予算&見積り作成、クライアントから頼られる考え方とは? 事例詳細|つなweB

「大丈夫だろう」は禁物 予算の認識を最初に確認!

クライアントとの折衝で、もっとも避けたいのは目指すべきゴールを共有せず、最初の段階から“行き違い”があることです。行き違いはクライアントと制作側双方にとって何もメリットがなく、両者の溝を深めるだけです。制作側がクライアントから依頼(競合プレゼンテーションやオリエンテーションの誘い)があった際、行き違いの回避こそが成果を引き出す第一歩です。

一例を挙げましょう。クライアントの目的が「Webサイトのリニューアル」だとします。過去にリニューアルをしていれば、過去の予算が目安になりますが、問題は中身です。もし、以前のリニューアルでは表現などデザイン中心だったのが、今回はデザインリニューアルのほかに、新たにコンテンツを加えてテコ入れを図る希望があったとします(01)。

事情がわかる慣れた担当者がいれば別ですが、以前までの事情がわからない、新たな担当者が予算を組んでいることもありえます。となると、以前と異なった要素の制作予算を計算に入れていない可能性が出てきます。

クライアントが過去との違いに気づかず、制作側も「計上されている」と思い込んでいると、ある程度進んだ後に気づいてもアウト。その時には両者とも引き下がれない状況になりかねません。

 

(01)よくある予算の認識のズレ
Webサイトをリニューアルしたい企業側が、予算の確保でコンテンツ制作分を確保していなかったら?

 

予算規模を確認しゴールを共有する

そこで強調したいのが、「最初が肝心」。クライアントの立場に立つと、案件や担当者によって、最初の制作側への説明はまちまちになる場合があります。また、社内では社内事情をわかった者同士で話すので、いざ事情を知らない制作側を前にして丁寧な説明がされない可能性もありえます。みなさんもクライアント側特有の事情に苦しめられた経験があると思います。第三者には「なぜそんなことで」と思う事情を企業側は抱えているものです。そうした要素をなるべく最初に洗い出しましょう。

最初の段階だからこそ、クライアントは聞く耳を持ってくれやすい。ここをうやむやにして進むと、それらの点は承諾済みだと勝手な誤解を生みかねません。制作側は、クライアントの事情も踏まえながら、納得を引き出すようにします。

そのためにも、最初にきちんとクライアントに予算の上限と案件の狙いを確認し、予算と狙いが噛み合っているか、必ず最初に判断します。同時に、伝えられた予算からプロジェクトへの会社の評価をつかみましょう。予算が小規模な場合、同社内ではあまり注目されていない案件と受け止められている可能性もあります。小さなスタートで地道に成果を出せる戦略を練りましょう。予算に規模感が出てくると、売上だけでなく投資の要素を加える意向が読み取れてきます。さらに大規模となれば、本格的なシステム導入も含めた本気度の高い話だと理解していいでしょう。

中身の説明では、クライアントから具体性を引き出してください。例えば、課題の優先順位が量的な要素が高いのか、質的な要素が優先なのかを確認します。量であれば「成果」への意識が強いのではないか? 質であれば「ターゲットの見直し」についてアンテナを張ります。その上で、競合他社は? 製品のポジショニングは? サービスの独自性は? と話を引き出します(02)。

(02)オリエンテーション用ヒアリングシート
クライアントと最初に会う際は、気になる項目を書き出したヒアリングシートを自作で用意して、なるべく具体的に、聞き漏らさずに話を引き出しましょう。「とりあえず話を…」と、白紙のノートだけ持参して乗り込むのはNGです!

 

最初にクライアントと会う前に徹底して調べきろう

最初の段階でクライアントの真意をつかむためには、事前に徹底してクライアントを調べた上で初会合に臨みましょう。今まで、「とりあえず話を聞こう」とノートやPCだけを持参して、当日臨んでいませんでしたか? 「クライアントの話を聞いてから考える」はやめてください。そうした受け身の姿勢では、クライアントに的確な質問などできません。

こうした事前準備が得意なのが、広告代理店です。人員をかけて準備できる組織力があり、準備が先々のトラブルを回避する経験値を持っているからです。その点、制作側は準備が苦手か、考えもしないというケースが見られます。競合プレゼンとなれば、制作側は事前準備をしてくる代理店や私たちのようなマーケティング支援会社が相手です。最初で遅れをとっては、制作上の強みを活かす前に勝負は決します。

最初にクライアントに「頼もしい相手だ」と思わせましょう。クライアントが感心するほど、調べられるだけ調べておくこと。「ホームランクラスの企画を提出せよ」ではありません。相手を徹底して調べることは、ある程度の時間をかければ、誰でもできます。他社がやっていない事前準備ができていれば、他社よりアドバンテージを得るはずです。

