業界別ソリューション8例! 人と企業のバージョンアップ 事例詳細|つなweB

EC

レコメンデーションを強化

ユーザーが欲しい商品の提供だけでなく、魅力的なレコメンドが売り上げに直結するEC。例えば「ROCK」というカテゴリーに対してどんな楽曲が出てほしいかを各ユーザーの行動履歴から自動学習し、ある人にはメタル寄りに、ある人にはJ-POP寄りに振った「その人の好きなROCK」を生成することで、CVRを大きく向上させるAI技術・サービスはすでに存在している。例えば、アメリカの人気アウトドアブランド「The North Face」のECサイトのように、AI技術を使えば、より精緻で広い関連性でレコメンドができる。さらにECのログインをFacebookログインなどにすれば、その情報を解析して、その人がどんな気分なのか、最近何があったのかを解析し、それに紐付けた商品提案もできるだろう。またチャットボットを導入することで「●●が欲しい」といったニーズも拾うことができるだろう。

データ解析を本格化

膨大なレポートの中から、事業に役立ちそうなものを選んで仮説を立てる作業は、すでに人間がしないほうが安い時代に入っているのかもしれない。月々わずか数万円で、競合を含む膨大なベンチマークデータから導き出した具体的な解析・アドバイスデータを受け取れるAI解析サービスは、既にいくつも存在している。先日アプリ版限定で公開されたGoogleアナリティクス公式AIアシスタント機能(P084)もその1つだ。日本語化されれば、こうした機能がすべて無料になる可能性も高い。

Google Analytics Assistant

 

小売(実店舗)

在庫管理、発注業務の効率化

これまで経験と勘、熟練スタッフの感覚をベースに行われてきた小売りや飲食店のような業界にこそ、AIによる高効率化が望める領域となる。IBMのCommerce Insightsなどを使えば、ワトソンの能力を活用し、今までの在庫量と過去POSでの販売予想に加えて、世の中の動向、天気情報などと連携し、より精度の高い在庫管理、発注業務ができる。高額な投資が必要となるケースも多いが、スタッフの学習コストが激減することを考えれば安いととらえる事業者も多いはずだ。

IBM Commerce Insights

 

IT・開発・デザイン

デザイン提案を効率化

労働集約型のこの分野ではまだまだ日本語圏における実用サービスは少ないが、『Wix ADI』『Logojoy』など、既に英語圏ではサービスがいくつか存在している。わずか数万円程度の予算で、制作対象となるサイトの目的・業種・単価・イメージカラーなどを指定するだけで勝手にデザインを作ってくれるサービスや、原稿情報から意図を読み取り、情報構造に合わせたデザインを自動で提案してくれるサービスがあるが、まだ実用となると難しいのが実情だろう。現在では、AIによる自動生成よりも、Adobe MUSEのように、直感的な動作指示がコードを書かずにサイトとして出力されるといった自動化処理がしばらくは主流となっていくだろう。

PDCA、グロースハックを高速化

「ユーザーの行動を分類して、いくつものデザインパターンを試し、改善する」「過去と同様の条件下で改善効果のあったレイアウトやデザインを試す」「サイトを改善する点と方法」など、デザインのPDCAやグロースハック的処理も、『FIREDROP』、WACULの『AIアナリスト』などのサービスによって、実験可能な段階になりつつある。ビジネスの現場で使える本格的なものには、まだまだ大きな予算が必要ながら、これまで熟練の人間の経験に頼っていたデータ解析・改善施策PDCAといった領域もAIによる自動化・効率化しやすい業務となりつつある。

FIREDROP

 

サービス(美容・教育・レジャーなど)

顧客満足度を向上化

「顧客リストはあるのに活用できていない」といった悩みを持つサービス業は多いが、これまで店舗都合でのDM、クーポン、メルマガなどの配信も、AIの活用によってその形を大きく変えつつある。『ZenClerk』のようなサービスを使えば、「商品画像を何度も切り替える」「商品レビューを読み込む」などユーザーの購買意欲の高まりを認知して、クーポンを配布するなどのアクションが可能になっている。また、AIの活用によって、同じ内容を大量に送る”マス”な考え方に変わり、ユーザーごとに設定されたライフイベント(誕生日や特定商品の購入からの経過時間など)に合わせ、個々人に最適化された内容でのメルマガ配信など可能になっているのだ。

