地域活性化の取り組みにおけるWeb 解析の活用|WD ONLINE

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解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2017年8月号

地域活性化の取り組みにおけるWeb 解析の活用

地域活性化の取り組みにおいて、施策の効果検証を行う仕組みをいかに構築していくか。そこに悩みを抱えている担当者の方は多いだろう。今号では、Web解析を活用しながら観光客の行動を推定するアプローチで課題解決につなげた事例をもとに、効果的な施策立案から実施、さらなる応用までの考え方を紹介しよう。

「パッチワークの丘」の魅力

北海道上川郡美瑛町の魅力は、「十勝岳の雄大な自然と人の営みが織り成す美しい丘の農業景観」である(01)。風景写真家、前田真三氏の代表作『麦秋鮮烈』がきっかけで広く知られるようになった美瑛町だが、この美しい農業景観に癒しを求めて、現在では年間150万人もの観光客が訪れる北海道でも代表的な観光地となった。独特な丘陵地に点在する畑で生産される農作物やその花によって生み出される彩が、大地にパッチワーク模様を描く。さらに、同じ作物を続けて作らない輪作体系により、毎年異なる彩が丘をより魅力的に演出している。

このように、美瑛町は一般的な観光地とは異なり、農家の営みそのものが観光資源となっていることが特徴であり、それに魅力を感じる感度の高いお客様が多く訪れる場所である。

観光資源に恵まれ、多くの観光客が訪れる優れた観光地の印象を持たれるが、現実は、多くの課題が存在している。なかでも観光地としてのブランドイメージをどう保っていくのかが深刻な課題となっている。ここでは、地域ブランドの再構築のため、Web解析を活用した観光客の行動把握と、施策として行った農業体験イベントについて紹介する。

01_美瑛の美しい農業景観(1)
パッチワークの丘と呼ばれる夏の美瑛。小麦やじゃがいも、豆などの作物が成長の過程で色が変化し、訪れるたびに異なる色彩で丘を演出する
01_美瑛の美しい農業景観(2)
雲間からわずかに差し込んだ太陽の光に照らされた小麦畑

 

「青い池」が超人気スポットに

現在、美瑛町で最も人気の高い観光スポットのひとつになった「青い池」。丘の農業景観とは全く異なる魅力を持つ。この「青い池」の写真が、Apple社より2012年に発売されたMacBook Proの壁紙に採用され、ネットメディアでも取り上げられることで瞬く間に拡散していった。あわせて「青い池」の情報を掲載していた美瑛町観光協会Webサイトへの訪問者数が2.6倍となり(02)、観光客数も増加。その後もメディアによる紹介が続くたびに、美瑛町観光協会Webサイトへの訪問者数が増加し、観光客数も急増していった。

02_美瑛町観光協会Webサイト セッション数の推移(2012年と2016年)
Apple社のWebサイトで発表されたMacBook Proの壁紙に、美瑛にある「青い池」の写真が使用されたのが2012年。それを機に、美瑛観光協会のWebサイトのセッション数は上がっていき、2016年では、およそ2,6倍に達している

 

「青い池」の人気が美瑛町のブランドイメージを変えつつある

それまで、美瑛町といえば、感度の高い中高年層が毎年のように繰り返し訪れてくれる観光地だった。ところが、「青い池」ブームによって、これまでとは異なる層の観光客が多く訪れるようになる。そして、美瑛町のブランドイメージも変化していった。「青い池」がブームになる前の2014年と、ブーム後の2016年でWebサイト訪問者の年齢構成を比較したところ、若年層が増加しているのに対し、中高年層の減少が顕著だ(03)。経済効果をもたらしてくれた中高年層の減少は、美瑛町の観光事業に多大なマイナス効果を与えることは明らかである。

また、2014年におけるWebサイトへの訪問者は平均5ページを閲覧しているが、2016年になると平均3ページに減少している(04)。これは、「青い池」を訪れる観光客は、他の観光スポットには立ち寄らず、丘の農業景観の魅力に触れることなく、美瑛町から離脱していることが考えられる。一方、丘の農業景観に癒しをもとめて訪れていた中高年層は、「青い池」ブームで観光客が激増し、ゆったりとした時間を過ごせなくなった美瑛町の実情に幻滅し、離れていったと考えられる。

