知っておきたいポイントサービスの基礎知識 事例詳細|つなweB

馴染み客へのサービス

「ポイントサービス」や「ポイントプログラム」という言葉は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。財布の中に馴染みの店のポイントカードが何枚も入っている人も多いはずだ。

このポイント発行による顧客サービスは、もともとは商店が馴染み客に対しておまけを渡したり、割引するなどの商慣習から発生している。台紙にスタンプやシールを貼る昔ながらのものから、会員証とクレジットカードが一体化したもの、店舗が独自に発行するポイントカード、さらにはスマートフォンアプリとして提供するものなど、その運用形態は実にさまざまだ。ここでは、主にECサイトでポイントを発行したり、店舗のPOSと連携した電子ポイントサービスを前提に話を進めたい。

では、ポイントサービスはそもそもどのようなメリットがあるのだろうか。顧客側としては「1ポイント=1円」のように、実質的に現金と同じように扱えるのが大きな利点だ。ポイントを貯めておけば、次に買い物をする際に「ポイント還元」で割引きできることが魅力に感じる人も多いだろう。また、割引率などは特に考慮しなくても、お気に入りの店のポイントを貯めること自体を貯金のように楽しむ人もいる。

一方、ポイント発行のコストを負担する企業側にとってもポイントサービスのメリットは大きい。まず、ポイントを目当てとしたリピート客を見込めることから、カスタマーリテンション(顧客維持)を実現して継続的な売上に寄与することが期待できる。もともとが顧客維持型マーケティングに基づくものであるから、これは至極当然のことだろう。

また、顧客管理の観点からもポイントサービスは重要だ。POSなどを通じて得られた購買履歴などのデータベースを元に、その購入頻度や離反の原因を分析し、商品やサービスの改善や新規開発に活かすことができるからだ。Webマーケティング担当者にとってポイントサービスはまさに“宝の山”だ。

 

ポイントサービスは1.5兆円産業

このポイントサービスの基本的な仕組みを理解すると、どのような業種や業態に向いているのかも見えてくる。まず、基本的にはコンシューマー向けのサービスであること。また、顧客がポイントサービスを利用する機会を考えると、来店・購入頻度が高い業種のほうが適していることがわかる。さらに、購入頻度とも関連するが商品やサービスの価格帯が高すぎるものは、ポイントサービス以外のアプローチが有効だろう。

購入頻度を横軸に、価格帯を縦軸に取ったマトリックスを作成すれば、日用品を購入するコンビニやスーパー、薬局、飲食店、ガソリンスタンドなどが適しているのはもちろん、競合が多く差別化や顧客の囲い込みが求められるアパレルや美容院なども相性が良い。さらに、購入単価は高めだが、家電量販店やホテルなどの宿泊業、マイレージサービスなど旅行関連もポイントサービスは有効だ。難しく考えなくても、駅前で顧客にサービスを提供するような業種であれば、ほとんどの場合がポイントサービスは有効とも言えるだろう。

しかし、この汎用性の高さがアダとなり、財布の中が紙やプラスチックのポイントカードだらけという状況が生まれてしまったのは皆さんもご存じだろう。また、ポイントが分散することで、貯めたポイントを有効期限までに使い切れなかったりと顧客側へのデメリットも無視できないレベルになってきた。この流れに対して2000年代初頭から新たな動きが生まれ始めた。

ポイントサービス市場推移
2015年度のポイントサービス市場規模は1兆4,440億円、前年度比で106%程度で拡大していることから、現在の市場規模は1兆5,000億円を超えていると見られている 矢野経済研究所の推計を元に作図

 

共通ポイントの登場

これまで店舗やチェーン店で発行されてきたポイントサービスを「独自ポイント」と呼ぶのに対して、そのポイントサービスの加盟店であれば、業態が異なるどの店でも入会できて、どの店でもポイントが使えるというのが「共通ポイント」である。いわば、商店街共通のポイントカードを高度にシステム化したものと考えるとわかりやすいだろう。

その嚆矢は2003年に登場した「Tポイント(T-POINT)」で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の発行する「Tカード」があればコンビニエンスストアのファミリーマートや喫茶店のドトール、カメラのキタムラ、ガソリンスタンドのENEOSなどで利用できる。変わったところでは、Yahoo! JAPANが運営するオークションサイト「ヤフオク!」でも決済時にTポイントを現金の代わりに充当できる。

さらに、この共通ポイント同士の競争も激化し、ロイヤリティ マーケティングが展開する「Ponta(ポンタ)」にはローソンや、ゲオ、ケンタッキーフライドチキンなど多数の企業が参加し、クレジットカードや電子マネーの楽天EdyでもPontaの設定をすれば利用額に応じてポイントが付与されるなど利便性が高まっている。

当初は一部の大企業のみで業種同士の競合もほとんどなかったが、共通ポイントサービス同士の統合・吸収が進むにつれ同業種同士が参加するといったケースも見られるようになった。この共通カードは前述のメリットに加え、参加企業同士のネットワークを活かした相互送客や、収集した膨大な顧客データを利用したマーケティング展開ができるといった他にはない利点がある。もちろん運用にかかるコストは莫大だが、全国展開する企業にとってはその価値は十分に見い出せるだろう。

ポイントサービスのメリット
特定の優良顧客に対してのみポイント還元できるほか、さりげない集客や販促活動、データを活用したロイヤリティの向上といった施策にも役立つのがポイントサービスの利点だ

