FAQ経由の問い合わせは黄信号!数値の意味が真逆になる 事例詳細|つなweB

FAQでは数値の意味が真逆になる

─ 安西さんはサイト解析ツール「Adobe Analytics」などを活用して企業のマーケティング活動のサポートをされており、黒田さんはテクニカルコミュニケーション(以下、TC)技術の専門家として、企業が発信する情報の品質と信頼性の向上などに努められています。まず安西さんにお伺いしますが、「企業の情報がユーザーに信頼されている」と言うためには、どのような数値を見ればよいのでしょうか?

安西 メディアサイトやECサイトなどの場合は滞在時間やユーザー一人当たりの平均PV数などを見ることが代表的です。それらの数値が良好なほどサイトを信頼して閲覧していることになりますし、最終的な売り上げにもつながりやすくなると言えるでしょう。

黒田 私たちTCの業界でも数年前からサイト解析ツールを導入してユーザーの行動をしっかりと分析しようという考えが広がっています。当初は安西さんがおっしゃったようなデータを見ていたのですが、オンラインヘルプやFAQでも滞在時間やPV数などを高評価につなげていいんだろうかという疑問を抱いています。

安西 おっしゃるように、オンラインヘルプやFAQの場合は、通常のサイトとは数字の見方が変わってきます。そもそもFAQなどの目的は「閲覧者に問題を解決してもらうこと」ですから、コンテンツに必要なのは「ユーザーが求めている情報をすぐに見つけ、内容を確認したらすぐに離脱してもらう」ことです。ですから滞在時間は短い方がよく、一人当たりの平均PV数も少ない方がいい。つまりFAQなどの場合、通常のサイトでポジティブな意味を持つ数値が低いほど、信頼されるサイトと言えると思います。

黒田 ということは、問い合わせ数も少ない方が評価できると言えますよね。FAQを経由した上で問い合わせをされるということは、サイトの情報を信頼していただけていない、あるいは該当のページにたどり着けていないために、最終手段である問い合わせをされているわけですから。

安西 そのとおりです。通常のサイトでは問い合わせ数は大事なコンバージョンになりますが、FAQでのそれは「逆コンバージョン」とも言える数値です。ですから、FAQの改善を実施する際には「いかに問い合わせ件数を減らすか」ということを目標にされるお客様もいます。

Adobe Support
アドビ システムズのWebページに用意されている「アドビサポート」では、各種FAQがアドビ製品購入前の検討段階の方から利用者、更新・解約と、ユーザーの段階に合わせた3つのカテゴリでまとめられている。また、各製品ごとのサポートページも用意し、これもユーザーの活用段階や状況を想定して整理されている
また、各サポートページの右下にはこのFAQに関して「役に立ちましたか?」という簡単なアンケート設けている。こうした機能をつけてユーザーの声も拾うことも効果的だ https://helpx.adobe.com/jp/x-productkb/policy-pricing/support-site.html
滞在時間の長さやPV数の多さは、FAQの高評価を意味するのたろうか、という疑問を抱いています。
FAQのポイントは「いかに問い合わせ件数を減らすか」、要するに逆コンバージョンです。

 

解析データを活かすことで信頼性は向上する

黒田 私たちはオンラインヘルプやFAQのコンテンツをつくる仕事をしています。今、安西さんに挙げていただいたような数値をコンテンツづくりに活かし、FAQの効果改善を図るためには何が必要になるのでしょうか? というのも、かつてはサイトの使い勝手を向上するためにはユーザーインターフェイス(UI)を改善することが第一でしたが、今はSNSなどの発達もあり皆さんがすべてUIをたどって詳細ページにたどり着くわけではありません。導線ではなくコンテンツ自体を改善しないと信頼性は向上しないと考えているのです。

安西 ひとつ挙げられるのは、ユーザーの検索キーワードを見ることでしょう。今FAQでも、サイト内検索を通じて目当ての情報を探すユーザーも多いのですが、そのとき検索キーワードにゆらぎがあると、求める情報を見つけられません。例えば、競合他社の使用しているキーワードに馴染んだユーザーが自社サイトを訪れると、求める情報にたどり着けず何度も検索してしまい、結果、サイトを信頼できなくなってしまうんです。そうしたことが起きないように、企業としてはコンテンツの中に使われているキーワードのゆらぎを少なくしなくてはなりません。労力がかかることですが、重要だと言えるでしょう。

黒田 なるほど。私たちTCの業界では、取扱説明書の作成という大きな仕事があるだけに、Webで扱う情報が紙のドキュメントの目次構造に依存した状態になっていることがいまだに多くあります。PDFを単にHTML化した状態になっているんです。当然、紙とHTMLではユーザーの見方も異なりますから、本来であれば、紙の情報を分解し、ユーザー行動を分析した上で再構成することが大切です。そうしたことをしていくためにも、我々もAdobe Analyticsのようなツールをうまく活用してサイトの信頼性を測りながらPDCAを回していきたいと思っています。ただ、オンラインヘルプやFAQは直接売り上げに結びつくものではないので、なかなか予算が取りづらいという悩みも持っています。

