【AI座談会ー前編】 AIで仕事をするハウツー 事例詳細|つなweB
岩井和希_Kazuki Iwai
ILY. (株) 取締役。経営/戦略/マーケティング/ITのコンサルティングを行い、企業理念や戦略の立案から、サービスの立ち上げ、組織/業務プロセスの改善などを実現
大内遙河_Haruka Ohuchi
ILY. (株)チーフコンサルタント。理学博士、専門は宇宙物理学。主にスタートアップの分野でデータサイエンスとデザインを武器としたサービス開発に携わる。ILY. ではリサーチからUX設計、戦略立案などを行う
前川和浩_Kazuhiro Maekaw
(株)テックビーンズ。26歳でIT業界へ入り、エンジニアとしてのキャリアをスタートさせる。2015年にテックビーンズを設立。受託開発と自社開発の両方を進めている
中村健太_Kenta Nakamura
(株)レッジ。株式会社レッジのCMO。現在はAIコンサル事業の統括および企画プロデュースのマネジャー活動している

 

AIはこうすると仕事になる

─ 「AI」をビジネス活用したいと考える企業が増えています。しかしその一方で、AIの力を活用して課題解決につなげた事例はまだそれほど多くないようです。なぜうまくいかないのか。今回はWebデザイナー、AI技術者、エンジニア、さらにはAIプランナーの4人に集まっていただき、現状の課題や今取り組んでおくべきことについて、語っていただきたいと思います。まずは、それぞれの自己紹介をお願いします。

岩井 ILY.の岩井です。主にデザインとコンサルティングを中心とした仕事をしています。AIに関しては、今後企業の課題解決を行う際の重要なツールになると考えて、取り組みを進めています。

大内 ILY.で主にUX設計や戦略立案に携わっています。またAIに関しても以前から取り組みを進めてきました。最近の仕事としては、AIチャットボットを使ったコミュニケーションツールの構築や、スマートスピーカーを使う際のUX設計などを行っています。

前川 テックビーンズでエンジニアをしています。現在は主にWebアプリケーションやスマートフォンアプリケーションの開発を行っています。AI関連についてはILY.さんとともに取り組みを始めています。

─ もうひとり、中村健太さんには本特集の他のページでも記事作成に協力していただいています。

中村 レッジでAIの開発やビジネス化を担当している中村です。AIの「“あの技術”と“この技術”を組み合わせたらこういうことができるよ」といった提案や、AIに関する事業の立ち上げ、さらにはメディアの運営などを手がけています。

─ 中村さんはすでにAIの導入やサービス構築を手がけていらっしゃいますが、現状、すでにAIを活用したいと考えている企業はかなりあるんですか?

中村 具体的に話をいただくのは大手が中心ですが、AIに注目している企業はかなり増えていると思います。

─ どんな事業をしている企業がAIに注目しているんでしょうか。

中村 その質問をされることが多いんですが、AIって例えるならば、かつてのITのようなもの。つまり、ありとあらゆる企業に役立つものなんです。「うちにITは関係ないです」なんて言う企業、ありませんよね。

岩井 ありとあらゆる企業が、いずれAIを導入していくだろう、と。ただ、現状でもっとも話題になるのがビッグデータの解析にAIの力を利用しようという方向性ですよね。

大内 解析にかかっている人件費を削減できる、というわかりやすいメリットがあるから、仕事になりやすいんですよね。

 

中村 そうですね。ただし、今のAIでできる範囲ってすごくニッチなんです。自然言語解析にしても、画像解析にしても、すでに使える技術になってきているのは間違いないんですが、活用できる領域がごく一部に限られている。企業の課題がそこにピッタリとハマればいいんですが、ちょっとでもはずれるとまるで役に立たない、なんてこともあるんです。

─ その点もう少し具体的に教えていただけますか?

中村 例えば画像解析AIを活用して、野菜の画像を自動的に分類したいという課題があったとします。AIにたくさんの画像を読み込ませて、せっせと学習させると「ダイコン」や「ナス」、「トマト」なんかを上手に分類できるようにはなるんです。ただ、そこに白い車の写真を見せても「ダイコンです」と答えてしまうがそれでいいか、ということなんです。複数の学習データを掛け合わせればいいじゃないかと思うかもしれませんが、現状の技術ではまだ難しい。となると、事前か事後に人が確認するしかない、みたいな話になってしまう。

何ができるのかを理解すべし

─ なるほど。「多少はノイズが入ってもいい」と考えられるのなら役立つけれど、ひたすらに高い精度をもとめるような仕事だとうまくいきませんね。

中村 そう。効率化するつもりが、余計な手間がかかってしまった、なんてことになりかねないんです。

岩井 「役に立つ領域」がどんなものか、ちゃんと理解しておかないと、ビジネス活用しようにも形にならない。

中村 そうなんです。ところが、 企業の中には、「AIはなんでもできる夢の技術だ」みたいに捉えているところもまだ多いので、話がこんがらがってしまうことも少なくないんです。困ったことに。

失敗しない予算の立て方

大内 ちなみにAIの精度、たとえば先程の野菜の分類がどれくらい正確にできるのか、企業が求めている精度にどの程度近づけるかって、事前にどう判断するんですか?

