越境ECの背景
越境ECの周辺は、現在かなり盛り上がっています。この盛り上がり方は一昨年の「越境ECブーム」とはまったく違い、具体的な実績で形になっています。例えば、日本でボトルや中国向けのパッケージをつくっている企業は年内から年初にかけても仕事が入らないぐらいの活況です。この流れを受け、行政も活発な動きをし始めました。東京都は現在TVCMも行って平成30年度東京都メディア活用販路開拓支援事業で越境ECを行いたい企業を集めています(01)。
他の行政や関係機関もふるさと納税のように、越境ECをやりたいと考えている都道府県が多くあり、私はますますこの先も越境ECは拡大傾向にあると考えています。
私自身、その潮流を肌で感じた出来事がありました。2017年9月に中国では最大規模の深セン越境EC協会が来日し、私が代表するJECCICAと情報交換会を実施しました。30名を超える中国の方が来日し、中国と日本の越境ECをもっと盛り上げたいという主旨で話し合いをしました(02)(03)。
社会的に見ても、日中の政府間でも経済の話がされていることもあり、かなり前向きに越境ECが捉えられることがわかります。この背景としては、「越境ECのための物流や決済方法といったECに必要なインフラが整ってきた」「中国の新EC関税が、ふらつきながらもなんとか軌道に乗り始めた」「中国政府としても越境ECを伸ばしたい意向がある」といった3つがあり、この流れで深セン越境EC協会が来日したと考えられます。
余談ですが、越境EC協会の皆さんは会談終了後、全員でドラッグストアに行って大量の化粧品や目薬などを購入されていきました。ひとつの買い物かごに「大盛りの目薬」を見たときは日本の商品の人気の高さを感じました。
越境ECを始める手順
越境ECをスタートさせる順番としては
①商品の選択 ②ショッピングカートと決済の選択 ③翻訳してサイト反映 ④物流の契約 ⑤カスタマーサポート
まずはこの順番でスタートしてみましょう(04)。お試しで始めて、いけそうだと思えばマッチングやテストマーケティングなどでどんどん進めていくのがよいでしょう。
中国において大事なのはマーケティングです。中国向けにまったくローカライズされていない、名前も知られていないブランドや商品などは見向きもされません。これは香港でも台湾でも同じなのですが、日本の食品やお酒がスーパーや百貨店に並んではいても、やはりブランディングされている商品の方が売れているとはっきりわかります。売れている商品はマーケティングもしっかり行っています。
そのあたりは今号の特集にお任せするとして、本連載では先述の手順におけるポイントを簡単にまとめたいと思います。
「できる」商品と決済対応
まずは「商品の選択」。よく日本酒やジャパニーズウイスキーを売りたいという要望を聞くのですが、お酒は国対国の関税や法律がありますので、越境ECではほぼ売れないと思ったほうがよいでしょう。スイーツや食品も同じで、国によって法律や植物検疫がありここを乗り切らないと売れたとしても越境で送ることができず、税関通関で止められてしまいます。よく調べてから実施しましょう。例えば、お茶は中国では売れません。EUはOKです。中国は放射能の関係で関東7県での食品は工場での生産だけでなく、商品がこの地域を通過しただけでNGになります。
続いて決済です。現在、越境ECを見込んだ決済が出てきており、日本の決済会社も合弁の形で進出しています。海外で有名な決済と言えば、PayPal決済やアマゾンペイメント、中国ならAlipay決済、Wechat決済などです。もちろん為替のリスクや越境ECならではの課題はありますが、以前より確実に進歩しています。例えば、買い物された中国元をどうやって日本円にするかも、以前はかなりハードルの高い内容でしたが、現在ではさまざまな手法があります。
例えば、ペイオニアの決済システムは、中国以外では有効です。為替リスクがなく手数料も1%や2%という格安でドルやユーロなどの海外通貨と円の取引ができます。このあたりは各決済会社に詳細をお問い合わせください。
翻訳の注意点
