【Web解析士が解説】サイトで魅力を伝える4つの方法 事例詳細|つなweB

 

ダンス市場の細分化

平成24年度から中学校でダンス授業が必修化、ドラマのエンディングダンスが定番化するなど、近年のダンス人口の増加には目を見張るものがある。フィットネスクラブではダンス講座が次々と開講し、マイクロジムやパーソナルトレーナーも急激な増加傾向を示している。

ダンス市場の成長と同時に、ダンスのジャンルやレベル、生徒の目標など、専門性やニーズによる細分化も進んだ。そのため一口に「ダンス教室」といっても、その業態により、ターゲット層もWebに求められる伝達内容も大きく異なる。 

例えば、「美容や健康維持のため」にダンスを楽しみたい人は、勤務地や自宅に近い総合的なスクールに通うことが予想される。「趣味が目的」の客層には、レッスン内容に加え、癒しや美容を意識したコンテンツ、地域特化型の戦略に、まずは取り組むべきであろう。

しかし「ダンスの技術や表現力の向上」を目的とした客層は、どこで習うかよりも、どんな先生が何を教えてくれるのかについて、より詳細な情報を求めている。それゆえ、プロフェッショナルであることを意識したコンテンツによる広域な戦略が必要となる。

ここでは、専門性の高いダンススクールにおいて、Web解析の活用により、サイトの再構築を行った施策を紹介する。

01 Webサイトのリニューアル前後(1)
G-Rockets STUDIO Webサイト(現在)
01 Webサイトのリニューアル前後(2)
リニューアル前のWebサイト

 

アクロバットダンサーによる指導

東京・葛飾区の「G-Rockets STUDIO」は、アクロバットダンサーが指導するダンススクールである。日本初の女性のみで構成されたアクロバットダンスカンパニー「G-Rockets」の現役ダンサーが講師陣を構成する。

G-Rocketsには、元体操・新体操選手など、世界を体験した様々なアスリートが所属している。独自公演はもちろん、堂本光一主演の『Endless SHOCK』、EXILEのライブ、長野のスペシャルオリンピックス冬季世界大会開会式、NHK「紅白歌合戦」など、舞台・ライブ・テレビ・イベントと、活躍の場は幅広い。

そんな世界を知る現役アクロバットダンサーによる指導と本格的なレッスンが、なにより当スクール最大の魅力となっている。

02 G-Rockets STUDIOの特徴
アクロバットダンスカンパニー「G-Rockets」 鍛え上げられた肉体が見せる衝撃と感動の舞台、革新的アプローチを挑み続けるアクロバットダンスカンパニー。2017年には、朗読エンターテナーや和太鼓奏者とコラボレーションした完全オリジナル版「大奥」を上演

 

魅力を伝えるために「削る」

実は、急激に世間に浸透しはじめた「エアリアル(空中ヨガ)」を日本に初めて導入したのも、当スタジオである。さらに健康目的のヨガクラスも開設されている。

どちらも「一般的に」人気があるから、アクロバットダンスやバク転だけでなく、エアリアルもヨガも売り込みたい…。できれば、ダンサーへの仕事の依頼も欲しい…。再構築を行う以前のサイトは、そんな想いが色濃く反映されていた。

確かに「ヨガ」や「エアリアル」は検索ボリュームが多い。しかしG-Rockets STUDIOは本格的なレッスンこそが最大の武器である。とてもOLが会社帰りに気軽に寄ろう、という雰囲気ではない。競合のダンススクールと比較してみても、明らかに客層が異なることが予想された。

さらにWebサイトの情報が多すぎるために特徴が分かりにくく、伝わりづらい。そのため、せっかく「アクロバットダンス」「バク転教室」で検索・来訪した人も、すぐに離脱する結果を招いていた。

あれもこれもと、スクールの魅力を一から十まで伝えたい気持ちは分かる。しかし、本来のターゲット層を混乱させるような情報の出し方では、Webサイトに担わせるべき役割がぼやけてしまい、情報伝達としての意味をなさない。不要な情報は削り、本来の魅力をしっかりと伝えることが必要だ。

そこで、Webサイトのリニューアルを行う時点でいくつかの方針を立てた。

03_リニューアル前の調査
画像は、分析ツール「ミエルカ」を使い、バク転教室を検索した場合のコンテンツヒートマップである。バク転教室に組み合わせる各キーワードごとに、検索上位のサイトが、それぞれ何位に表示されているか調べることができる。例えば、検索3位のサイトでも「バク転教室と講師」や「バク転教室と指導者」といったキーワードで検索すると、50位以下に落ちていることが分かる。G-Rockets STUDIOの魅力が「講師のクオリティ」であることから、講師や指導者で差別化をはかることがもっとも有用だと考えるにいたった

 

魅力を伝えるために「加える」

G-Rockets STUDIOを選んだ理由について、実際に通っている生徒にヒアリングを行うと「講師陣が豪華で、プロのダンサーに教えてもらえる」から「G-Rocketsに憧れているから」「親から勧められたから」といった声が圧倒的に多かった。

アクロバットダンスは専門性が高く、技術の習得には難易度が高い。より高い技術、より豊かな表現力を求めて他のスクールから移籍してくる生徒、キッズクラスで基礎を習得しさらなる高みを目指し続ける生徒など、大多数がプロによる指導を求めて入会し、継続しているのが実情だ。

そこでリニューアルするWebサイトでは「講師のクオリティ」をスタジオの強みとして推すことを考えた(06)。具体的には、ファーストビューを講師の紹介とし、講師の情報も増やしている。

