インバウンドのPR術「中国SNS編」 事例詳細|つなweB

1. SNS以前からの「会話文化」に根付いたネットワーク

ネット人口8億人の中国 スマホ社会に見るSNS環境

みなさんご存じのように、中国は「スマホ社会」と言われています。中国インターネットネットワーク情報センター(CNNIC)の発表によると、ネット人口は2018年8月の発表で8億人を超え、その98%がモバイルからのアクセスです。また、5.6億人がモバイル決済を利用し、シェア自転車は2.4億人、ライドシェアは3.4億人が利用するなど、その活用範囲が広いことも特筆すべきポイントです。

こうした中でSNSはすでに生活の一部になっており、特によく使われているのが日本でも知られる「Weibo(微博)」や「WeChat(微信)」でしょう。Weiboはマイクロブログサービスで、ユーザー数はグローバルで7億人。“中国版Twitter”とも言われるオープンなSNSで、短文+写真(最大9枚)という投稿スタイルが主流です。また、動画の投稿も増えていて、ライブ配信機能もあります。フォローした人の投稿だけでなく、カテゴリ別に注目の投稿が集まるタイムラインもあり、情報収集にも向いています。

一方、WeChatは“中国版LINE”とも言われるメッセージングサービスで、ユーザーはグローバルで10億人に上ります。コミュニケーションの他、モバイル決済機能や各種サービスと連携するミニアプリなどがあり、メッセージングの枠を超えて活用されるプラットフォームになっています。

最近のトレンドとしては、InstagramとECが連動したような「RED(小紅書)」が、海外の流行に敏感な女性の間で人気になっています。投稿内容に応じて商品が表示され、直接購入できるEC機能を持つことが特徴で、化粧品など日本の商品もよく紹介されています。

また、ニュースキュレーション+SNSという形態の「今日頭条(Toutiao)」も急速に利用者数を伸ばしています。報道ニュースだけでなくブログや動画なども含め、ユーザーの趣味嗜好に合わせたコンテンツがAIによって配信され、コメントを書き込めるサービスです。この他、日本でも人気の「TikTok」の中国国内版「抖音(ドウイン)」のようなショート動画も、大きく伸びている分野です。

ユーザーの中心となっているのは1980~90年代生まれの若い人たちです。20代で比べれば日本以上にSNSに費やしている時間が多いでしょう。歩きながらずっとボイスチャットで話している人も少なくありません。

また、日本のFacebookやTwitterでは、情報を受け取ったり内輪の交流が中心という印象がありますが、中国では友人間のコミュニケーションに利用するのはもちろん、受け身ではなく積極的に情報発信する人の割合が多いことも特徴です。

 

 

「会話文化」を背景にしたSNSとECとの親和性

中国では2003年にショッピングモールTaobao(淘宝網)がスタートし、早くから個人間取引が行われてきたという経緯から、EC市場におけるCtoC取引が非常に盛んな背景があります。ここにSNSが普及したことで、個人レベルの小売業者によるPR効率が爆発的に向上するという状況が生まれました。

中国の人はビジネスに敏感で、何かきっかけがあれば自分でビジネスにしたいと考える感覚を持ち合わせています。ですから、SNSをビジネスで活用することについても日本より受け入れられる、むしろそれが当たり前という雰囲気があります。

さらに、もともと買い物をするにも価格交渉が当たり前、日常生活では歯ブラシ・歯磨き粉にいたるまで周囲の人たちとクチコミで情報交換をするといった「会話文化」が根強いことも特徴です。オンラインで商品を買うとなれば、表面的な情報だけでは決定せず、「これは本物なのか」「安くならないか」など事細かにチャットで質問し、自分で聞いて自分で確かめるということが日常的に行われています。

文化的な土壌としても、地縁関係や友達のつながりがとても強く、リアルなクチコミが大きなパワーを持ってきました。SNSではこれがリアルタイムに、いつでもオンラインでつながるわけです。SNSのクチコミによる影響力は、日本人が想像する以上に大きいものであると考えた方がよいでしょう。

こうした背景を理解しておくと、中国のSNSとECが親和性高く共存している環境がわかりやすいと思います。

 

