SEOではなく「SXO」!? 検索体験を視野に入れる必要性 事例詳細|つなweB

従来のSEOに代わり注目されているのが「SXO(Search Experience Optimization)」です。多くのSXO施策を実施し、最適な顧客体験(CX)を構築してきた博報堂アイ・スタジオの伊藤智之さんと福島裕人さんに話を聞きました。

 

教えてくれたのは…伊藤智之
博報堂アイ・スタジオ データドリブンクリエイティブ部 部長
福島裕人
博報堂アイ・スタジオ データドリブンクリエイティブ部 チームリーダー

 

SEOとSXOの最大の違いはユーザー視点の有無

近年、SEO(検索エンジン最適化)に代わってSXO(検索体験の最適化)というキーワードが用いられるケースが増えています。このSXOを“より効果的な新しいSEO”として捉えるのは、言葉の意味として考えると半分正しく半分間違っています。なぜなら、SEOとSXOでは施策の手法のみならず、その対象や主体など、そもそもの出発点が大きく異なるからです。

「まず、我々としてはSXOをCX(UX)デザインの一部分として考えている点をご理解ください。その上で、SEOとSXOの最大の違いは、ユーザー視点を持っているかどうかにあります」と語るのは、CX視点でのコンテンツプランニングに定評がある博報堂アイ・スタジオの伊藤智之さん。

「いわゆる狭義のSEOは、企業が伝えたいことをベースに手持ちのコンテンツの検索結果の順位を上げようというものです。それに対しSXOは、ユーザーのインサイトやニーズから出発してコンテンツを開発していきます」(伊藤さん)

ここでいうSEOは、Google自身が実施する検索表示のアルゴリズムや、その有用性を向上させるさまざまなアップデートに企業側があわせていく行為を意味しています。まったくSEO施策をしていない場合は、こうした従来の手法でも効果が現れやすいのですが、検索アルゴリズムの進化が著しい現在では、あまり意味はないといいます。むしろ、企業側が伝えたいこととユーザーの知りたいことや利便性との間に乖離をもたらし、「利用者にとって有害なことすらあり得ます」と同社のグロースハッカー福島裕人さんは警鐘を鳴らします。

「極端な話、SEOはコーディングのみでも完結できる話です。SXOのアプローチは、何が欲しい、何が知りたいといったエンドユーザーの課題をさまざまなアプローチから見出し、ユーザーのためになるコンテンツを開発していくことです。我々の仕事は、このユーザーがやりたいことと、企業が伝えたいことの橋渡しをするマッチングであり、その副産物として検索のランクが上がってくるのです」(伊藤さん)

 

 

 

成果につながるコンテンツの改善が本来のSXOの狙い

では、クライアントに対してSXOを施策として提案するのは、どのような場合が考えられるのでしょうか。

「SXOは課題があって初めて必要となる解決法の思考なので、こちらからいきなり提案することはほぼありません。最初はWebサイト全体の調査を行い、ビジネスのゴール(コンバージョン)を改善するデジタル施策の中に位置づけられます。そのため、SXOという単語を用いず説明することもあります」 (伊藤さん)

通常、SXO施策の進め方はWebサイト内のコンバージョンに寄与するものから逆算してユーザーの行動を想定(カスタマージャーニー)分析を行い、成果につながる優良顧客がどのように動いているのかを調べるところからコンテンツをつくり変えることが多いといいます。

「さまざまな調査の結果、SXO施策が一番ハマるケースは、“質の高い流入が少ない”場合です。例えばECサイトなどで、CVR(コンバージョン率)が高いのに検索からの流入が少ない場合、母数を増やすために広告運用などで流入を増やすケースがありますが、これは結果的に“薄い”客が増えてCVRがガタ落ちすることもあります。本来高めるべきはコンテンツの“質”であり、そうした場合にSXOが効いてきます」(福島さん)

検索流入の増加という“量”のみを考えたSEO施策に対して、SXOは場合によってはWebサイト全体の情報設計に関わってくるといいます。そのため、中・長期的な視点での施策となることを、Web担当者はよく理解しておく必要があると言えるでしょう。