中村 これは正直、やってみないとわからないです。テストを重ねていけば、「学習が進めば90%以上の精度が出る」みたいなことは予測できるようにはなるんですが、あくまでも実際のデータをつかってテストを重ねていかないと見えてこないです。

岩井 しかも、AIって最終段階のチューニングが難しいんですよね。そのチューニングの良し悪しで、精度に幅が出てしまう。そうなると難しいのは予算の立て方です。受託制作の場合、初期の見積もりを絶対に守らなければならないみたいなプレッシャーが強いじゃないですか。まだ見通しの立たないうちに、価格を決めないといけないことも多いですよね。

中村 ええ。だから僕は「AIは(事業にとって)採用みたいなもの」と話すようにしているんです。

 

─ 採用ですか?  どういうことですか?

中村 一定期間、お試し期間を設けましょうということです。AIは精度の問題もそうですが、最初にお話したように「事業にマッチするかしないか」についても、試してみないとわからないところがある。だから人事のように、最初の数カ月は試用期間に設定しようというわけです。その間にできることとできないことをよく見極めて、本契約を行うようにしよう、と。

岩井 それとAIの場合、納品をして動き始めた後にも、さらに学習をさせて精度を高める工程が必要になりますよね。Webサイトで言う、運営に当たるプロセスです。そのあたりも念頭に置いて受注をしないと、失敗しますよね。

技術とビジネスをつなぐ

─ ところでAIをビジネス活用するための技術分野、開発環境に関してはどんな状況になっているんでしょうか。

大内 昔と比較すると、環境は非常に充実してきたと言えると思います。その一例がライブラリの充実です。昔はそれこそニューラルネットワークから自分でつくらなければいけなかったのに対して、今は「ありもの」を活用できる。

前川 これまでエンジニアとして仕事をしてきた人なら、それほど難しいことではないと思います。たとえば音声AIの分野などはかなり充実してますね。

 

中村 そうなんです。技術的には取り組みやすくなっているし、企業側にはニーズがある。しかし、その間を取り持つ人がいないんです。両者をうまくつないで、時には誤解を解いて、小さくてもいいからビジネスにするような人です。

前川 それはすごく感じますね。技術を覚えても、それを実践するための仕事が少ない。そうなると、身につくというところまでいかないんですよね。

遊びの中にヒントあり

岩井 だから、Web制作会社にはチャンスがあるんですよ。最近の制作会社には単にWeb制作をするところから、デジタルで課題解決するという領域に踏み込んでいるところが少なくない。そこでAIを使っていけばいいじゃないか、となる。

 

─ ILY.はまさにそういう視点でAIの開発に取り組んでいるんですよね。

岩井 当初は社内で課題をつくり、その解決策を考えるといったことを繰り返すだけでしたが。

大内 遊びみたいな感じで始めて、ワークショップを開いて、外部の方にも参加していただく、といったプロセスを繰り返していました。確かにそれ自体はビジネスにはならないんですが、そういう一つひとつが、今になって役立っているなと感じます。

中村 とにかくやってみればいいんですよ。そのうち必ず回収できますから。なぜ、そんなふうに言い切れるのかというと…過去に同じような事例があるじゃないですか。最初の頃のインターネットってまさにそういう立ち位置でしたよね。インターネットをどう活用すればビジネスにつながるのか、みんながわかっていなかった時代に、一部の人達が面白がって試していたことがその後どうなったのか。今では大きなビジネスになっているものも少なくないですよね。

─ なるほど。今回の特集もそういった視点で見てみると、見え方が変わってきそうです。

岩井 そうした取り組みをしてきた中で、近い将来、大きなビジネスにつながりそうなのが「音声AI」、つまり、スマートスピーカーを活用した領域だと考えているんです。

─ いい前振りをしていただいてありがとうございます。本特集ではここから現在活用できるAIサービスをいろいろと紹介していきますが、特集の後半で音声スピーカーに関しての話を深めていこうと思っています。

 

というわけで、座談会は後半に続き、そこではスマートスピーカーを中心に、話を進めていきたいと思います。

小泉森弥
※Web Designing 2018年10月号(2018年8月18日)掲載記事を転載

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