2. インフルエンサーが情報を届けるカギになる

公式アカウントは発信よりも「受け皿」

いま、SNSは企業のマーケティングにとって不可欠な媒体になっています。しかし、中国向けプロモーションを目的にWeiboやWeChatで公式アカウントを開設しても、情報を発信するだけでは認知を拡大することは難しいでしょう。SNSの公式アカウントは、動画やリスティング、あるいは雑誌広告といった一連のマーケティング施策の中で「受け皿」になるものと考える必要があります。例えるなら、海外企業が日本向けにFacebookだけ運用しても、日本で成功するのが難しいのと同じです。

近年、中国ではアリババ社が「ニューリテール戦略」によってオンライン・オフラインを統合した購買体験を推し進めています。オンラインとオフラインの境界が消えつつある中、屋外広告からSNSまでを広く媒体を組み合わせることが中国でマーケティングのトレンドとなっているのです。越境ECでそこまですることは難しいですが、ザイオンス効果(繰り返し接触することでより好印象を持つようになるという心理効果)も考えると、やはりピンポイントではなく「流れ」で設計する必要があるでしょう。

 

「Vマーク」で公式の信用を空気感も体験しておこう

受け皿となるからには、企業側もきちんと対話する姿勢を示すことが大切です。日本の企業が始めるのであればWeiboが入りやすいと思いますが、公式アカウントとして信用を得るには「Vマーク」といわれる運営側の認証を得ることがおすすめです。ただし、申請手続きの内容が変わることもあり、事情を知らないと書類作成などで必要以上の時間と労力をかけることになりかねません。必要経費と割り切って、信頼できるパートナー企業に依頼するのが良いでしょう。

そして、せっかくつくった公式アカウントなのですからしっかり活用しましょう。国内向けSNSマーケティングにも共通することですが、本当にマーケティングに活かすための運用はかなり大変であることは意識しておいていただきたいと思います。また、SNSの“空気”を理解してユーザーのネットワークの中に入っていけることも重要です。まだこれらのサービスを使ったことがないようでしたら、マーケティング施策として取り組む前に個人のアカウントをつくって実際に利用してみてください。人々がどんなコミュニケーションをしているのか、まずは体験してみることが大切です。

 

消費の主役は若い世代効果的な手法を考えよう

中国向けのマーケティングで一つのカギとなるのが、インフルエンサーの存在です。まず、先に述べたようにSNSの主役は20代~30代の若い世代、中でも購買意欲が高いのは1995年以降生まれの「Z世代」と呼ばれる層だといわれています。日本においてはまだ消費の主役と見なされない世代ですが、中国では今もほとんどが一人っ子ということもあり、いわゆる「6ポケット:両親と両祖父母の6人による子・孫への支出)」の影響力が非常に大きいのです。こうした若い世代と動画の親和性は非常に高く、日本と同じようにインフルエンサーは彼らに対して大きな影響力を持っています。何百万人ものファンを持つインフルエンサーも少なくありません。

また、中国ではパブリックなところから伝えられる情報はコントロールされたものであるという意識が人々の間にあります。そのため、企業の広告に対しても斜に構えて受け止められる傾向は否めません。しかし、個人が自身の経験に基づいて伝えるものであれば、信頼できる度合いは高まります。そのためクチコミが、ひいてはそれを伝える「人」そのものが、情報信頼度のフィルターとなっているわけです。

加えて、同じSNSでも国内版とグローバル版では利用できる機能が一部異なったり、そもそも中国国内でしか利用できないサービスも少なくありません。日本から中国のユーザーに接触できる領域は、実際には限られた部分でしかないのです。

こうしたさまざまな状況を考えると、信頼される情報を伝える手段として、また日本からは接触しにくい中国のユーザーとつながる手段として、最初のカギとなるのがインフルエンサーの存在なのです。

 

 

3. まずは手の届くところから始めよう

拡散までを事前に設計 信頼関係を発信の起点に

先ほど述べたように、プロモーションには複数の施策を組み合わせる必要があります。弊社がお手伝いしたある女性向け衣料品の事例では、人気のクリエイターに動画を制作してもらい、まず本人のアカウントで投稿。同時に「WEIQ(ウェイキュー)」というプラットフォームを活用しSNSへの拡散を狙いました。WEIQにはWeibo・WeChat・REDで影響力を持つユーザー約80万人が集まっており、彼らに広告コンテツのシェアを依頼してそのフォロワーへと拡散することができます。さらに友人たちの座談会という形で商品に対する意見をもらったり、実際に使って紹介してもらう等の取り組みも実施しました。コンテンツの作成だけでなく、広めるところまで設計するというのがポイントです。

