2019.01.23
企業の価値をつくるデザイナーという仕事 Webサイトはブランディングの大きなカギ
単にページをつくるだけの仕事が求められなくなった現在、制作会社はこれから何をつくればいいのだろう。顧客と“伴走する”ことで企業の価値を伝え続けている、それからデザインの佐野彰彦さんにうかがった。
それからデザイン
佐野彰彦_Akihiko Sano
株式会社それからデザイン 代表取締役 クリエイティブディレクター ブランドデザイナー
「ウェブ担当者1年目の教科書」幻冬舎(2014年)
「経営者のためのウェブブランディングの教科書」幻冬舎(2015年)
直接対面するスタイルは事業開始当初から
それからデザインはどんな会社なのだろうか。訊ねると、同社代表取締役 佐野彰彦さんは「デザインでブランドをつくる」会社だと答えた。
同社の出発は2004年。佐野さんが個人でWebデザイナーを始め、知り合いづてに小さな企業から仕事を請けるようになった。経営者と直接話し合いを重ねながら制作していくスタイルは、この頃から一貫しているという。
「その企業や商品の価値・魅力をちゃんと世の中に伝えることが私の仕事だと思っています。当初は代理店経由の仕事も請けたのですが、間接的なコミュニケーションがストレスでうまくいかないこともありました。経営者や決裁権のある人と直接会って仕事をすることは、最初から大切にしていました」(佐野さん、以下同)
企業のつながりや紹介で仕事は徐々に拡大し、2007年に法人化。しかしこの頃、予算的に折り合わず請られない案件も増えてきた。
「個人のカフェやピアノ教室などのスモールビジネスオーナーからの依頼には、私たちのやり方では応えられませんでした。しかし必要とされているのに何もできないことがもどかしくて、何か別のやり方はできないかと考え、自社のWebサービス『とりあえずHP』を立ち上げました」
ブラウザから簡単にホームページを制作できるサービスを自社開発し、2009年に提供を開始。大きな宣伝はしなかったがクチコミやSEOでじわじわとユーザーを増やし、現在は同社収益の約半分を占めるまでに成長している。サービスを立ち上げ運営する事業主としての経験は、ブランディングの仕事で経営者を理解する視点にもプラスになった。
ブランディングの「縦」と「横」2つの軸の一貫性
佐野さんは「コンサルティングもWebデザイナーの仕事だと捉えている」という。まず徹底した対話や取材からその企業の価値を知り、経営者の実現したい世界を理解する。それを達成するためには何が必要なのか、コンセプトを固め、Webサイトの形になるまで半年から1年の時間をかける。
ページ単価では測れないこの仕事をどう言えば理解してもらえるのか。ずっと悩んできた佐野さんだったが、2013年頃、もっとも近い概念と思える「ブランディング」という言葉を使い始めた。
「ブランディングというと一般的に見た目を良くする活動に終始してしまいがちですが、それだけで企業や商品がブランド化されることはありません。会社のビジョンをつくる、それを実現するための商品・サービスをつくる、それを伝えるための手段をつくる、という3つのレイヤーに一貫性がなくては、社内にも顧客にもメッセージが伝わらないんです(図01)。その部分から一緒につくっていきましょうと提案すると、クライアントの理解が得やすくなりました」
従来、Webサイトは経営や企画段階で決定された情報をただ当てはめ、人に伝える媒体の一つという位置付けだった。しかしコミュニケーションの形が変容した今、Webデザイナーが経営・企画から関わる方がビジネスとして良い形をつくれるのではないか、と佐野さんはいう。