課題明確化のためのヒアリング術 事例詳細|つなweB

決まった型にとらわれるな! 「有構無構」で柔軟に

ビジネスでヒアリングをする際に、私が大切にしている態度があります。それは、宮本武蔵が著した『五輪書』の中に出てくる「有構無構」です。クライアントと向き合う姿勢に相通じると、日頃から意識しています。

有構無構とは、目的や状況に応じて型を使い分ける、といった意味です。ヒアリングもしかりです。基本の聞き方や振る舞い方はあっても、状況に応じて使い分けることが重要だからです。クライアントは千差万別ですし、毎回それぞれの状況も違います。ヒアリングの大前提は、クライアントの立場に立って、クライアントが抱える情報を引き出すこと。ただその引き出し方は、時と場合によって違います。案件の種類を問わず、同じアプローチ(思考停止)で臨まず、常に有構無構を意識するようにしましょう(01)。自分の伝えたいことだけを伝える、やりたいことだけを聞く、というのはヒアリングの本質に相反します。

判断に迷う場合は、クライアントの立場を想像します。「クライアントの信頼度のメーターが上がった?」と思える瞬間を意識するのもいいでしょう。特に初めは、あるべき課題の方向性がクライアントの事前の考えと異なる可能性もあるので、話の方向性を限らず「クライアントを知る」ことを重視します。

 

「マーケット」「ソリューション」「信頼」の大きさを確認しよう!

そもそも、ヒアリングをうまく進められない要因の1つは、ヒアリングのゴールイメージが描けていないことが挙げられます。ヒアリングは、クライアントの課題を明確化するための一手法です。ヒアリングを行う側が、きちんとゴールイメージを持った上で臨まないと、クライアントに質問の狙いが伝わらず、ヒアリングが行われる意味を理解してもらえないでしょう。

「課題の明確化」のためには、さらにビジネス全体の構造をイメージできることが重要です。なぜビジネスとして自分たちに声がかかったのか、なぜ予算が割かれるのか、その背景をつかむ必要があります。クライアントとのビジネスを捉えるには、私は常々3つの要素の掛け合わせが重要だと考えています。それら3つは「マーケット」×「ソリューション」×「信頼」です(02)。マーケットのサイズとソリューションのサイズの重なり具合が大きいほど、ビジネスサイズも大きくなり、それらをつなぐためにマーケティングが必要になる。さらに、なぜ自分たちが選ばれているのか(声がかかったのか)。相手の立場で課題を見つけて最適なアプローチで解決を導くパートナーだと期待されたからです。この「信頼」を積み上げるとビジネスサイズが大きくなる、という方程式を理解できるとアプローチしやすくなるでしょう。

この考えに基づき、ヒアリング項目の引き出し方を説明します。例えば、認知や集客といった目的に割けられる予算が「マーケット」です。Webサイト構築を通じて広告や集客施策ができることが「ソリューション」であり、それらを掛け合わせた最善策が「企画」となります。そこで、企画を導くためにも「どういったことに困っているのか?」「困っていることに対して可能な予算は?」「今の状況は?」「本来求めたいゴール像は?」「どれほどの期間で目指すのか?」といった、相手から聞き出したい内容が自然と浮かび上がってきます。その内容について、相手と真摯に向き合いながら引き出す過程こそ「ヒアリング」となります。

 

「一緒に考える場」を演出。相手ありきの姿勢を崩さない

現場ではヒアリングそのものはもちろん、振る舞い方にも配慮しましょう。ここでは、新規/既存案件に関係なく普遍的に通用する5ステップを共有します(03)。初回の打ち合わせは、クライアントの期待値が高い半面、不安も大きいでしょう。クライアントには過度な負担をかけないよう、30分~1時間程度、出席者はプロジェクトの責任者(1、2名)に絞ってうかがいます(STEP1)。クライアントが話したいことをすべて話してもらう工夫をしながら、時間を区切って、次回につながる楽しさや前向きな雰囲気が残る終わり方を心がけましょう。

ヒアリングの位置づけもきちんと共有すること。冒頭で改めて趣旨を説明します。目的は「課題の明確化」であり、最適な企画立案につなげる前段階の工程だと理解してもらいます(STEP2)。

実際に席につく時、私なら正面同士で座らないようにします。「これから」という話の場で正面に対峙すると、初回からお互いに逃げ場がない雰囲気にもなりかねません。無理なら、適宜モニタに共通の資料を映しながら進行するなど、真正面で向き合い続ける場とせず、一緒に話をつくり上げる雰囲気をつくります(STEP3)。私はよくA3サイズの白紙と鉛筆を用意して、その場で絵やチャートなどを描きながらお互いの話の糸口を探したりもします。「共同作業をしている」という働きかけも大切です。

そうして現場では、クライアントの話を引き出すためにも、話が広がる聞き方をしてください。はい、いいえの受け答えで終わる質問は避けて、時に質問の狙いから脱線してでも、話の広がりを引き出すことを重視します(STEP4)。

あとは、STEP1~4の根っこにも共通する「一緒に考えていきたい」姿勢を終始心がけます(STEP5)。この場は、自分たちの言いたいことを披露する実績自慢の場ではありません。お互いの共感を探す行為を重視してください。

 

ヒアリング後の振り返りも大事。ヒアリングの精度を上げよう

周到な準備をして、クライアントへのヒアリングに臨むことを重ねながらも、なかなかうまくできていないという場合は、ヒアリングを振り返る工程を大切にしてみるといいかもしれません。

「ヒアリング」では、クライアントを前に意向を引き出すこと自体に意識が行き過ぎるところがあるので、ヒアリングを終えてからきちんとできていたかを振り返り、感触よく進められたところと、あまりうまくいかなかったところを整理しましょう。なぜうまくいったのか or うまくいかなかったかを通して、自分たちのあり方を反省できますし、現場ではつかみ損ねていたクライアントの意向や隠れた想いにも気づけることでしょう。

振り返りの内容は、04を参考にしてください。ベースの要素は、ヒアリングを通じてクライアントが自分たちへの信頼度を上げたかどうかです。自分たちの言動や相手から漂う雰囲気をもとに、感覚的な判断でいいので確認しましょう。今までのヒアリングの現場経験をもとに、04の要素をアレンジして、自社流の振り返りシートをつくってください。このシートは、ヒアリング前の確認用としても使えるので、活用とともにヒアリングの精度を高めるのに有効です。

最後に、ヒアリングがうまくいかなった場合、過度に内向きにならないようにしてください。繰り返しますが、ヒアリングの目的はクライアントの立場で、クライアントの最適な課題を明確化することです。失敗と感じた場合でも、その時なりに、確実にクライアントに関する有益な情報は得られているはずです。その内容を冷静に、つぶさに分析しなおしながら、改めて仕切りなおしの機会を交渉しましょう。

「御社の立場になって課題と向き合いたい」意志が伝われば、再度の機会も得られやすいはずです。クライアントの課題の明確化に向けて、少しでも引き出した情報を活かすようにしましょう。

遠藤義浩
※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

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