Webクリエイターの移住・交流に役立つ!自治体支援の概要 事例詳細|つなweB

RESEARCH #1 地方移住・交流地方への関心

都市と地方自治体のマッチング

近年「地方創生」や「関係人口の増加」といった文脈で、地方移住や多拠点居住・事業展開といった新しい働き方に対する関心が高まっています。しかし、それを受け入れる側の地方自治体の支援体制や地元経済の状況については、よくわからないというのも実情です。そこで、全国規模で移住・交流希望者のマッチング業務を行なっている一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)に現状を伺いました。

ニッポン移住・交流ナビ
地方への移住や交流に関わる情報が集まるポータルサイト。「自治体支援制度検索」「地域おこし協力隊」「空き家情報」といった情報に加え、相談会やお試しツアーなどのイベント情報が掲載されています

「人口減少や超高齢化といった大きな流れ自体は地方に共通している課題ですが、実際の地域の抱える課題は実にさまざまです。一方で、移住を希望される方のニーズもますます多様化しています。以前は仕事をリタイアして自然の豊かな農村で『田舎暮らし』というイメージでしたが、若者や子育て世代の就労や、地方で事業展開したり起業したいといった目的で注目している動きも増えつつあります」(植田賢さん)

都市部の人材が持つ多様なスキルと地方自治体や企業が求めているニーズとのマッチングという難しい課題に対して、全国47都道府県の1,400を超える地方自治体と44社の法人会員(7月1日時点)が参加するJOINでは、さまざまな形で情報発信や交流イベントの開催に務めています。

「移住・交流希望者への情報発信という意味では、ポータルサイトである『ニッポン移住・交流ナビ』、『地域おこし協力隊』のWebサイト、そしてJOINの公式Facebookページの3本柱となっています。また、これと連携する形で『JOIN移住・交流&地域おこしフェア』というリアルイベントも開催しています。昨年の来場者の傾向を見ると69%が40歳未満なので、若い世代の注目が高いようです」(植田さん)

 

受け入れ側の意識に変化はあるのか

ニッポン移住・交流ナビに掲載されている情報は、基本的に自治体や企業側が登録するものであり、JOINとしてはプラットフォームを提供する立場であるとする植田さん。しかし、地方自治体職員としての経験から、受け入れ側の課題意識や姿勢を読み解くためのヒントを教えてくれました。

「地方自治体の課題意識や求めていることはさまざまです。同じ道府県であってもエリアごとに課題が異なることも珍しくありません。自治体支援制度の内容をよく読んでいくことで、それが見えてくるのではないでしょうか。また、制度の詳細について最終的には各自治体のWebサイトで確認していただくのが確実です」(植田さん)

同サイトに登録されている4,000件以上の自治体支援制度の内容を読んでいくと、農林水産業など地場産業の純粋に人手不足を補うための施策から、地域経済の新たな可能性を広げるための施策まで実にさまざまです。同サービスでは職種ごとの検索には対応していませんが、例えばWebマーケティングなどの経験が活かせる地域を探すにはどうすればよいでしょうか。

『オフィス』『起業』などのキーワードで調べると、業種を問わないサテライトオフィスへの助成金や起業や創業のインキュベーション支援制度などが検索でヒットすることがあります。こちらであれば、都市部より有利な制度もありますので、これから地方に目を向けるWeb関連の方にも役立つ情報が手に入りやすいと思います」(出羽朋絵さん)

また、「移住」といった最終的なゴールの前に、まずは地域に関心を持ってもらおうという意識のある自治体を探すのであれば「お試し」「体験」といったキーワードで探すのも有効といいます。

地方移住に興味を持ち始めた人たち(1)
移住・交流イベントへはこの4年間、8,000人を超える参加者を集め、初参加の人の割合も高い傾向です。受け入れる自治体側もこうしたイベントから得られたニーズを支援制度に反映して改善しているといいます
地方移住に興味を持ち始めた人たち(2)
JOINが主催する「移住・交流&地域おこしフェア2019」で実施されたアンケートから来場者傾向を見ると、20代から40代の若年~中堅世代の割合が高いのが特徴です

 

RESEARCH #2 自治体支援制度最新情報を調査

本格的な移住の前に試してみること

移住・交流への各自治体の取り組みなどから、その地域が抱える課題や切実度がある程度推測できることがわかってきます。しかし、それだけで十分ということはありません。例えば、実際にその場所に定住したり、長期的に地域経済との結びつきを考えていく場合、最終的にはそこに住んでいる人との付き合いが重要になってくる部分が多いとも言います。