 

独自ポイントを導入すべきか

では、共通ポイントに参加するのに適した広大な商圏を持たず、予算規模的にも制約の多い事業者の場合はどうすればよいだろうか。すでにアナログのポイントサービスを実施しているのであれば、デジタルのポイントサービスを独自に発行するというのが1つの選択肢だろう(もちろん検討の結果として導入しないという選択肢もあり得る)。

しかし、いくらマーケティングに効果が見込めるといっても、単にシステムを購入しておしまいというわけにはいかないのがポイントサービスの難しいところだ。何より「ポイント=お金」として扱われるため取り扱いには慎重さと公正さが求められるし、システムを長期的に運用することが前提となるので事前に綿密な計画が必要となる。そして何より事業である以上は、費用対効果を出せるかというのも企業にとって大きな問題だ。

 

ポイントは企業にとっての「負債」である

例えば、商品にポイントを課すサービスの場合、基本的にその還元率は企業が任意に設定することができる。つまり、競合店が3%であったら5%にするとか何曜日はポイント5倍といったキャンペーンも柔軟に行える。

通常、このような施策の決定権はセールス・マーケティング部門にあることが多いが、無計画なポイントの発行は企業にとって財政上の負担となってしまい、収益性を悪化させる原因となってしまう。なぜなら、ポイントは利用された時に発生する販売費だけではなく、未使用ポイントの残高があるからだ。

一般的にポイントの消化率というのは必ずしも高いものではなく(10~30%程度が平均的な水準とされる)、この未使用ポイントは売り上げから繰り延べされ「負債」として計上される流れになっている。つまり、ポイントを発行するのは簡単だが、有効期限を設定するなど失効処理をしておかないと未使用ポイントという負債はどんどん膨らんでしまうのだ。

国内のケースでは過去の履歴からポイント消化率を予測し、あらかじめ「ポイント引当金」として計上しておくという会計処理が一般的だが、このあたりは経理部門や税理士などと綿密に連携して制度設計していく必要がある。

ほかにも、商品キャンセル時のポイントの扱いや、ポイント不正利用の対策など顧客とのトラブルに発生しそうな部分を事前に防ぐために、利用規約の整備やポイントの変動履歴などをきちんと残しておく仕組みづくりも求められている。

ほかにも、単なるポイント利用だけであれば顧客の名前を収集する必要はないが、名前や住所、生年月日などと紐づけて管理する仕組みとしたい場合は、個人情報の取り扱いについても考慮する必要があるだろう。

 

独自ポイントサービスも進化する
独自ポイントサービスの代表格は家電量販店のヨドバシカメラだ。その歴史は古く、ポイントカードを開始したのは1989年、現在はワンタイムパスワードを実装したスマートフォンアプリとしても提供されている
モバイルの普及もこれから
iPhoneではWalletアプリ単体でポイントを付与できないが、Android Payでは電子マネーの楽天Edyを設定すれば、200円につき1ポイントが貯まる

 

自社開発かASPか

そして、ポイントサービスをデジタル管理するのであれば、それを実現するためのシステムを自社開発するかどうかという判断も求められる。

実現したい機能や規模にもよるが、すべてを自社開発するのは技術的にも期間的にも難易度は高い。通常は業務用アプリをネットワーク経由で利用するASPサービスを選ぶことになるだろう。

もちろん、初期費用のほか運用するための利用料が発生するが、開発費や保守・管理の手間、アップデートやトラブル発生時の対応の手間なども総合的に判断すれば必ずしも自社開発より高額とは言えない。むしろ、マーケティングの「手段」としてのポイントサービスから得られるデータをマーケティング施策に生かしたり、商品やサービスの改善に役立てるほうがはるかに前向きだ。

あるいは、小規模な自社ECサイトの運営のみというケースであれば、完全な自社開発でもASPでもないオープンソースのEC向けCMSである「EC-CUBE」を利用するという方法もある。EC-CUBEは基本無料で使えるほか、ポイントシステムに関する機能などをプラグインで追加できるなどの拡張性がある。もちろん開発に関するシステムの知識や前述のような会計に関する知識も必要だが、導入をサポートする制作会社も多くあるので、敷居としては低いと言える。

ECサイトではオープンソース化も
ASPサービスよりも自由度の高いECサイト構築のために開発されたプラットフォームがロックオンの開発したEC-CUBEだ。機能も豊富でノウハウのネットや書籍で多数公開されている https://www.ec-cube.net/

 

本当に顧客のためになってる?

とはいえ、どのようなアプローチで導入するにしても、ポイントサービスは顧客のロイヤリティ向上に寄与するものでなくてはならないという根本は変わらない。

ポイントサービス乱立の弊害は、以前はカードだらけという形で現れたが、現在ではモバイルアプリにもその兆候が見られる。各社が独自のポイントサービスを組み込んだアプリを配布することで、顧客はレジで会計するたびにアプリを探して起動するといった無用な手間を強いられている。

この問題については「Apple Pay」や「Android Pay」といったシステム標準の決済システムと連携することで集約できるが、現状ではポイントサービスと連携するものは楽天Edyなど非常に種類が少ない。ポイントサービスのモバイル対応はこれからといった現状だが、その動きについてマーケティングに関わるWeb担当者は注視していく必要があるだろう。

栗原亮
※Web Designing 2017年10月号(2017年8月18日発売)掲載記事を転載

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