売り手市場で成果を目指せ!中途採用、現場の事例 事例詳細|つなweB

[1]中途採用のはじめかた

大手転職情報サービスやそれを利用する企業は、現在の転職市場をどのように捉えているのでしょうか。採用活動を始める前に知っておきたいことを聞きました。

企業は採用予算を増額 未経験者採用が増加中

人手不足の声があちこちから聞かれる現在、転職情報サービス最大手のマイナビ転職に寄せられる相談にもその傾向は顕著に表れています。

「人材が欲しい企業は確実に増えています。実際に、中途採用のための予算を前年より増やした企業が約7割に上ります」((株)マイナビ 横手浩平さん)

その要因のひとつが、売り手市場において採用単価が上がっていること。営業マンを1人採用するのに、約60万円程度かかると言います。また、複数の媒体に出稿したり、人材紹介(エージェント)も利用するなど、企業が採用活動の幅を広げざるを得ないことも理由になっています。

さらに、応募があっても採用面接に現れないケースが非常に多いこと、内定辞退が少なくないことも、企業にとって大きな負担となっています。では求職者側はどのような意識で転職活動を行なっているのでしょうか。興味のある企業に一括応募し、一次選考に通ったら志望順位の高いところを優先して面接に出席しているのではないかと、横手さんは推測します。

「若いうちにいろいろな職を経験することをポジティブに考え、業種・職種の志望が決まっていない状態で転職に取り組み始める人が多いようです。昨年のデータでは約7割がこれまでとは異なる職種へ転職(ジョブチェンジ)しています」(横手さん)

経験者採用がより難しくなっているためにハードルを下げ、未経験者も対象とした募集が増えることで、この流れが加速していると言えるでしょう。

「大企業がエンジニア100名急募というケースも珍しくありません。それが未経験OKであればより良い条件を求めて他の職種から大勢が応募する、するとそこの職種に補充が必要になる、という形で出入りは非常に激しくなっています」(横手さん)

転職情報サイト「マイナビ転職」。会員は約444万人と業界最大規模で、ITエンジニアや女性向けなど細かな要望に応える専門サイトも持つ。求職者が採用担当者と直接会える転職イベントも開催 https://tenshoku.mynavi.jp/

 

応募条件が母集団を決める明確な採用方針が鍵

横手さんが営業を担当する(株)シンクランは、金沢に本社を置き、コカ・コーラ社製品を中心に物流を担う大手企業。全国に24ある支社の採用広告を東京事務所で統括しています。同社の佐藤浩文さんはその責任者を務めています。

「以前は各支店がそれぞれ募集していたのですが、それでは費用対効果が悪いということで、数年前から東京事務所に専門の部署を置き統括する形になりました」(佐藤さん)

各支社の募集を取りまとめて大きな広告を出すことによるコストメリットがあるだけでなく、集約された情報を効率的な運用にも役立てています。

「シンクランさんは全国展開されているうえに業務拡大もあって、マイナビ転職以外にも複数の媒体をお使いなのですが、佐藤さんが統括されるようになってからはどの媒体がどのエリアに強いとか、どれくらい採用できたかといった分析も行い、うまく使い分けをしていただいています」(横手さん)

シンクランの配送業務では主に4t車両が使われるため、社員は中型自動車免許が必要になります。しかし、応募要件ではそれを必須としていません。

「免許だけを考えると母集団を限定することになってしまいます。それよりも現在はこの仕事に興味がある人材を幅広く雇用し、入社後にしっかりと成長させていくことを強化しています」(佐藤さん)

ジョブチェンジの流れもあり、応募条件の設定は同社に限らず多くの企業が悩む部分ですが、求人を出す時点から、人材を獲得するだけでなく教育・定着の部分まで考えておくことが重要になっていると言えます。

 

[2]制作・運用のすすめかた

企業理念や職場環境など、求職者の求める情報をどのように伝えていけば良いでしょうか? 出稿から運用までのフローと、各段階での取り組みについて聞きました。

採用市場は「生き物」飽きさせない新鮮さを重視

一般的に転職情報サイトでは営業担当者が企業に要望を聞く、あるいは問い合わせを受けて詳細をヒアリングし、それに適したプランを提案、原稿制作を行います。

「シンクランさんは採用人数が多いので、掲載期間約1カ月×3回(または6回)といった形で長期のスケジュールをご提案します。掲載プランは内容と掲載順位によって5種類用意していますが、フリーデザインのメッセージページがつく最上位プランをご利用いただいています」(横手さん)