「広告費をかけなくても自然検索から入ってくれるローコストな施策というイメージがありますが、正しい手順・手法で実施しようとすると従来のSEOと比べてはるかに手間も時間もかかります。SXOは奥が深く、セオリーどおりPDCAを回しても簡単に数字が上がるものではありません。また、やることもコンバージョン定義、カスタマージャーニーマップの作成と行動分析、要因の特定、キーワードの選定からコンテンツ企画、デザインなど制作に至るまで非常に多岐に渡ります」(伊藤さん)

 

 

成果が上がるからこそ長期の施策でも我慢できる

SXOは中・長期的な施策であるといっても、ビジネスである以上は目に見える形での成果をすぐに求められることもあります。一方で、成果を起点として考えない施策も、持続性において大きな難点があるといいます。

「流入の増加だけを目的に効果は二の次、その先のユーザー体験を考えていないコンテンツマーケティングをよく見かけます。しかし、このような施策は半年持たないのが個人的な印象です。なぜなら、成果に責任を持つ役職の人は、成果が上がるかどうかわからないものをそこまで待つことが難しいからです。逆説的ですが、SXOは成果を上げる施策だからこそ長期間耐えることにも理解が示されやすくなるのです」(伊藤さん)

また、効果測定についてもコンバージョンに対する影響を中心に測定し、さらに状況に応じてさまざまな視点からの分析を行う必要があるといいます。

「ECサイトなどであれば、そのページ自体がコンバージョンしているかという観点もありますが、通常のオウンドメディアではコンテンツの読了率や滞在時間も指標として重要です。また、そのページがドメインへの入口になっているかどうか、さらにそのコンテンツがコンバージョンに寄与していくかを見ていきます」(福島さん)

例えば、自動車メーカーであれば最終目標となるKGI(重要目標達成指標)は「自動車の購入」ですが、通常はWebサイトで購入するのではなくディーラーが販売の主体となるため、Webサイトのコンバージョンはディーラーへの「送客」に設定されるのが一般的です。

その場合、商談の予約や見積もり、試乗やショールームの店舗検索などがコンバージョンへの貢献度として測定できます。そして、設定したコンバージョンへとつながる「ゴールデンルート(ユーザーが辿るページ動線)」を整備することで、ユーザー体験を改善していくのがSXOの基本的な考え方です。

もちろん、業種や商材によってサイトの役割は異なるので、最終的な成果やそれを評価すべきポイントも個別に検討していく必要があります。

 

 

 

生活者の視点をベースにSXOの感度を磨きあげる

同社のSXO施策で大きな効果を上げた例として、製薬会社のWebサイトでの出来事を教えてくれました。それによると、製薬会社のサイトでは市販している薬剤の情報が掲載されていますが、多くのユーザーは個別の薬剤名ではなく、現在困っている症状のキーワードで検索することが多いといいます。

ところが、その当時はまだ信ぴょう性の低い健康・医療系キュレーションメディアの情報が検索結果の上位を占めている状況でした。そのため、症状のキーワードから製品情報へ遷移させるためのコンテンツ開発はかなりの困難が予想されたといいます。

しかし、ここでいたずらにSEOの領域で戦うことはユーザーのためにはならず、本当に必要なものは信頼性の高いコンテンツであると考えた伊藤さんたちは、専門家の監修のもと症状の解説と役立つ治療法や適切な薬の情報を提供するコンテンツを構築していきました。その後、悪質なキュレーションサイトの不正の実態が明らかとなる報道がされ、2017年2月にはGoogleの医療・健康に関するアルゴリズムのアップデートが行われました。その結果、同社が関わった製薬会社のコンテンツこそが「正しい」情報と判断され、検索結果の上位に表示されるようになったのです。

「検索サイトが本来の姿に戻ったことで、SXOのアプローチが間違いでなかったことが証明されました。製品情報への検索流入をコンバージョンとして設定していましたが、2.7倍という高いパフォーマンスを実現できました」(福島さん)

SXOで重要なユーザー視点を獲得するコツについて伊藤さんは語ります。

「もともと博報堂DYグループは生活者の視点を大事にするカルチャーが仕事のコアにあります。私自身もクライアントの製品を実際に使い、それを探す人の気持ちになって店やWebサイトを利用しています。もし、それが無理でもユーザーの話をよく聞いてインサイトの発見に心がけています」(伊藤さん)

スタッフに博報堂由来の生活者発想が浸透しているからこそ、深いレベルのSXOが実現できていることがわかります。

 

 

 

Text:栗原亮