ZenClerk

 

金融・保険

顧客個々のプラン提案を最適化

ユーザーからの多種多様な要望を聞き、膨大な自社商材の組み合わせの中から適切なものを提案する。それはビッグデータ×ビッグデータの図式だ。そんな計算を脳内で行える人材はほぼ存在しないため、結局は人間の勘と経験頼みとなるが、こういったケースこそ、AIを活かしやすい。日本生命保険は、家族構成を含めた顧客情報や成績優秀な営業職員の活動パターンなどの膨大なデータをAIで分析。商品を提案する最適なタイミングなどを助言し、営業力の向上につなげる取り組みを4月から行うと発表している。営業力の向上にもAIが役立つのか注目したい。

融資可否の判断を迅速化

フコク生命が2016年末に発表した計画では、約2億の投資を行い、医療事務領域におけるユーザーの病歴・入院期間・手術名などをAIが認識。保険契約内容と照らし合わせ、支払い対象となる特例を見つけるといったシステムを導入することで約34人の人員を削減するという。AIによる紙データの読み取り、ユーザーの過去データのすり合わせ、全商材の適用すり合わせを一括で行うという大掛かりなものだが、「AIによって何が可能となるのか?」を明確に示した事例として部分的にでも活用できる発想のきっかけとなるかもしれない。

フコク生命

 

製造

故障予測で稼働効率を最大化

たとえば、納品済みの製品が故障する2週間前にアラートが鳴るサービスがあるとしたらどうだろう? 化学大手の三井化学は、各種センサーの値を活用・推測することで、化学プラントの異常を事前に検知する実証実験を昨年末から取り組んでいる。自社の設備・機器の不具合を予測させて、故障リスクを低減。稼働効率を極端に上げることにつながる。ほかにもブリヂストンが昨年末、AIを活用したタイヤ成型工場を公開。従来、製造工程で多くの人手が必要だった箇所にAIを活用することで、完全自動化に成功。生産性は2倍に向上し、必要な人手は3分の1になるという。AIによって、生産性の向上とコストの削減が可能になっている。

三井化学

 

広告・マーケティング

ネット広告効果を最大化

ある調査会社によると、メディアや広告部門はAI市場全体の最大シェアを占めると予想されるという。事実、「アドテク」と言われる領域において、既にAIによる最適化は実用サービスとして提供されている。CRMと連動して、お得意様となったユーザー層の行動を解析。いくつかの仮説を設定し、自動的に実行・検証・改善を繰り返すエンジンなども既に月数万円程度から利用が可能となってきている。ほかにもジャストシステムの「Listing Auto-Flight」は最適なキーワードや訴求力のある広告文を自動生成。リスティング広告のPDCAサイクルを可能にしている。

Listing Auto-Flight

 

士業

曖昧な審査基準をシステム化

士業(弁護士、会計士など)のAIと聞くと、業務そのものを完全にAIに代行させてしまうようなイメージを持つかもしれないが、AIの導入可能性はそこかしこに存在している。昨年、アメリカの大手法律事務所「ベイカー&ホステトラー」は、ワトソンを元にしたAIサービスを導入。同事務所の弁護士は法律のアドバイスをAIから受けているという。さらにAIは法改正や新しい判例も常に学習するため、弁護士の負担も大幅に軽くなる。ほかにも顧客から多い相談をチャットボットで受けたり、過去の契約書や申請書を解析すれば、ルール化しにくかった審査判断についてシステム化することができる。“部分的な代行”でAIを活用する一例だ。

ベイカー&ホステトラー

 

不動産

最適な物件提案を効率化

物件提案は、既にいくつかの国内企業においてAI搭載型チャットボットの利用という形で実証実験が行われている。たとえばネット不動産サービスのノマドは、賃貸物件をスピーディに探せるチャットボット「お部屋探しBOTヘヤジイ」を提供。これまで当たり前と思われていた「ユーザーは自分好みの物件を自分で探したい」という先入観が誤りであったことを示すデータがいくつも公開されている。つまり、チャットボットからの質問に答え、おすすめとしてサジェストされた物件の多くは、ユーザーに自ら探させた場合と比べて良好なCVRを叩き出しているという。

お部屋探しBOT「ヘヤジイ」
中村健太、西原中也
※Web Designing 2017年6月号(2017年4月18日)掲載記事を転載

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