SDGsを地方創生に活用!対話と協働で包括的アプローチを実践 事例詳細|つなweB

地域が抱える多様な問題は、「すべてつながっている」

企業をはじめ、多くの自治体が積極的に取り組み始めているSDGs。しかし、地球規模の壮大な目標を本質的に理解することは難しく、自分事として捉えられないのが現実ではないでしょうか。

issue+designの筧裕介さんは、「SDGs」という言葉が一般的に使われる前から、全国各地で地域の課題解決プロジェクトに携わってきました。その中で、SDGsの考え方が「地方創生」と非常に相性がいいことを発見したと言います。

「地方は人口減少にともなう多くのひずみを抱えています。実は、このひずみのほとんどは根底でつながっていて、要因が複雑に絡み合っています。だから、目の前の1つの課題に対処しても、また別の課題が出てくるというイタチごっこが起きる。SDGsの本質的な考え方は『すべてはつながっている』。このSDGsの考え方を活用することで、地方創生に取り組むためのヒントが見えてくるはずです」(筧さん)

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットから構成。発展途上国だけではなく、先進国自身が取り組むべきユニバーサル(普遍的)なものとして、日本でも積極的に取り組みを進めている。

 

「地域は生きている」その場しのぎの解決法はNG

筧さんは、地方創生が目指す「持続可能な地域」について、「人と経済の豊かな生態系が息づいている地域」と定義しています。地域は、それを構成する人や建物、インフラなどのさまざまな要素がお互いの機能を補い合いながら、常に少しずつ入れ替わることで均衡を保っています。つまり私たちの細胞が常に入れ替わっているのと同じように、「地域も生きている」のです。

しかし、今まで日本は「工学的アプローチ」で地域問題に対処してきました。工学的アプローチとは、機械を直す時の基本の対処方法。例えばテレビが映らない時に、「リモコンの故障かな?」「コンセントが抜けているのかな?」とその原因を究明します。そして電池を交換するなり、電源を差し直すことで対処します。

「一種の生命体とも言える地域が抱える問題は複雑で、機械を直すような単純な方法では対処できません。例えば『若者の減少』という課題があった場合、移住・定住イベントの開催や、子育て奨励金を支給して呼び込むだけではその場しのぎにしかならず、移住した先にいい仕事や子育てに適した環境がなければ、若者はすぐ去っていってしまうでしょう」

もうひとつ、地域問題の解決をさらに遠ざけているのが、地域の中で起きている「分断」です。日本の組織の構成は、基本的には「縦割り」。例えば、大型商業施設が建設されるとなると、小売店が反対運動を起こす、役場の中でもそれぞれの課がまったく連携していないなど。それぞれが連携すれば、Win-Winの関係にできるのに、立場、世代などの違いによる分断があちこちに存在しています。

「いたるところで分断が起きている地域の状態を、私たちは『人と経済の生態系が崩壊している』と言っています。持続可能な地域にするために必要なことは、『分断を排した包括的なまちづくり』です」

課題解決がうまくいかない落とし穴
テレビのような機械は、目の前にある原因に対処するだけで修理できる。しかし、地域の課題はさまざまな要因が複雑に絡み合っているため、この方法では解決できない。問題の根本的な原因を探り、包括的にアプローチする必要がある

 

住民も、行政も、企業も。立場の垣根を超えた街づくり

では、具体的に何をすればいいのでしょうか。筧さんは、包括的なまちづくりをするためには、「対話と協働」が不可欠だと言います。

「SDGsが定めるゴールの中にも、同様の考えがあります。SDGsの17番目のゴールは『パートナーシップで目標を達成しよう』。つまり地方創生における『対話と協働』とは、行政も民間も関係なく、その地域に住むみんなが対話しながら、一緒にチャンレンジを続けていくことです。例えば、富山県富山市は、この考え方で包括的なまちづくりを実現させました」