「Webサイトのリニューアル」という依頼があったとしたら、なぜリニューアルなのかを、自分たちなりに洗い出します。他に競合他社サイトの状況、商品やサービスの強みや独自性を調べていけば、打ち合わせの前段階で対象の輪郭がつかみ出せて、自分たちなりの気づきや疑問が湧いてくるはずです。それらを初回で相手に問いかけるのです。

意外と多いのが、クライアント側は日頃の業務の忙しさで、競合他社の詳細を気にする時間を持てていないこと。「私たちに聞いてください」と拠り所になれるよう、クライアントの見る目がみなさんへと向く準備をしましょう(03)。

(03)事前準備用のクライアントへの視点の持ち方
リエンテーション前にクライアントのことをできる限り調べながら、上の3例のように自分たちなりに課題を探り出し、成果につなげるための視点を洗い出しておくと、オリエン時の時間が有意義に機能します

 

どこまで予算化されているか?クライアントと一緒に確認する

ある程度の問題点やクライアントが気づいていない潜在的な課題を洗い出したら、クライアントと一緒に、「現段階で予算化された金額」を確認します。

ここから問われるのも、いかにクライアントの立場に立てるかです。01~03の過程で、クライアントの担当者が再考して制作側から出た疑問を理解してくれたとしても、どうにもできないことがあります。例えば、年度初めに予算が決まっているため枠組みを変えられず、最初の提示予算内でしかWebサイトをリニューアルできない場合。コンテンツ拡充費や更新費が盛り込まれていない予算だと担当者が理解する場合も含みます。一定の規模のある企業だと、10万円を超えれば社内の承認プロセスが必要になることも珍しくありません。すでに承認された予算枠の変更が難しい相手の事情は、覚悟しておくべきです。

そこでよく私たちがやるのは、最初のうちにクライアントと一緒に予算の考え方を共有することです。どうにもならない状況も含めて、社内で承認された予算を確認します。全体で「予算」とくくらず、予算の中でトライアルに位置づけた予算があるのか、場合によっては正式な承認がこれからということもあるので、そのことも確認します。

想定予算内で進めると、どうしても成果が最小限に止まる場合は、成果を引き出す自信がある施策を「オプション予算」として提示。決して無理強いしない形の提案であることも伝えましょう。

必要な予算が出ないからといって、ここまでの取り組みは無駄にはなりません。「弊社の状況を踏まえた最善の提案をしてくれる」と、信頼感が出てくるはずです。担当者の努力で予算の上乗せを勝ち得ることはレアケースだと考え、クライアントが抱える事情を織り込んで考えます。同時に、過剰予算は決して要求しないと伝えて、予算への自社の姿勢や透明性も表明しておきます(04)。

(04)クライアントと共有しておきたい適切な「予算」の考え方
予算を全体でざっくり捉えるのではなく、分解して捉えることで、クライアントにとっても予算の使いどころが明確になります。制作側は、提案可能な予算でどういう内容を示すのかを具体的に伝えましょう

 

クライアントが選びたくなる予算の立て方をしよう

04の考え方に則り、クライアントが納得しやすい具体的な予算の立て方を説明します。コツは、「1つの成果が出ること」を1単位にすることです。

Webサイトのリニューアル案件を一例に考えてみます。05をご覧ください。実際は、もっと複雑な構成になるでしょうが、ここでは説明のために規模や中身を簡略化しています。すでにクライアントについての調査ができていると、取り組むべき優先順位が出しやすいはずです。ここで、成果が出やすいコンテンツ(AとB)と、用意しておきたいが成果に時間がかかるコンテンツ(C)の2種類を割り出します。理想はこれらをすべて制作することですが、限られた予算を念頭に置いて、より成果に結びつきやすいコンテンツを優先して制作。コンテンツごとの完成でフェーズを区切り予算をあてましょう。第1フェーズは60日、といった完成できる期間の見積もりも示し、第2、第3フェーズも同様に用意します。

仮に第2フェーズまでで予算を消化する場合、第2フェーズまでで完結しても、きちんとクライアントが求めるリニューアルに応えた状態をつくる構成にしなければなりません。そこは、金額の帳尻をあわせるような考え方より、やるべき工程の期間と費用をきちんと説明できるようにしておきます。

各フェーズで予算が組み立てられると、想定した予算とスケジュール内でできることを数字で示しながら提案できるので、クライアントが現実的に検討しやすいわけです。優先順位を設けず、理屈ばかりで攻めて予算の上乗せを期待したような構成で組んでも、予算が膨らみやすくなり、制作期間も延長が前提となり、クライアントと制作側の両者に想定以上の負担がかかるだけです。

第3フェーズはオプションだと明示し、選択権がクライアントにあること、選ばなくても初期のリクエストには応えられること、などを明示して用意しておきます。

(05)クライアントの理解を引き出すフェーズ単位の予算の立て方
立て方のコツは、予算内でできることを優先順位に基づき整理し、クライアントの要望に応えた内容に近づけること。フェーズごとで制作の内訳を示せると、クライアントが確認しやすいです。上記を参考に、実際の内容にあわせて予算を立ててください