日本のショッピングカートで最大の課題は、多通貨決済よりも多言語対応です。データベースはユニコードでもフロント側がEUC-JやShift-JISなどになっていることも多く、対応が迫られているシステム会社も多いはずです。フロントエンジニアも含めて今後の越境EC、インバウンド対応を考えた多言語対応を行うべきです。
ショッピングカートは、多言語対応のカートをお選びください。最低でも英語と中国語(簡体字または繁体字)が必須で、できれば順にハングルとスペイン語、フランス語まで対応できるとよいでしょう。越境ECユーザー向けとして言語をお考えください。
越境ECはインバウンドで日本に来た方にもアピールできます。本当は東南アジアのシンガポールやタイ、マレーシアのユーザーにもあわせた言語対応があるとベストです。翻訳は「GENGO」のようなクラウドソーシングのサービスならかなり安くできて、本格的な多言語サイトになります。Google翻訳は、現在のところまだサイトの翻訳には難しいと考えたほうがいいでしょう。ただ、メールやチャットでの会話は、Google翻訳も大丈夫です。一度翻訳した後、もう1度日本語に翻訳した時に、意訳があっていればOKです。
ひとつ注意としては、バナーに入っているキャッチコピーは、翻訳しないようにしてください。英語や中国語にはキャッチコピーという概念がありませんので翻訳できません。例えばスマッシュヒット!とかキレカワ女子などと言うキーワードを翻訳しても、ほぼ通じません。ご注意ください。
物流のポイント
次は、物流です。現在、日本郵便のEMS(国際スピード郵便)は税関通関でかなりの確率で止められてしまいます。これは中国の新EC関税の影響が大きく、中国物流企業から入る日本の商品は新EC関税があるため通るのですが、残念ながら日本物流企業の商品は新EC関税がないため止められてしまいます。新EC関税は中国人のIDが必要であり、かなりこだわった商品CSVでやりとりをする必要があります。この内容は公開されていないため、やれると思った日本企業が断念する理由の一つになっています(05)。香港や台湾は、ヤマト運輸やANAが実績も出していますし、越境ECでの流通も伸びているため、活発な動きと言ってよいでしょう(06)。
決済と物流でいえば、箱のサイズや重さでの料金設定の手間が越境ECの大きな課題であると言えます。出荷時での料金決定とユーザーとのやりとりといった工程は、ひと手間二手間掛かるところですが、ショッピングカート内でAPI連携して、この最終工程での梱包状態の費用まで決めてしまう流れも強くなっています。
最後に、 カスタマーサポートは、中国ユーザーはチャットでメールは文化としてまったくありません。電話でのサポートはあります。ただ、ほとんどチャットだと思って大丈夫です。他の国はメールで大丈夫です。Facebookユーザーが多い国は、Facebookメッセージも有効です。
現地調査の方法
越境ECというとすぐにシステム改善を依頼されることも多いのですが、まずはどこの国にどの商品を販売するかです。これは自社の本店サイトでGoogleアナリティクスや競合先のサイトでどの国からアクセスが来ているかを調べることからスタートしてください。
すでに越境ECで売れている商品があれば、それを伸ばすことを選択するのがよいでしょう。他の商品も検討したいということであれば、越境ECの倉庫見学もよいです。実際にどのような商品が越境ECで売れているかが一目瞭然です。
こういう調査もせずに、海外の国すべてに販売したいとか、行きたい国順に販売したいとおっしゃる社長や店長がいるのですが、まったくもってその国のユーザーを無視していると言わざるを得ません。やはり現地に行って、現地の会社や植物検疫などを回り、情報を得るのが大切です。
中国で言えば、日本の10倍の人口があってセレブも日本人以上にいると言われていますが、北京や上海と深センや広州ではまったく別のユーザーです。同じ中国人でも言葉さえ通じないこともあります。
一般貿易と違って、越境ECはすぐには爆発的な売上にはなりにくいものです。だからこそ、まずは越境ECを始めて、現地調査も行いながら進めましょう(07)。