不満買取センターとは? AIが分析した消費者の声を、企業がインサイトとして活用 事例詳細|つなweB

不満買取センターは、「企業の商品やサービス、そして社会をより良くするために、あなたの不満を買い取ります。あなたの不満の中に眠った”ヒント”を私たちが企業や社会に届けます」をコンセプトに、2015年3月18日から始まったサービスです。Webサービス及びスマートフォンアプリを通して生活者からの不満の声を収集しており、2022年12月時点で、累計72万人以上の会員から、累計3,500万件以上の不満を買い取っています。不満買取センターを運営する(株)Insight Techは本サービスの運営だけでなく、「2022年を象徴する不満ワード」や「賞味期限・消費期限に関する不満トレンドまとめ」などを発表しています。

生活者の声が集まる不満買取センター

「不満買取センター」は、登録会員から生活の中で日々感じる不満を随時投稿してもらうサービスです(01)。こちらを運営する(株)Insight Techは、集まったデータを企業などに提供し、商品開発や改善、マーケティングといったことに役立てられています。同社CEOの伊藤友博さんは、その特徴をこう話します。

「設問を用意するアンケート調査では、意見にバイアスがかかる懸念がありますが、不満買取センターはバイアスのない意見が集まりやすいというメリットがあります。また、すでに900万件もの不満データがあるので、幅広い観点から生活者のインサイトを抽出できます」

不満の意見が多く集まるほど有益なのは言うまでもありませんが、人力で解析するのは困難です。それを可能にしたのが、AIによる構文解析です。

「膨大なデータをAIで迅速に解析しています。人力だとどうしてもその人の主観が入ってしまいますが、AIではより客観的に意見を抽出できます」

バイアスのない声を元に紐解いた仮説を裏付けるために、企業側の依頼に応じた質問を登録会員に投げかけて声を集め、AIで解析することも可能です。

 

日本語の文章を構文解析するITAS

不満買取センターに集まった声を解析するAIは京都大学とともに開発されたもので、「ITAS」という名前で単体のサービスとしても提供されています。現在のところ日本語の文章を構文解析できる唯一のサービスだといいます。

「以前より、テキストマイニングは実施されていましたが、多くは単語レベルでの抽出しかできませんでした。たとえば『料金』という単語が多いということがわかっても、問題は『料金が高い』ことなのか『料金がわかりづらい』ことなのかを判断できなかったのです。しかしITASでは、そうした文章の内容が解析可能です。これまで日本語の文章はデータとして扱えない非構造化データとされてきましたが、AIによる構文解析によって構造化できるようになったことで、解析・活用が可能になったのです」

ITASには3つのAIエンジンがあり、用途に応じてこれらを組み合わせて利用されています。

「まず1つ目が『意見タグAI』というもので、文章から主語と述語となる要素を抽出することで、端的に文意を汲み取れるようになります(02)。そして2つ目は、類似の意見を束ねる『可視化AI』というもので、意見ごとのボリュームを把握することが可能です(03)。3つ目は、文章を節ごとに抽出し、そこから『ポジティブ』『ニュートラル』『ネガ』などの感情を判別する『感情分類AI』です(04)。特にネガの意見から気づきを得られることが多いので、さらに4つに分類しています」

課題に応じてAIを活用した結果、実際に売り上げを伸ばしている事例も多く存在します。

「弊社はAIのサービスを提供することではなく、クライアントの課題を解決することを目的としています。そのため、こうした解析結果が実際の課題解決に役立つよう適切なコンサルティングができるという点も強みです」        

 

インサイトや文意を明らかにして課題解決を

不満買取センターやITASを利用することで、たとえばどのような課題解決が行えるのでしょうか。

「一番多いのは、利用者の声を解析して商品開発や改善、マーケティングに活かすというご依頼です。また、WebメディアやECサイトなどで、どんなフレーズがコンバージョンに繋がったのかを解析する案件も多いです。他社で提供しているチャットボットの会話で使われている日本語を理解したいということで、サポートするケースもあります」

解析対象となるのは、オンライン上のテキストだけではありません。

「基本的に日本語の文章であれば、どのようなものでも意味解釈できます。特許書類や業務日誌のような社内文書の解析にも利用されています。専門用語が頻出する文書であっても、AIが単語の区切りなどを判別してくれるので、事前の辞書登録が必要なく、その点でも喜ばれています。また、構文で検索することもできます。たとえば『ヘモグロビンを下げる』という効果について検索したい場合、従来は『ヘモグロビン』と『下げる』が文章のどこかに含まれればヒットしてしまいましたが、『ヘモグロビンを下げる』という文意の内容だけを抽出することができます」

 

企業はインサイトをどう活用しているのか

こうしてインサイトが見出されると、マーケティングはどのように変化するのでしょうか。

「ライオン(株)のオーラルケアの案件では、それまでは『自分(あるいは他人)の口臭をケアしたい』という“ケア”に関心が置かれているという仮説を元にマーケティングが行われていました。しかし不満の声を解析したところ、実は『自分の口臭が強いのかを知りたい』『口臭が強い人に指摘したいが言いづらい』といった、“チェック”の部分についての不満もたくさんあることがわかりました。これにより、チェックに視点を置いたマーケティングにも取り組んでいます(05)」

商品やサービスの改善を繰り返し、一定品質をクリアしてしまうと、これ以上何をすればよいのかと行き詰まる段階が来るでしょう。そんなときに、人力では具体化が難しかったインサイトを教えくれるAIは、救世主となりそうです。

 

 

平田順子
※Web Designing 2018年10月号(2018年8月18日)掲載記事を転載

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