安西 たしかに、オンラインヘルプやFAQには予算をかけづらい傾向にあります。ただ、やり方がないわけではありません。FAQを改善することでサイト全体におけるゴールに貢献し、FAQに予算をかける意味を社内に知らしめるんです。例えば、Adobe Analyticsをお使いのユーザーの中に、「会員登録の増加」をサイトのゴールとして設定している方がいました。そのサイトにおけるユーザーの行動を分析したところ、FAQ内のとあるページを見たユーザーほど、その後会員登録をするという相関性が見えてきたのです。そこで、まずはミニマムな予算でそのFAQを改善したところ、実際に会員が増加しました。この結果により、会社もFAQを改善する意味を理解してくれ、FAQ全体の改善のための予算を承認してくれたのです。

FAQページの特徴
FAQのページはある意味特殊で、PV、滞在時間が少ないほどその役割を果たしているとみなすことになる。そして、問い合わせ件数が多ければ、そのFAQサイトでは問題が解決しなかったユーザーが多かったということになる
FAQの解析結果からコンバージョンを高める
例えば「会員登録の増加」をゴールとしたサイトなどにおいてユーザーの行動を分析してみよう。そこでFAQ内のとあるページを見たユーザーほど、その後会員登録をする率が高い傾向があると判明した場合、まずは予算の許す範囲でそのFAQページをコンバージョンにつなげる改善をする、というても考えられる
FAQを改善することでサイト全体におけるゴールに貢献し、FAQに予算をかける意味を社内に知らしめるんです。

 

信頼性担保のためには「コンテンツ管理」が必須

─ オンラインヘルプやFAQに限らず、「信頼に足るサイト」にはどのような要素が必要になるのでしょうか?

安西 「最新の情報が反映されていること」がまず挙げられると思います。例えばソフトウェア製品のサイトなどはバージョンアップの度に情報が追加されていきますが、そこで最新のバージョンについての情報が掲載されていないと、ユーザーとしては「本当にこのサイトを信頼してもいいのかな?」となります。その逆に、有効期限が切れた情報をいつまでも掲載しておくのも、信頼性を低下させる要因になると思います。

黒田 なるほど。

安西 もうひとつ挙げられるのは、サイト運営側がアセット(資産)を管理することではないでしょうか。つまり、画像や動画などの素材をしっかりと管理し、均一的なクオリティを維持するということです。商品サイトでは綺麗な画像を使っているのに、FAQサイトの画像はクオリティが低いとなると、それも信頼性の低下につながってしまいます。

黒田 先ほどお話したように、私たちは、これまで情報を紙(文書)という更新が難しい形態(単位)で作っていたので、アセットを管理するという視点がありませんでした。でも、デジタルがベースとなった現代では、文書単位ではなく、データをアセットの単位で管理し、これを更新し続けていく必要があります。鮮度を維持するため情報源の更新と合わせて発信情報を更新する仕組み、アセット単位でエビデンスを残す仕組みが欠かせません。データを文書という大きな単位で作ることに慣れている私たちが抱える大きな課題です。

安西 弊社が提供するソリューションの中に、「Adobe Experience Manager」というコンテンツ管理ツールがあります。これはコンテンツの制作フローや編集・承認権限の管理はもちろんのこと、画像や動画などを管理することができるものです。こうしたツールを活用しながら、自分たちが持つアセットを管理していくことで、信頼性の担保や運営状況の改善につなげていくことができると思います。

黒田 我々もTCの業界にそういったツールを今後どんどん紹介していきたいですね。管理がなされていない状態というのは、信頼性担保のためには大きな落とし穴になってしまいますから。

─ 定期的にコンテンツを管理し続けることが信頼性につながるわけですね。

Adobe Analytics
PC、スマートフォン、アプリといったオウンドメディアを中心にIoTなどさまざまなデバイスからのデータを収集し、顧客のコンテクストを理解、アクションに繋げるための多角的なインサイトを提供するための分析ソリューション。Adobe Experience Cloudを構成する他のソリューションとの連携により、分析結果をすぐ次のアクションにつなげることが可能
Adobe Experience Manager
WebサイトやモバイルアプリからIoT デバイスまで、多様なデジタル顧客接点を構築でき、コンテンツを容易かつリアルタイムに管理・提供できる次世代のオムニチャネル向けコンテンツ・エクスペリエンス管理ソリューション
情報を、文書単位ではなく、アセットの単位で、継続して管理、更新し続ける必要があります。

企画協力:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会

久我智也
※Web Designing 2017年8月号(2017年6月17日発売)掲載記事を転載

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