アパレルブランドのリセールプラットフォーム「Archive」 事例詳細|つなweB

世界的な動きとなった中古品市場開拓

ファッション業界は非常に無駄の多い業界だと言われており、年間1,300万トンの繊維が埋立地に捨てられていると推測されています。これは、利益を追求したことによる弊害だと言えます。大量に生産することでユニット単位の生産コストを下げ、なるべく安く消費者に届けることが可能になっていますが、その代償として大量に売れ残った商品は廃棄するしかないという状況が発生しているのです。

そのような状況に対して、Poshmark(https://poshmark.com/)やthredUP(https://www.thredup.com/)といったスタートアップは、アパレルのオンライン再販マーケットサービスを展開し、それを通じてよりサステナブルな仕組みを提供しています。そういった動きもあって、2025年までに米国における衣料品への支出のほぼ半分がオンラインに移行し、中古品市場は5年後に770億ドルに倍増すると予測されています。

それにしてもここ数年、アパレル市場全体と比較しても、リセールの成長は驚異的です。この市場は、多様性、価値、持続可能性を求める消費者の嗜好に対応しており、今後も高い成長が見込まれています。投資銀行であるジェフリーズの調査レポートによると、アメリカでは中古市場が年間300億ドル近くの売上を生み出しており、それらは主にオンライン再販が牽引し、今後10年間でアメリカのアパレル市場全体に占める中古市場の割合が、10%台半ばにまで拡大すると予想されています。

Archive
アパレルブランドの「リセール(再販)」サイトを作成できるプラットフォーム。ハイブランドになるほど二の足を踏んでいる状況の中古市場進出を支援する目的で誕生し、ブランドメーカーは中古品の在庫管理などをする必要なくサービスを展開できます。これにより、アパレル業界の最大の課題である「廃棄処分の無駄」を抑制し、サステナビリティへの取り組みにも貢献します

 

ブランド公認の再販サービスを簡単に実現

その一方で、多くのアパレルブランドは、いまだにこの活動から取り残されています。特にハイブランドを中心に名前の知られているブランドの製品の多くは現在、オンライン再販マーケットでの流通は限定的な状態です。やはりブランドメーカー自身が課題に目を向け、解決に向けて積極的な動きを始めないことには、先述の「廃棄問題」に対しての根本的な解決にならないでしょう。

この問題に対応するべく2021年2月に起業したスタートアップが、「Archive」です。Archiveは、リセール(再販)サイトをつくれるプラットフォームを提供するサービスで、利用するブランドはそれぞれの世界観にあわせて自由にカスタマイズしながら制作することができ、ブランドの名のもとに中古商品の売買をユーザー同士で行うことができるサービスを展開できるというものです。要するに「ブランド公認の再販・個人間取引サービス」が用意できるということで、顧客に新しい体験を提供できるとともに、中古品を活かすという観点において、企業として人間・社会・地球環境への配慮と取り組みの姿勢を伝えることができるというわけです。

Archiveが提供するこの仕組みを利用すれば、それぞれのブランドが例えば自分たちのECサイトと同じデザインテーマを利用して、再販サイトをつくるということもできます。この再販サイトのためにまたイチからデザインする必要がなくブランドイメージを同じくした新事業が始められます。

無駄な消費を嫌うZ世代の取り込みが最重要項目

現在は「THE NORTH FACE」「Filippa K」「Dagne Dover」「Oscar de la Renta」といったブランドがArchiveを利用して自社のリセール事業を立ち上げており、さらに今後、100以上のブランドがArchiveを利用する予定だと同社の創業者エミリー・ギッティンズ氏は語っています。世界のアパレル業界は今、「リセールサービス」の提供へ確実に流れが向かって来ているのです。

その背景には、無駄な消費を嫌う、Z世代に代表される若者消費者の意識の変化があるとされています。ある調査では18~24歳の3人に1人が毎年中古品を購入すると推測されており、リセール業界で最も重要な世代とされています。同時にアパレル製品の顧客としても影響力の強い年代でもあることから、リセールの仕組みを取り入れることが、多くのブランドにとっての最重要項目の一つとなってきているのは自然な流れだと言えるでしょう。

とはいえ、「リセール」という観点で言えばこれまでもオンラインオークションやフリマアプリという文化を確立したサービスが存在します。しかし、これらは各ブランドにとっては「外部との連携」であり、外部チャンネルでは正しいブランド体験が提供できない上に、ブランドのファンを集めるコミュニティの役割が欠如してしまうという欠点がありました。Archiveはそのニーズに対応できるとして、現在多くのブランドが注目をしているというわけです。事実、Archiveは約1,000万ドルの資金調達にも成功しました。

 

Archive社によると、ファッション業界は、温室効果ガス排出量の8%、廃水の20%を占めていると言います。そして、平均的な衣服の着用回数は7回未満。これらの商品にセカンドライフ(再販)を与えることで、CO2排出量の影響が79%減少すると主張しています
Archiveを利用して再販サイトを立ち上げているブランドの例。現在は、例えばTHE NORTH FACEならカナダ限定、Filippa Kではスウェーデンというようにそれぞれのブランドで利用できる地域が限定されています。ブランドユーザーは、持っているアイテムを他のユーザーに販売したり、ブランドに返して現金や商品券に引き換えたりできるようになっています
Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。 http://btrax.com/jp/
ブランドン・片山・ヒル
※Web Designing 2022年4月号(2022年2月18日発売)掲載記事を転載

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