、と当初は敬遠していたのです。

「サービスブランドとしての存在感を考えると、STORESは挑戦者という立ち位置です。最終的には、事業の多様性という意味も込められるグラデーションを採用して、ブランドイメージのユニークさにも挑もう、と決断しました」(松本さん)

新生STORESは、複雑な要因と実行に至るスタートアップならではの機敏さの両面に支えられていたのです。

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06_グラデーションを施したシンボルデザイン
ロゴ内のシンボルデザイン(上)は、「人々の創造的な活動の流れに寄り添いながらも、ひとつなぎとなることで、大きく世の中に新しい流れ(Stream)を共につくり出していく」というビジョンを表している。グラデーションの色味は「新しい時代のはじまり」という想いを込め、朝焼けをイメージ。細やかな色合いを再現すべく、彩度と色相からバリエーション出しを実施した(中)。このシンボルを用いた最終案に行き着くまで、さまざまな案が出され、約3カ月間に及んだブランドデザインは試行錯誤の連続だったという(下)

 

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松本 隆応
ヘイ(株)/コイニー(株) リードデザイナー
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三浦 巧
ヘイ(株)/コイニー(株)デザイナー
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荒木 脩人
ヘイ(株)/ストアーズ・ドット・ジェーピー(株)デザイナー

掲載号

Web Designing 2020年8月号

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2020年6月18日発売 本誌:1,560円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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●今まで培ってきたデザインのスキルを広く活躍させたい制作会社のデザイナー、ディレクター
●ビジネスにおいて苦しい状況だが、乗り越えようとしている全てのビジネスマン

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