インターン、逆求人、OB訪問…プロが語る採用の潮流変化 事例詳細|つなweB

今も昔も主流は採用ナビ

厚生労働省が今年1月に発表したデータによると、2017年平均の有効求人倍率は1.50倍。8年連続で上昇を続け、過去最高だった1973年以来44年ぶりの高水準となっています。

人口減少、景気回復による採用意欲の向上、働き方改革など、いくつもの要因で大きく変化しつつある雇用事情。では、新卒を中心とした採用の手法はどのように変化してきたのでしょうか。人事の最新動向を調査するProFuture株式会社/HR総研の首席研究員、松岡仁さんは言います。

「実は採用手法のメインストリームは、ここ20年ほど変わっていません。1990年代後半から2000年代に入ってからは、マイナビなどに代表される『採用ナビ』や、自社のWebサイトが新卒採用のメインストリームであり続けています。企業はまずWebでプレエントリーしてもらい、興味を持った学生を会社説明会やセミナーに呼んで詳しく説明する。そして興味を持った学生にエントリーしてもらい、書類選考を経て面接、採用するという流れです。それ以前は、Webではなくハガキで資料請求したなどの違いはあるにせよ、企業側の手法に大きな変化はありませんでした」

この頃の手法を象徴するのが、『母集団積み上げ方式』という考え方です。例えば、今年は何人採用したいから、採用予定人数の何倍の人に内定を出し、さらにその何倍の人と面接するため、会社説明会はこれだけの人数を集めなければいけない・・・と母数を積み上げていく考え方です。そのため、企業はいかに多くの学生にプレエントリーしてもらうかを重要視していたのが、従来の採用手法だったのです。

 

人は欲しいがハードルは下げない企業側

では、企業側と学生側のマインドはどのように変化しているのでしょうか?

「学生のマインドでいうと、今も昔も景気に関連している部分が大きいと言えるでしょう。学生は景気がいいと、大手志向になります。これは企業の求人数が増えることで、『自分も入れるのでは』と考える学生が増えることが背景にあります。これを象徴するのがバブルの頃で、当時は新卒の約3分の1が上場企業に入社したと言われています。一方で、雇用側のマインドは大きく変わっています。バブル期の頃は、採用計画を何が何でも達成することが命題でしたが、いまはそうではありません」

いま、少なくない企業にとって課題となっているのが、バブル期に採用した社員の処遇。採用のハードルを下げて大量に採用した社員が今、企業の「負の遺産」となって重くのしかかっているケースも少なくありません。こうした過去を踏まえて、「人材は欲しくても、採用のハードルを下げない」のが、今の企業側だと松岡さんは指摘します。

「1人でも多くの人材を獲得したいが、採用のハードルは下げない」

こうした企業の思惑から、今、採用手法に大きな変化が生まれつつあります。それが「インターンシップ」と「逆求人型サイト」。次頁でこの動きと背景を詳しく見ていきましょう。

 

プレ面接化するインターンシップ

景気の変動による採用意欲の増減はあっても、採用手法に大きな変化は見られなかった約20年。しかし、今、採用事情に大きな動きが2つ見られると松岡さんは指摘します。

「1つは、インターンシップ。もう1つが逆求人型サイトの盛り上がりです。2つに共通するのは、マイナビのような就職ナビが本格的に始動する前から、企業側が学生にアプローチしているという点です」

就職ナビでは、経団連が定める就職活動の広報解禁日である3月1日に採用情報がオープンし、プレエントリーの受付を開始します。しかし、実際にはその前年の6月1日からオープンしており、3月1日までの間は主にインターンシップの募集サイトとして機能しているのが実態です。

「毎年3月1日時点の学生の動きを定点観測していると、ここ数年、学生がプレエントリーした企業数や、参加した説明会の回数は減っています。一方で、すでに受けている面接の数は増えている。つまり、インターンシップを受けた学生はセミナーなどに参加せず、いきなり面接を受けており、しかもそれが3月1日前に行われているというのが実態です。インターンシップは1990年代後半から増えはじめたのですが、急増したのはここ5年ほど。今は企業の採用意欲が旺盛で、年々求人倍率も上がっているため、企業としてはいち早く動いて、内定を出さないと採用できない現実がある。そこでインターンシップという形で学生にアプローチしているのです」

さらに昨年、経団連が「インターンシップは5日以上」という日数規定を撤廃したことでさらに激増。インターンシップの表向きの目的は就業体験・教育の場であるものの、実際は「プレ面接」のような場になっているのが今のインターンシップなのです。

 

存在感を増す逆求人型

そしてもうひとつの大きな動きが「OfferBox」などに代表される、逆求人型と呼ばれる採用手法です。

「Webサイトに登録している学生の情報を企業が見て、欲しい人材に個別にアプローチしていく手法です。これまで『母集団積み上げ方式』のように説明会や、エントリー人数を重視するのではなく、本当に欲しい学生だけにアプローチしていく手法。ダイレクトソーシングの一環ですが、新卒向けの逆求人型サイトはいまの時代を象徴するものと言えます」

逆求人型は、自社にあう人材かをしっかり見定められるというメリットがある一方、当然、企業側の負担も大きくなります。

「例えばメール1つとっても、一斉送信ではなく、『あなたのこういう活動に興味を持ち、当社でこう活躍できるはずだから、ぜひ一度、お会いできませんか』といったようにカスタマイズしたメールを送る必要があるため、手間はかなりかかります。しかし、従来のような『待ち』ではなく、『攻め』の求人をしないと、人材は確保できない時代になっています」

また、インターンシップ、逆求人型に加えて、OB訪問受付サイトも注目を集めています。

自社の社員をOB訪問サイトに載せ、それを見た学生が社員を訪問するのが、OB訪問サイトの仕組み。これも3月1日のルールに縛られないメリットがあります。学生にとっては、インターンシップのようなオフィシャルなものではないので、働いている人の素顔や、業務の実態が見えやすいというメリットがあります」

就職ナビに加えて、複数の選考ルート、学生へのアプローチ方法を持つことが、これからの採用には必須と言えそうです。

HRプロ
人事の最新動向やセミナーなど、人事に関する情報が網羅されている人事ポータル『HRプロ』。HR総研の調査レポートは匿名で行われていることから、リアルな声が聞けると評判
教えてくれたのは…松岡 仁
ProFuture株式会社 HRサポート部 部長 HR総研 首席研究員
奥田高大
※Web Designing 2018年8月号(2018年6月18日発売)掲載記事を転載

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