動画は、人気のある人がつくっても成功するとは限りません。ファン数よりも、そのブランドや商品を本当に理解して好きになってくれる人、日本に興味のあるファンが多い人など、自社の魅力を伝えるのに一番いいコンテンツをつくってくれる人の力が必要です。最初の接点はお仕事であっても、本当にその商品を気に入って自分で使ってもらえるような関係になることが理想だといえるでしょう。企業側は自分たちの言いたいことを伝えてもらうよう依頼するのではなく、まずコミュニケーションしてみること、好きになってもらえる要素があるかどうか探すことがスタートです。

インフルエンサー側にとっても、認知度の低い海外の商品を紹介することにはリスクがあります。ファンからの信頼を何より大事にしますから、そこに相容れない商品を扱うことは避けたいのです。双方から中国の消費者に受け入れられるポイントを探ることが、信頼される情報発信の起点になります。

 

 

企業の現状とは? 段階別のやるべきこと

弊社ではいろいろな企業から中国向けプロモーションの取り組み方についてご相談を受けますが、その内容には大きく分けて3つの段階があります。

(1)取り組みを始めており、ビジネスとして成立する段階になっている企業

この場合は企業の担当者も状況がよくわかっていて、「独身の日(11月11日。中国EC市場最大の商戦日となっている)を狙ってこの商品をプロモーションしたい」など明確なご相談をいただきます。これに対しては、セールに合わせた効果的な露出を検討するなど、具体的な施策をご提案します。

(2)取り組みは行っていないものの、すでに利益が出ている企業

この場合は、企業がPRを行う前からすでに中国のSNS上で商品や店舗に対するクチコミが出回っている状況が考えられます。中国SNSでクチコミを探してみると、中国で売れている理由がなんとなくつかめるケースが多いので、それをより具体化し、伸ばしていく施策が必要になります。

(3)取り組みも始めておらず売上げも出ていない企業

この場合は、現状で中国SNS上にクチコミがあるかどうかを探ります。すでにクチコミが存在する商品なら、中国市場でニーズがある可能性が考えられるでしょう。どう評価され、どの商品と比較されているのか知ることも、戦略の手がかりになります。まずはSNSのハッシュタグやTaobaoの商品ページのコメント欄を探してみましょう。

そしてクチコミがあればその点を訴求する、なければつくっていく施策が必要です。例えば、小売り店舗なら、WeChatにアカウントを持って来店された方と接点をつくり、クーポンを配って訪日予定のある友達に広めてもらう、メーカー等なら日本にお住まいの中国人の方に商品をサンプリングするといった方法も考えられます。いきなり大きくPRを始めるより、手の届くところから情報収集していく姿勢が必要です。

 

4. 違いを認めることがビジネスチャンスに

日本での成功を持ち込まない相手を知って柔軟に受け入れよう

これから取り組みを始める企業から相談を受けると、売りたい商品や予算計画を頭からしっかり固めていらっしゃるケースもあるのですが、スタートの段階ではあまり決め込まない方が良いでしょう。日本で人気の出た商品であっても中国で同じようにニーズがあるとは限りませんし、ニーズがあってもそれは日本とは違う価値観で評価されたポイントかもしれません。

まずはインフルエンサーや日本在住の方をパートナーとして、あるカテゴリやブランドに対して感想を聞くといったところから始めましょう。日本市場における評価との違いも、知らなかったことも認め、ギャップをギャップのまま受け止めることが必要です。

商品に対する価値観が違ったり、評価されるポイントが異なれば、当然ながら日本で成功したマーケティングメッセージは通用しなくなります。中国向けにブランドメッセージを変える、パッケージも一新するなど、パートナーと一緒にリブランディングするくらいのつもりで柔軟さを持った方が成功するのではないかと思います。

越境ECではお互いがネットの向こう側にいるため、顔が見えません。信頼を得るためには、しっかり向き合ってコミュニケーションしていく姿勢が求められます。その時に、これまでの経験を基にした「先入観」「決めつけ」「意思の押し付け」は、うまくいかない“三大理由”となってしまいます。

マーケティングの基本ではありますが、まずは相手をよく知って理解し、それに対して自分たちの提供できる価値を見極めていくことを忘れないでいただきたいと思います。日本国内でのSNSマーケティングの経験も、きっと役に立つはずです。

 

まずは使ってみよう! 人気のSNSでユーザー登録をする方法

 

小泉森弥
※Web Designing 2018年12月号(2018年10月18日発売)掲載記事を転載

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