03_訪問者の年齢構成の推移(2014年と2016年)
2014年(青)は55~64歳、65~74歳の割合が高いが、2016年(オレンジ)では、25~34歳が増加し、55~64歳、65~74歳の割合が下がっている。つまり、若年層の増加に対して、美瑛の丘の農業景観に魅力を感じて来訪していた中高年層の顕著な減少が見られる
04_ページ/セッション、平均セッション時間の推移(2014年と2016年)
2016年のページ/セッション数は、2014年のページ/セッション数よりも減少している。ブームとなった「青い池」の情報を求めて観光協会Webサイトにたどり着いた訪問者は、それまでの訪問者よりもページ回遊率が低いことがうかがえる

 

美瑛町の本当の魅力を特産品でアピール

パッチワークの丘を彩る要素のひとつが小麦である。小麦は美瑛町の耕作地の4分の1を占める重要な作物でありながら、認知度はそれほど高くない。そこで、美瑛町産小麦を使った、丘の農業景観の魅力を伝える美瑛ならではの体験イベントを企画した。このイベントに盛り込んだ3つの体験は、子どもだけでなく保護者も楽しめる内容となっている。

01_畑の小麦がパンになるまでを体験
イベントのために作付けした小麦畑を使用して、刈り取り・脱穀・選別・粉挽きまで一連の行程を昔ながらの農機具を使って体験。昔の農機具を使い、当時の各工程の作業方法をかりやすく学習。

02_現在の行程を体験
最新の大型コンバインによる小麦の刈り取りデモンストレーションを通して、機械化によって生産性を上げた現在の行程を体験。

03_美瑛町産、旬の農畜産物を味わう
とうもろこしやじゃがいもの収穫体験と、とうもろこし、じゃがいも、メロン、トマト、牛乳の試食会を実施。

 

ユニークなメディアを使った集客方法

ターゲットの議論を重ねた結果、食や子どもの教育に関心が高く、家族で旅行をする機会が多い、小学生の子どもを持つ都市部のファミリー層に絞ると決めた。

ターゲットに対して確実に情報を届けるために、子ども向け環境情報誌への広告掲載、およびイベント詳細情報と申込フォームを掲載したランディングページ(以下、LP)を作成して集客を行うことにした(05)。この情報誌は、東京23区と札幌市内のほとんどすべての小学校にルートを持ち、先生から生徒に手渡しで配布されるため、効率よくターゲットに情報を届けることができる。さらに、家族みんなで読むという高い到達率も占めている。

予算がわずかだったので、広告掲載エリアは東京12区と札幌市の小学校に限定。自ら行ったデザインは、ビジュアルを重視している(06)。また、興味を惹かれた保護者がすぐにLPにアクセスできるようQRコードを掲載。そして、LPに流入したサイト訪問者を確実に申し込みにつなげるよう、デザインは特に母親に好まれるような手書き風にアレンジ。持ち物や服装、乳幼児連れに必要な情報を掲載し、安心して申込フォームにたどり着けるよう工夫した。さらに、スマートフォンからの入力を想定し、入力項目の最適化や情報入力補助機能も万全に整えた。

05_「美瑛の丘で親子麦刈り体験」ランディングページ
イベントのために用意したランディングページ。4ヘクタールの広大な小麦畑を使って、小麦の刈り取りから粉挽きまでの工程を昔ながらの道具を使って体験する。ふだん決して入ることのできない畑のなかで、農作物を収穫するという非日常を体験しながら、食育にもつながる美瑛町ならではのこのイベントを、新たな「体験型旅行商品」として育てていきたい https://biei-act.jp/taiken/
06_環境情報誌に掲載した広告
学校で生徒に直接配られる環境情報誌に広告を掲載。小さな広告枠では、限られた情報しか掲載できないので、広告自体に興味を持たせてからランディングページに誘導するという役割を担わせた

 

予想以上の申し込み数で追加イベントを実施

定員40名に対して、予想を大きく上回る申し込み(東京45名と札幌140名、合計53組185名)があり、急遽、定員を60名に変更した。さらに抽選に漏れたお客さまを対象に、シュリンクしたイベントを翌日に準備して実施することにした。

LPの解析を見ると、広告からの流入が412人(セッション)で、そのうち53組の申込(コンバージョン)があった(07)。申込フォームでの離脱は二人で、情報入力補助機能を設けるなどの最適化が有効であったことがうかがえる。LPのコンバージョン率は約13%と、一般的な値に比べると非常に高く、情報誌への広告掲載が有効であったことを裏付ける結果となった。

イベント当日は、天気にも恵まれ、普段は決して入れない広大な小麦畑の中で、参加者が思う存分楽しんでいる様子がうかがえた。ブログに記事を投稿したり、わが子の写真を撮ってSNSへポストするなど、参加者自身による情報発信で後日にも拡散されたが、効果的な口コミを引き出すために、フォトジェニックなアイテムをあらかじめ用意していた。広大な小麦畑や旬の農作物、農業用機械などは、美瑛の魅力をわかりやすく伝え、簡単に撮影できる仕掛けともなった(08)。

