2018年の著作権法改正のポイント 事例詳細|つなweB

先日、著作権法の一部を改正する法律が成立しました。来年1月から施行される予定の今回の改正のポイントは4点(上の図)、いずれも権利制限規定に関わるものなので、著作物の利用を促進する方向での法改正といえます。その中でも皆さんに関係があると思われる3つの要点をご紹介します。

1.「デジタル化・ネットワーク化への柔軟な権利制限規定の整備」で新たに設けられたのは、まず著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用で、技術開発や情報解析のための利用やリバース・エンジニアリングでの利用などがあります。要するに作品の内容を利用するというより、作品の存在やその内容をデータとして利用するという方法です。同様に、従来はグレーだといわれていたAI開発のディープラーニングによる「代数的」「幾何学的」な解析なども、柔軟に行うことができるようになりました。

もうひとつは、コンピュータにおける著作物の利用を円滑または効率的に行うための利用です。これにはコンピュータにおけるキャッシュのための複製、サーバ管理における送信障害防止のための複製、ネットワークでの情報提供準備に必要な情報処理ための利用などがあります。また、現行法でも認められていた、複製機器の保守・修理・交換やバックアップのための一時的な複製などの規定も範囲を拡張するなどの整備がなされました。

さらに、所在検索サービスや情報解析サービスなどに付随する利用も許諾を得なくても可能になりました。これにより、日本法ではグレーだと言われていたGoogleブックスに代表される全文検索サービスや、ビッグデータの解析などの情報解析サービスも適法に行うことが可能になりました。

次に2.「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」では、学校教育の現場において、現在は許諾を得ないとできない生徒に対する講義資料の配信などが可能になります。最近はタブレット端末やPCに講義資料を配信する学校もありますが、今後は許諾を得なくても可能になります。教育現場における電子教材の普及やICT化がさらに進むのではないかと予想されます。

3.「アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等」は、美術館などにおける作品の展示に際し、電子端末に展示作品を解説とともに画像掲載することが含まれます。従来はグレーだった展示作品をWeb等で紹介する際の作品のサムネイル画像の提供が可能となりました。

今回の法改正で、現行法では許諾を得ない限り違法であった行為や、グレーと言われていた行為の多くを適法に行えるようになりました。ただ、著作権者の不利益があまりにも大きいような利用はできないことになっているので注意も必要です。 

Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2018年10月号(2018年8月18日発売)掲載記事を転載

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