法改正でどうなる? 画家・藤田嗣治の著作権 事例詳細|つなweB

米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11カ国による「TPP11」の関連法案が成立しました。6カ国以上が国内の手続きを終えると、60日後に発効します。日本はすでに必要な手続きを終えていますから、今は発効までカウントダウンの状態です。

このTPP関連法案には、著作権の保護期間を50年から70年に延長するという重大な法改正が盛り込まれています。実は、映画については、2003年の法改正により保護期間が50年から70年に延長されました。今回は、この法改正を巡る面白い裁判について紹介します。

著作権の保護期間は、著作者の死亡や作品の公表などの起算日の翌年の1月1日から起算することになっています。今年話題となった映画『カメラを止めるな!』の著作権は、公表の翌年である2019年1月1日から起算して70年後の2089年12月31日に終了するわけです。映画の著作権の保護期間を50年から70年に延長した2003年改正法は、2004年1月1日に施行されました。ここで問題となったのが、1953年に公開され、改正前の法律に基づくと50年後の2003年12月31日で保護期間が終わる映画の著作権が、2004年1月1日に施行される改正法により70年、つまり2023年12月31日まで延長されるのかどうかです。これを「1953年問題」といいます。

1953年に公開された映画には『シェーン』や『ローマの休日』など有名な作品があります。2004年以降、著作権が切れたものとしてこれらの映画のDVD等を安い値段で発売していた業者に対し、映画会社が著作権侵害だとして裁判を起こしたことから1953年問題が注目されました。文化庁は、1953年に公開された映画も延長の対象になると考えていました。12月31日の24時と1月1日の0時は同じ時間だから、延長されるというわけです。しかし、最高裁は、 保護期間は満了したとして、映画会社の訴えを退ける判決を出しました。12月31日と1月1日はあくまで別の日だという理解です。

さて、今回のTPP関連法案で保護期間が延長されるのは公表日ではなく、著作者の死亡日を基準に算定する映画以外の著作物です。法律の施行日が1月1日になるかそれ以前になるかで保護期間が変わるのは、今から50年前の1968年に亡くなった人の作品です。有名なのは1月29日に亡くなった画家の藤田嗣治です。今年の12月31日に現行法の保護期間である死後50年を迎えます。今年中に法改正が行われて70年に延長されると2038年12月31日までとなります。さて、藤田嗣治の作品の著作権はどうなるか? 読者のみなさんも法律の施行日に注目してみてください。

※ 海外作品については、約10年の保護期間の延長(戦時加算)があるので注意。なお、藤田嗣治氏がフランス国籍を取得したのは戦後(1955年)のため、対象外となる。

2003年の法改正によって起きた「1953問題」(上)。今回も1968年に亡くなった著作者の作品に同じような問題が起きるかもしれない(下)
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2018年12月号(2018年10月18日発売)掲載記事を転載

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