「若者の都心への流出」が課題だった富山市では、どのように課題と向き合ったのか。まちづくりを行う前の富山市は、車がないと生活ができない、典型的な「郊外化」が起こっていて、中心市街地での消費行動は減り、産業が衰退するなどさまざまな問題を抱えていました。そこで、2005年から市長が主導し、役場の若手職員を集め、タスクフォースを組み、部署を横断したプロジェクトチームを結成。富山市が抱える本当の課題は何か、取り組みを始めたのです。さらに、チーム内だけではなく、別の部署の職員や住民、民間企業など、あらゆる立場の人と対話することで、よりよい街にするためのプランが次々と生み出されました。

まず行ったのが、中心市街地から郊外に向けて、ライトレールを整備すること。さらに、その沿線に住宅地を配置しました。これにより、車よりも電車に乗って出かける機会が増え、飲食など地域での消費額が増えました。地域での消費が増え始めるので、産業も活性化。すると民間企業による中心市街地への投資が集まり、地価が上昇。地価が上がると固定資産税も上がり、税収も増えます。増えた税収は、「子育て支援」や「農業振興」にもしっかりと充てることができます。

「富山市の取り組みは、15年という歳月の中でたくさんの効果を生み出しました。地域の課題をひとつずつ紐解くと、根本的な要因が見えてきます。その課題を解決するために、行政や住民、事業者などが、自分の立場や領域を超えてアクションを起こす。それが『都市の総合力』を高めることにつながります」

 

地方創生を体感!理解が深まるカードゲーム

頭では理解できても、すぐに具体的なアクションを起こすことは難しいかもしれません。そこで、筧さんが株式会社プロジェクトデザインと共同で開発したのが、カードゲーム「SDGs de 地方創生」です。

「このゲームは、『対話と協働』をしながらチーム全員で地方創生を目指すことを、誰にでも体感的に理解してもらうためのゲームです」

2人1組になり、16種類の職種カードから役割を決めます。職種には、それぞれの人生の目標が設定されており、その達成のために「プロジェクトカード」「人脈カード」「お金カード」などのツールを使い、達成を目指します。プロジェクトを達成すると、「地域のゴール」というパラメータのポイントが増えていく。ポイントが増えると、実行できるプロジェクトの幅も広がるので、ポイントを加算しながら地方創生を実現していくゲームです。

ツールだけではなく、何よりも必要なのが参加者間の「対話と協働」。

「最初はだいたい皆さん固まってしまいます。そして不思議なことに、ゲームでも縦割りが起きます。同じ行政の職種なのに、自分が人口担当で、もう一方が産業振興担当だったとすると、話し合いができなくなってしまうんです」

それでも、ゲームは4ターンしかなく、プロジェクトを達成できなければ、1ターンが終わるごとに、パラメータのポイントは減っていきます。このままだと何もできずにゲームが終わってしまう。すると、「ポイントが少なくてもできる、あなたのプロジェクトからみんなでシェアしましょう」などと声をかける人が出てきます。プロジェクトを達成できれば次のターンでポイントが加算されて、さらに別の人のプロジェクトを実行できるようになる。そうして、チーム内にどんどんコミュニケーションが生まれていきます。まさに「対話と協働」が集団を動かすことを体感できるのです。

「地域全体をどうにかするために行動できる人が増えると、個人の目標も達成でき、地域全体をよくすることができます。これを体感してもらうために、このゲームをつくりました」

例えば、自分の商店街だけに人を呼び込むことを考えていても、地域全体の活性化にはつながりません。「個人の未来と地域の未来はつながっている」と念頭において、課題に取り組む必要があります。

SDGsのアイコンとにらめっこしていてもアイデアは生まれません。大切なのは、「地域に対して自分は何ができるか?」を考え、実際に行動を起こすこと。そのアクションはきっと、地域の課題解決につながっていくはずです。

カードゲーム「SDGs de 地方創生」
2人1組になり、商店主、行政職員などの役割を職種カードで決める。職種ごとに、例えば「商店街での地域のつながりを強くしたい」などの個人の目標が設定されており、お金カード・人脈カード・プロジェクトカードなどを駆使し、チーム内で対話をしながら達成を目指す
 
『持続可能な地域のつくり方』未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン
[著]筧 裕介[出版社]英治出版© issue+design 2019
高橋陽子(Playce)
※Web Designing 2019年10月号(2019年8月17日発売)掲載記事を転載

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