07_ランディングページの目標到達プロセス
広告掲載から10日間での申し込み状況。広告からの流入が412人(セッション)で、そのうち53人の申し込み(コンバージョン)があった
08_麦刈りイベントの様子(1)
イベントでは子どもたちが、刈り取り、脱穀、選別や粉挽きまでの行程を、昔ながらの道具を使って体験した
08_麦刈りイベントの様子(2)
大型コンバインによる現代の小麦の刈り取りを、参加者の目の前でデモンストレーションした様子
08_麦刈りイベントの様子(3)
参加者がスマートフォンやカメラを使って何度もシャッターを切ることを想定して、フォトジェニックな環境をあらかじめ用意。ブログやSNSへの投稿へとつながった

 

Webを活用して観光客の行動を推定

私たちの組織では、施策の効果を検証する仕組み(PDCAサイクル)の確立が急務となっている。そのためには、美瑛町に訪問する観光客や宿泊者の数、特産品売り上げ額などのデータを収集することが必要であるが、正確に把握することが難しい。そこで、2011年から観光協会Webサイトの解析を開始し、データの蓄積を行ってきた。そのデータを活用して、実際に美瑛町に訪問する観光客の行動を推定するというアプローチをとりながら、効果検証を行っている。また、定期的に実施する観光客へのアンケート調査や、観光スポットに設置したカウンターの情報も活用しながら、検証結果の精度を高める工夫も行っている。

そして、今年度の新たな取り組みとして、観光スポットや宿泊施設、レストランにユニークなパラメータを付与したQRコードを設置した。QRコードからLPへの動線を解析して行動を把握するという試みだ。

Web解析はサイト内の行動だけではなく、工夫次第では、実際に訪れた観光客の行動も把握することができる。施策に適した解析を行えば、大きな効果を期待できるのではないだろうか。

 

Text:小林孝司  一般財団法人丘のまちびえい活性化協会
>念願だった美瑛町への移住のため、ソニーを退職、デジハリでウェブ制作を学ぶ。現在はウェブ解析を活用した独自の視点で地域ブランディングなどの取り組みを担う。https://bieitiful.jp/

 

Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。

掲載号

Web Designing 2017年8月号

Web Designing 2017年8月号

2017年6月17日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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企業のIT推進担当者やネット運営者に向け、ネットビジネスの課題を解決するノウハウや最新情報をお届け。徹底した現場目線とプロへの取材&事例取材で、デジタルマーケティング施策に取り組む上での悩みや疑問、課題を解決するヒントを紹介します。

8月号のテーマは「Facebook」。
業界・業種問わずSNSのマーケティング活用が「やって当たり前」になってきた現在、
集客や認知拡大、顧客エンゲージメントの向上など、さまざまな目的でFacebookページを立ち上げ運営している方も多いと思います。
しかし、こんなお悩みもあるかと思います。

例えば、
「一生懸命書いて投稿しているのにユーザーの反応が薄い…」
「定期的に投稿するネタが思いつかない!」
「メインの業務ではないので、継続していく自信(モチベーション)がもはやない…」
「そもそも『いいね!』を増やしたところで何が起きるの!?」

いざ始めてみると、「想像以上に大変!」と思っている方もまた多いのではないでしょうか。

Facebook登場時には、とにかく「いいね!」を集めようと躍起になっていた方も多いと思いますが、
ユーザーのネットリテラシーが養われてきている今、「いいね!」のつけ方もFacebookの活用の仕方も変わってきています。
では、今ドキの目的達成・課題解決に役立つFacebookの投稿とは、どのようなものなのでしょうか。

今号は、すでに企業Facebookページ運用を始めてみているもののうまくいかない!とお悩みの方に、
実際の投稿内容の考えかたや日々のネタの作り方、モチベーションの保ち方など実務レベルで今日から役立つノウハウをご紹介します。

そして、Facebookのマーケティングツールとしての“現在の正しい活用法”を紐解いています。

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さらに!
企業の情報発信において、現在も今後もますます必須になってくる「コンテンツの信頼性」の担保についてもまとめました。
軽率な発言によって企業自体の信用も失いかねないほど重要な「信頼性」。
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そこで、現場で忙しいWeb担当者のために「これだけは最低限おさえておくべき!」というポイントを
具体的な例をもとに優しい表現で説明します。

Webビジネスを展開する企業、担当者は避けて通れない問題ですので、ぜひお見逃しなく!