アクション・ファースト ~身体的認知で考える~ 事例詳細|つなweB

「身体的認知」を活用する

「身体的認知」とは、最近の認知心理学のキーワードだ。「赤い服を着ると攻撃的になる」「黒いユニフォームを着ると競技中のペナルティが多い(=暴力的になる)」など、色と心理の関係については多くの研究がなされ、またパッケージデザインなどマーケティングの現場でもよく活用されている。

しかし、感覚が特定の意識を生み出すというメカニズムは、視覚(色の認識など)に限らない。手に持ったモノの重さや座った椅子の固さといった身体感覚も、特定の意識をコントロールすることがわかっている。

例えば、重いファイルを持たされただけで、何か重要な仕事をしているとつい思ってしまう、やわらかいソファーに座って商談をするときは交渉姿勢が柔軟になる、といったような一種の錯覚(認知バイアス)が生まれやすいことは実験で証明されている。手に温かいコーヒーを持っているときと、冷たいコーヒーを持っているときでは向き合っている人への印象評価が変わる(ホットコーヒーを持つと「この人は温かい人だ」と認識する)なども、「身体的認知」の事例だ(01)。

01 身体的認知の5類型
身体的認知は、主に視覚系、触覚系、嗅覚・味覚系、位置・距離系、運動・姿勢系の5つに分類できる 出典:先行研究をもとに筆者が作成

こうした脳の仕組みを理解すれば、なぜ「先に体を動かすことで意識変化を起こす」ことができるのか、わかるだろう。例えば「敬礼」という所作について考えてみよう。普通は「相手を尊敬しているから敬礼をするのだ」と思いがちだが、実は「敬礼」という所作(身体感覚)が、相手に対する敬意の念を無意識下で強化している可能性がある。茶室のにじり口も、頭を大きく下げないと入れない構造を利用して、どんなに身分の高い人でも茶室の中では礼儀の心を思い出すようにさせているのだ。

 

スマホでも身体感覚は強化できる

身体的認知をマーケティングに応用するとしたら、例えば、自動販売機やチケット券売機の押しボタンは工夫のしがいがありそうだ。特別な高額商品はボタンを大きくしたり、押す感覚を重くすることで「自分はいつもと違う、重大で貴重な注文をしているのだ」という満足感が強化できるかもしれない。 

近年、デジタルマーケティングでも提唱されているUX・UIの重要性も、身体的認知の文脈で考えられる。あるスマホゲームでは、獲物をキャッチするために武器を獲物に向けて指でスワイプあるいはフリックさせる、といったUIを活用。「自分が狩りをしている」意識が強化され、没入感につなげている。

外見をデコる、ユニークなケースに入れる、といった外側のカスタマイズは、スマホ自体のUI(身体感覚)をより豊かに演出するが、「自分だけの操作感覚」までカスタマイズできると、さらに端末やそのブランドに愛着も湧くだろう。そこにAI活用の余地もあるはずだ。

昨春の第31回サンリオキャラクター大賞では、通常の人気投票のほかに、スマホ上で自分の「推しキャラ」を指でなでて投票する「なでる投票」を実施(02)。なでる回数などによって、画面上のキャラクターの表情や仕草が変わるというお楽しみを用意したことで、多くのサンリオファンがキャラをなでる結果になった。累計では約1億2,000万秒(約3年8カ月分)、1位になったキャラは通算4,605時間以上なでられたという。もちろんファンは推しキャラがかわいいからなでたのだろうが、「なでるからもっとかわいく思える」というエンゲージメント効果もあったはずだ。これも身体的認知の活用例といえる。

02 サンリオキャラクター大賞
「なでる投票」 従来は、公式サイト、サンリオショップ、いちご新聞(サンリオキャラクターやグッズの最新情報を伝える月刊紙)から投票。2016年から新たな投票方式を導入へ http://sanriocharacterranking.com/
新方式とは、キャラクターをなでたり、つついてから投票する「なでる投票」。なでられたキャラクターは喜んだり、恥ずかしがったりと反応を返す
※ 約376万5,000票(2015年)が約777万5,000票(2016年)へと投票数を伸ばし、投票者一人当たりの平均なで時間は約1分15秒だった> ©SANRIO

 

Text:國田圭作
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。 http://activation-design.jp/
國田圭作
※Web Designing 2017年6月号(2017年4月18日発売)掲載記事を転載

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