シンクランは継続的にマイナビ転職を利用していますが、広告原稿を使い回すことはせず、掲載する度に新たに取材を行って作成しているといいます。

「やはり実際に今の現場を取材して、そこで感じたものやお伝えしたことを新鮮な原稿にしてほしいと思っています。いつも同じ原稿を出していると飽きられるし、この企業がまた募集しているのかと不信感にもつながりかねません」(佐藤さん)

昨今、企業ブランディングから求める人物像を絞り込み、ターゲットに応じたクリエイティブを制作する流れが増えていますが、異業種からの転職者が多い同社では「むしろ絞らない方がいい」と考え、あえて逆向きの姿勢。効果検証からの改善というより「先入観を持たない」つくり方を重視しているといいます。

「採用はある意味生き物のようなもので、我々は毎回違う時間を買っているわけです。分析して自らの納得感を求めるより、記事をつくる視点を変えたり深く考えることの方が見る人に響くのではないかと、私は思っています」(佐藤さん)

「中途採用市場は人の動く時期・動かない時期の違いが明確で、反応は環境要因に大きく左右されるため、現実的に効果検証は難しいということもあります。検証したとしても過去のもので、次の時にはもう環境の方が変わってしまっているんです」(横手さん)

 

デジタル活用にも可能性 しかし最後は“人”がつくる

掲載を始めたらおしまい、というわけではありません。新しい情報や新たに募集するエリア・締め切るエリアが出たときなどは随時情報をアップデート。またPVや応募状況を見ながらスカウトメールも活用します。これはマイナビの営業担当者が手伝う場合もあります。

「今回の募集人数・掲載期間なら、今の段階でどの程度PVが欲しいかというのは肌感覚でわかるので、ちょっと少ないと感じたらこちらからスカウトメールを出したりしています。お客様が採用できているかどうかは、常に念頭に置いていますね」(横手さん)

さらに、応募者とのコンタクト・面接の段階においても、企業にとってはさまざまな課題があると言います。シンクランの場合、どの支社でも同じ品質で応募者に社を紹介したい、連絡へのレスポンスを良くしたいといったことです。

例えば動画配信やチャットボットを導入するなど、情報を効率よく届けられるシステムを活用すれば、それらを改善できるかもしれません。

しかし、それだけではカバーできない点もあります。

「デジタルの活用で整備できるところはあります。しかし最終的には“人”なので、アナログな部分は絶対に必要になります。そのちょうどいい掛け合わせができれば、採用活動はもっと強化できるのではないかと考えています」(佐藤さん)

採用は人と人が出会う場。お決まりのメソッドだけでも、効率を追求したシステムだけでもなく、コミュニケーションを必要とする人の判断がそれをつくっています。

 

[3]採用活動のつづけかた

採用広告はブランド戦略やロジカルな運用が求められる一方で、人の熱意が成果を生むこともあります。採用したい企業とさせたい媒体が共に成果を出すために、何が大切なのでしょうか。

熱意と行動力が生む共に課題を解決する力

ひとくくりに転職情報サイトといっても数は多く、それぞれに特徴や強みがあります。その中から企業が長く付き合うポイントになるのは「営業担当者の熱意と行動力」だと佐藤さんはいいます。

「採用は生き物ですから失敗する広告もある。しかし、ならば次に何をしようかと率先して動いてくれる人は意外に少ないんです。営業担当者には人事並みに社内のことを知ってもらい、1つのチームとしてチャレンジし続けることが大切だと思っています」(佐藤さん)

一方、横手さんは営業担当者としての成功とは枠の売り上げではなく「クライアントに採用を成功させること」だと考えています。

「お会いする方によって課題は異なります。時にはマイナビ転職でなく企業の採用サイト改善をご提案したり、採用後の離職率を下げるために適性検査導入を勧めるなど、その方にとっての成果を意識しています」(横手さん)

お互いが熱を持って取り組む姿勢は、採用広告の見出し一行にも表れるものです。ブランド戦略やSEOが当たり前になり、そこで飛躍的な成果が期待できない現在、ターゲットに届けるには広告それ自体に強さが必要です。

中途採用を希望する企業は、今の市場を正しく知る意味でも営業担当者と十分にコミュニケーションし、人事を共に動かすチームとして信頼関係を築くことから始めることが重要でしょう。

ロジカルに判断することや、時期・ターゲットを考慮することと同じく、熱量を持った取り組みも採用の成功を支える要素となる

 

笠井美史乃
※Web Designing 2018年8月号(2018年6月18日発売)掲載記事を転載

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