メタバースと著作権 事例詳細|つなweB

最近メタバースという言葉を見聞きすることが多くなってきました。商取引も行われることから、ビジネスチャンスと考えた各業界の企業が関心を向けています。メタバースでは現実空間と同様の法律問題が生じる可能性がありますが、現在の法律は基本的に現実世界を想定しているため、そのままメタバースに適用することが難しいものも少なくありません。今回ご紹介する著作権法もその一つです。

メタバースには現実世界を再現する場合(都市連動型)と、完全な仮想空間をつくり出す場合(仮想空間型)があります。都市連動型の場合、現実世界の建築や、公共空間に設置される芸術作品(パブリックアート)が登場しますが、これらの著作物については広範な利用が認められていますので、著作権についての問題はありません。ただ、デフォルメ等がされた場合には著作者人格権の中の同一性保持権の侵害になる可能性はあります。また、現実世界で市販されている商品が登場することもありますが、商品のデザインは応用美術という法理で実用性から離れた高度の美的創作性がない限り著作物とは認められていませんので、やはり著作権についての問題はないでしょう。

次に、メタバースで利用者によって著作物が利用される場合を考えてみましょう。現実世界では音楽作品は演奏権、舞台作品は上演権、映像作品は上映権、美術作品や写真は展示権といった形で、作品の種類に応じた権利が設けられています。そして、それぞれについて、こういう場合は無断で利用しても著作権侵害にならないという例外規定がきめ細かく設けられています。

ところがメタバースにおける著作物の利用は、作品の種類を問わず公衆送信権という同じ権利ということになっています。そして、この公衆送信権は、現実世界における利用のようなきめ細かい例外規定が設けられていません。ですから、現実世界は許可を得ずにできるような著作物の利用でも、同じことをメタバースで行うと公衆送信権侵害になってしまいます。利用者としては違和感があるでしょうから、この問題についてはこれから法改正が必要かどうか議論されるでしょう。

なお、アバターにより繰り広げられるメタバースの映像は、ゲームのプレイ画面と同じように映画の著作物と考えられます。そうすると、おそらくメタバースのサービスを提供する側が映画製作者となり、映像の著作権者ということになります。

メタバースについての著作権問題の議論はまだ始まったばかりですが、権利関係はかなり複雑なものになると予想されます。さまざまな分野から発展することが期待されている世界ですので、著作権法がその妨げにならないといいですね。

メタバースでは、現実の著作物をデフォルメして登場させる場合や、ユーザーが音楽を演奏するといった時、著作物の取り扱いに注意する必要がある
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2022年8月号(2022年6月17日発売発売)掲載記事を転載

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