そのため、なるべく事前に現地を訪れる、あるいは首都圏で開催されている移住・交流のセミナーや自治体が主催するイベントを覗いて興味を持った地域の人と話してみるのが入り口として適していると植田さん。

「1つのケースとしては『移住・交流&地域おこしフェア』で興味のある自治体担当者の話を聞いてみる、そして実際にその場所での活動を体験してみたくなったら、『地域おこし協力隊』として参加してみるという流れがスムーズかと思います。いきなり定住するということではなく、実際に人と交流して関わりを深めていくことで得られる知見は大きいと思います」(植田さん)

また、このイベントとは別に、総務省の所管事業で「移住・交流情報ガーデン」が東京駅八重洲口の近くにある京橋に設けられています。ここでも多くの自治体がイベントを開催しているといいます。

「毎週土日祝日は、ほぼ移住や地域おこし協力隊の募集イベントが開催されています。同時に複数のイベントが行われていることもありますが、基本的にはかなりの頻度で開催されているので、気軽に訪れて話を聞いてみてはいかがでしょうか」(出羽さん)

まずはWebで情報を検索し、地方との関わりに興味が生まれ始めたら、自治体が出展しているイベントやセミナーに参加して担当者と話をしてみる。そして、可能であれば現地を訪問したり、実際に地域おこし協力隊として地域の活動に参加してみる、といった段階的なステップを踏むことで、特定の地域に対するイメージがクリアとなり、リアルなインサイトの発見につながっていくことは間違いないでしょう。

自治体支援制度のデータを活用する(1)
自治体が独自に支援制度のポータルサイトを設置している場合もあります(写真は広島県の交流・定住ポータルサイト「広島暮らし」)。こうした情報も並行して検索することで、各自治体の取り組みの傾向や制度の詳細が見えてきます https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/kouryuuteizyuuportalsite/
自治体支援制度のデータを活用する(2)
「全国自治体支援制度2019」を検索すると、キーワードによってさまざまな自治体の制度が出てきます。さらに制度の内容を読むことで、欲している人材や助成金や補助金などの支援についても確認できます

地域のニーズを読み解き貢献できる場所を探す

さらにJOINでは移住希望者や地域おこし協力隊員に対して毎年アンケートを実施しています。こうした調査からは、地方への移住の際に興味を持つポイント、また、実際に協力隊に応募した動機や取り組んだ活動などがまとめられていて、実態がつかみにくいと言われている移住・交流希望者の理想と現実が垣間見える内容となっています。

例えば、地方移住に興味のある東京圏在住の20代から30代の既婚男女を対象に行われた2017年のWeb調査(n=500人)では、「移住に興味がある理由」について、魅力的な自然や子育てに適した環境など「環境関連」の項目を挙げた人が72.2%となっています。これは趣味や生き方の模索、実家との関係といった「生き方関連」の回答(37.0%)や、未知の領域にチャレンジする16.6%よりも高率でした。多くの人が移住に対して抱いているイメージに近いものではないでしょうか。

一方、実際に地方で活動した地域おこし協力隊員を対象に2019年1月に実施された活動内容についての調査(n=2,085人)では、取り組んでいる活動の1位が「地域コミュニティ活動(58%)」となり、地域における住民活動の支援が多くを占めるなどリアルな結果となっています。

さらにここで注目したいのは2位以下の活動内容で、「イベントの企画・運営、集客(50%)」「地域や地域産品の情報発信・PR(46%)」「観光資源の企画・開発(33%)」と続きます。こちらはむしろWebマーケティングなどに従事していた人の経験が活かせる領域ではないでしょうか。

例えば、地域の特産品のPR活動などでは、都市部で積み重ねた経験やキャリアが発揮できる可能性があることが窺えます。

ほかにも全国自治体の支援制度を調べられるJOINのサイトを利用すれば、それぞれの地域が求める細かなニーズや自分の力を役立てられそうな場所が見えてくるかもしれません。次ページではそうした支援制度の中からWebクリエイターや制作会社にとって役立つ情報をピックアップしてみました。

移住体験で地方のリアルを知る
曖昧なイメージを持ったままでは、地方ビジネスでの成功は難しいと言えます。情報収集に加え、実際に地方での活動を体験してみることで地域が抱える課題を見出し、自らのスキルを活用する機会にも恵まれやすくなります。1つの方法として「地域おこし協力隊」への参加という選択も考えられます https://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/
栗原亮
※Web Designing 2019年10月号(2019年8月17日発売)掲載記事を転載

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