06_講師情報の拡充
講師のプロフィールには、担当するクラスだけでなく、経歴や出演歴などを分かりやすく、かつ親しみやすく掲載。特に出演歴は、プロを目指す生徒にとって「自分も将来、この舞台に立ちたい」といった目標を思い描きやすく、「その舞台に立っている現役のプロフェッショナルが教えてくれる」ことを実感することができる

 

結果、リニューアル後のイベントトラッキングを見ると、レッスンと同じように講師の情報を求めている人が多いことが確認できる(04)。

ファーストビューには、スクールならレッスン内容など、そのサイトのメインとなるコンテンツを配置したくなる。しかし付加価値の高いオリジナルな情報を配置することにより、ユーザーのニーズを満たし、競合との差別化につながるケースもある。

04_リニューアル後のPage Analyticsの結果
画像は、リニューアル後のWebサイトを、Page Analyticsでヒートマッピングのように表示したものである。クリック率が高くなるにつれ、青→緑→オレンジ→赤と変化する。リニューアルによって、「アクロバットダンス(初級/中級)」「アクロバットダンス入門~キッズクラス~」「バク転クラス」「講師一覧」「各講師の紹介」といったページへのリンクについて、明らかにクリック率が高いことが分かる。講師や指導者で差別化をはかった方向性が的を射ていたと考えられる
05_動画コンテンツの追加
ダンスはジャンルが多岐に渡るため、文字だけでは内容が伝わりにくい。さらに初級や中級など、自分がどのレッスンを受ければよいのかは、写真を見ても判断が難しい。実際のレッスン風景を動画で掲載することにより、内容を理解し、レベルを考慮したうえで、無料体験を申し込むことができるようになった

 

魅力を伝えるための「表現」

リニューアルするまでは、キッズを意識したデザインや配色が採用されていた。G-Rockets STUDIOには、確かに小学生や中学生が数多く通っている。しかし「将来はプロダンサーになりたい」と夢を抱く子、「プロになってほしい」と願う親が、キッズ向けのサイトに魅力を感じるだろうか。キッズやその親たちだけではなく、もちろん、高校生や大人も閲覧するサイトである。大人にも受け入れやすい配色で、かつ「画像や動画を中心としたサイト」に変更し、スクールの実際の雰囲気やレベルを的確に伝えることを重視した。またそのレッスンの目標や具体的な内容が分かるように、詳細な説明を付け加えた。

07_レッスンの様子
本格的なダンススタジオ

 

魅力を伝えるための「媒体」

リニューアル前のWebサイトは更新がしにくく、ほぼ放置の状態であった。モバイルサイトはあったが、スマホには未対応。特に数値による根拠もないままに、折り込みチラシが有効であると考え、出稿し続けていた。

しかし、主たるターゲットは若い人、もしくは子どものいる母親である。PCよりもスマホを日常的に利用し、ましてやチラシを目にする機会も減っている。さらに、より高い技術や表現力を求める生徒は、近隣だけでなく、関東圏からも通ってくる。

それらの理由から、スマホへの対応は必須の項目であると考えて実施した。

結果として、直帰率をはじめあらゆる数値がリニューアル後、大幅に向上することとなった(08)。

08_Googleアナリティクスによる分析
Webサイトリニューアル直後、3カ月間(2017年8月1日~10月31日)のデータを、前年度同期間(2016年8月1日~10月31日)と比較した。全体的に数値が向上しているが、特に注目すべきは、直帰率が40.61%減少したことである。同時にページビューが230.65%、平均セッション時間も196.41%と倍増していることから、ユーザーが離脱せずに、サイト内を回遊し、しっかり閲覧していることが分かる

 

数だけでなく「質」が変わった

今回のリニューアルで掲げた目的のひとつとして、無料体験の申し込み件数を増やすことにあった。結果的に、月に1~2件しかなかった無料体験の申し込み件数は、月平均で18件にまで増加することとなった。

申し込み件数の増加もさることながら、特筆すべきは「質」が変化したことである。

それまで申し込み理由のメインを占めていた「入会するか否か検討するための体験」は減り、「どのクラスを受講するべきか考えるための体験」という、入会を前提にした体験希望者が増えたのだ。

申し込み件数が増え、さらに入会への確度の高い動機付けが行えたことからも、ユーザーの必要とする情報が適切に伝達され始めた結果だと判断している。

 

専門性を活かしたサイトへ

Webサイトを再構築したことにより、無料体験からの入会が増え、その根拠も数字で確認できるようになった。更新も簡単になり、頻繁な更新が行われるようになっている。Webサイトの存在が見直され、授業動画の撮影など、スタジオ全体で取り組む体制も整った。

 次世代のG-Rocketsメンバー、未来の世界的ダンサーを育成するレッスンをさらに効率よく伝える手段があるはずだ。今後も引き続き、スタジオの専門性を活かしたコンテンツを追加し、その結果を解析、サイトへ反映する。それが肝要だと考えている。

 

 

Text:後藤亜希子
ウェブモ(株) 代表取締役 運用しやすいシステムの開発、ユーザーの視点に立ったサイト制作、数字に裏打ちされたコンサルティング。3つの柱を中心に、ネットとリアルを融合、顧客の課題に取り組む。顧客の個性・現状、市場や志向を調査し、受け身型ではなく提案型解決に挑んでいる。 https://webmo.co.jp/

 

Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。
後藤亜希子:一般社団法人ウェブ解析士協会
※Web Designing 2018年2月号(2017年12月18日発売)掲載記事を転載

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