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清水幹太のQuestion the World Web Designing 2016年3月号

レイ・イナモト(Inamoto & Co)|「広告界のイチロー」の楽しい性癖

レイ・イナモトは、日本から世界に飛ひ?出して 2 0 数年、「日本人」という枕言葉なと?なくても誰もか?知っ ている業界の巨人た?。「広告界のイチロー」とも呼は?れる。そんな偉大な先駆者て?あるレイさんを突き動 かしてきたものは何か、何か?レイさんをそこまて?の存在にさせたのか。最近独立して新しいチャレンシ? に船出したレイさんの新オフィスにさっそく押しかけて話を聞いた。

「海外で活躍する日本人」にもいろいろいる。ちょっと海外に事務所をつくっただけで、そういうふうに喧伝する人もいる。ちょっと海外の展示会(それも日本人しか来ないような)に展示を出しただけで、「世界的に活躍」なんて自分で言っちゃう人もいる。「世界的」にもいろいろあるのだ。

そんななか、レイさんは正真正銘、本物の中の本物として、道なき道を切り開いた「リアル世界的日本人」だ。世界規模のデジタルエージェンシーAKQAに10年。クリエイティブのトップとして大きなチームをリードしてきた。輝かしい受賞歴や審査員歴。アメリカ、いや世界で広告をやっている人間で、彼の名前を知らない人はいない。

 たまたま同じ日本という国の出身で、同じ領域の仕事で海外に出た私からすると、はるか前を行く存在である。そういう人だし、名前の表記もカタカナだから、なんとなく子供の頃から海外で暮らしてきた帰国子女みたいなイメージをレイさんには持っていたのだけど、実は違う。

「親父が家具のスタートアップを始めるために、飛騨の高山に引っ越して、そこで育ったんですよ」

 そう。レイ・イナモトの原点は、歴史的な町並みや朴葉みそやおいしい牛肉で有名な、飛騨高山だったのだ。私も家族で旅したことがある、良いところだ。

「高山のコミュニティは地元で閉じているし、いつかここを出なきゃと思ってました。どうせ出るなら東京とかより海外だろうと」

筆者は東京の出身だ。幼少期からテレビのチャンネルも多かったし、街に出ればなんでも手に入った。東京に生まれると、物質的・文化的なフラストレーションがあまりないぶん、そこから出るモチベーションも生まれづらい(だから、国外に出るのに30数年かかってしまった)。

高山という「山奥」で育ったレイ少年は、大きなフラストレーションを抱えていたがゆえに、一足飛びに海外に飛び出したのだ。その大ジャンプは、レイさんの世界の捉え方に大きく影響を与えた。飛騨高山から海外。落差が大きいぶん、変化とか進化といったものを受け入れるクセができたのではないだろうか。スイスの高校を経て、ミシガン大学で美術とコンピュータサイエンスを専攻、デジタルクリエーションの道に入っていく。

「もともとアーティスト志向だったんだけど、利根川進さんの『精神と物質』という本を読んで、美術を科学的に捉えることができるようになったんですよ」

ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川先生がこの本で書いていたことはつまり、感情とか感動とか、人間のあらゆる脳内の活動は、すべて化学反応なんだよ、ということだ。これはインターネットやデジタル技術が実現している今の社会につながるところが多くて面白い。FacebookであれTwitterであれ、LINEであれなんであれ、ものすごい量のいろんな感情がすごいスピードで処理される。しかしそれらは元をたどるとすべて0か1、つまりデジタル信号の組み合わせでしかないのだ。

レイさんは、飛騨高山から飛び出した。アートから出発してデジタルの世界に自分の領域を広げた。クリエイティブディレクターとしてレイさんがつくってきたものは、「広告」というものの概念から逸脱し、その捉え方を広げるようなものばかりだ。つくるばかりではない。世界中のフォロワーたちを「はっ」とさせるような視点をプレゼンし続けてきたからこそ、レイさんはこの業界をリードする存在であり続けているのだ。レイさんは明らかに、飛び出してばかりいる。

レイさんは酒も煙草もやらない。いつも一所懸命仕事している印象がある。「そんなレイさんの『楽しみ』はなんですか?」と聞いてみた。

「出張でもなんでも、旅することが好きなんです」

旅とは変化を楽しむものだ。そして、物理的に自分の世界を拡張するものだ。レイさんは、飛騨高山から海外に飛び出すという、とんでもない変化を経験して以来、おそらく「飛び出しフェチ」になってしまったのだ。

ご存じの通り、デジタルという領域は変化が速い業界の最たるものだ。「自由にやったもん勝ち」みたいなところがある。なにかに触れては変化して、拡張して、飛び出して、それを楽しむ。それがレイ・イナモトなのだ。

日本が生んだスーパー飛び出しフェチ、レイさんはいままさに、10年間リードしてきたAKQAを卒業し、新しいチームをスタートさせ、次の変化に向けて一歩飛び出したところだ。レイさんが今の世界をさらに拡張した先には、どんな景色があるのだろうか。

しかし、それがどんな景色であろうとも、それを見てニヤニヤしているレイさんの表情が目に浮かんでしまうのである。

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ブルックリンにあるレイさんの仮オフィススペースの一角。レイさんのトレードマークである★マークのシャツは「着てくるの忘れた」とのこと http://inamoto.co/
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レイさんと、新チームのパートナーのRem。昨年、二人が一緒にAKQAを卒業したニュースは、世界の広告界で大きな驚きをもって迎えられた
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レイさんの新しい会社の名刺や手帳といったグッズたち。レイさんのトレードマークの★マークがあしらわれている
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初めてレイさんの存在を知ったのは、10年くらい前、日本で出版されていたクリエイターのインタビュー本だった。レイさんは当時から海外で第一線のクリエイターとして活躍し続けている。偉大だ

 

清水幹太のQuestion the World:
30代後半になってニューヨークに移住した生粋の日本人クリエイター清水幹太(PARTY NY)が、毎月迎えるゲストへの質問(ダベり)を通して、Webについて、デジタルについて、世界を舞台に考えたことをつづっていくインタビューエッセイ。
Photo : Suzette Lee (PARTY NY)

 

Text:清水幹太
Founder/Chief Technology Officer/PARTY NY 1976年東京生まれ。2005年より(株)イメージソースでテクニカルディレクターを務める。2011年、クリエイティブラボ「PARTY」を設立。企画からプログラミング、映像制作に至るまで、さまざまな形でインタラクティブなプロジェクトを手がける。現在はニューヨークを拠点に広告からスタートアップまで幅広い領域にチャレンジしている。>http://prty.nyc/

掲載号

Web Designing 2016年3月号

Web Designing 2016年3月号

2016年2月18日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

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 レイ・イナモト:「広告界のイチロー」の楽しい性癖

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