 

見積もりはラブレター? 必ず細部まできっちりつくろう

ここまでは、クライアントと予算の考え方を共有し、想定予算でできることについて整理してきました。制作側が、いかにクライアントの事情を踏まえて予算を考えているか、を伝えるための工程でもありました。

それが見積もり書の提出、となると、さすがに予算額の確定にもつながる話ですので、今まで以上にクライアントがより仔細に中身を見てきます。見積もりを立てる際に大事なのは、クライアントへのラブレターのつもりで、制作側の考えを数字で表現することです。

Web制作会社が出す見積もりに接すると、ページ単価やコンテンツ数で見積もりを出すケースが多いようです。こうした出し方は、ページやコンテンツによって条件が異なり、それぞれの難易度の違いを盛り込みづらいため、避けたい書き方です。中には、ボリュームの大小でいくつか単価設定を分けているケースはありますが、クライアントは難易度やボリュームよりも単価の額面に判断が集中しがちで、誤解や骨抜きの中身にもなりかねません。

そうならないためには、稼働工程を明らかにするといいでしょう。ここでは、わかりやすくバナー1点の見積もりを例にします(06)。避けてほしいのは「バナー1点で5万円」とだけ記す書き方です。数字で羅列されただけでは、「バナーなら、2~3万円でつくれないの?」と言われかねません。クライアントにとって、制作側の現場や、バナー1点にかかる工数や負担は想像しがたいものです。だったら見積もりを出す側の工夫で、想像しやすくしましょう。

そこで、制作工程を細かく分類して、所要時間とともに示すのです。これなら、クライアントはバナー1点という考えではなく、バナーをつくるのに必要な工程について考慮しやすくなります。つまり、クライアントとの考え方の隔たりや行き違いを軽減できる効果があるのです。

(06)見積もりの立て方【バナーの場合】
数字は仮です。1点で〇〇円という表示のみの記載は値切りの助長にもなります。記載した額面の根拠(稼働工数)を示せると、クライアントに検討材料ができて、自分たちのリスクヘッジにもなります。ここでの仮定では「8万4,375円」となり、「決して数万円の作業ではない」ことの根拠としてクライアントに示しましょう

 

「時間」単位で見積もりを。リスクヘッジも兼ねておく

最後に、職域の抽象度が高い項目で、より具体的にクライアントが納得しやすい見積もりの出し方を説明します。二度と「Webディレクション費:1件90万円」といった出し方はやめて、クライアントに金額の根拠が伝わる見積もりを出してください。

同じ90万円という考え方でも、制作期間の見積もりが3カ月なら、90万円を3カ月で割ります(07)。さらに1カ月を週単位に分解して、週ごとで何をどこまでやるのかを示します。仮に3カテゴリのコンテンツを1カ月目安で完成させる見積もりであれば、そのことを書き込みます。週単位で何をやるかも稼働内容の項目ごとで示せば、漠然とした「ディレクション」の中身が示しやすくなります。

週単位、月単位で出せると、3カ月以内で終わらない場合は、見積もりに4カ月目以降に発生する金額も示せるようになります。この効果は2点あって、1点目は制作側が期間延長に対してリスクヘッジになること。2点目はクライアントにスケジュール遵守の意識が高まりやすくなることです。クライアント都合でスケジュールを延長すれば、週単位で予算がかさむため、途中で予算を上乗せできない現実があればなおさら、3カ月以内の最善策をクライアントと一緒に進めやすくなります。

クライアントも制作側も、リソースが限られるわけで、1つの案件が無駄に長引けば両者に負担が増すだけです。公開日が決まっている広告案件であれば別ですが、クライアント側の都合で調整しやすい案件で悪気なく期間延長されては不幸です。リスクの回避とともに、クライアントに必要以上のコストがかからない提案(期間内に終わらせる)という姿勢を見積もりで表現しましょう。

クライアントは稼働工程を想像できないもので、数字で判断せざるをえません。見積もりの表現方法を工夫することで、この溝を埋めてください。

(07)見積もりの立て方【Webディレクターの場合】
Webディレクターの稼働項目を示しながら、想定期間内の動きもわかるようにしています(07は例えですので、稼働項目は最小限)。週単位で稼働率を出せば、延長期間の費用の目安も伝えられます

 

教えてくれたのは…杉田 裕一
(株)ジェネシスコミュニケーション 代表取締役社長 さまざまな企業のマーケティング支援活動を行い、「マーケの強化書」を運営する。https://genesiscom.jp/
教えてくれたのは…山本 知拓
(株)ジェネシスコミュニケーション コミュニケーションデザイン担当執行役員https://genesiscom.jp/
教えてくれたのは…田代 靖和
(株)ジェネシスコミュニケーション コミュニケーションデザイン部 部長
遠藤義浩
※Web Designing 2019年2月号(2018年12月18日発売)掲載記事を転載

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