クッキーレス時代のECは大手の「囲い込み」 にどう対処するかがカギ 事例詳細|つなweB

クッキーレスの影響がEC業界にも大きな波になってやってきます。これからのクッキーレス時代にどのようにすべきかが大きな課題となってきます。新しい時代には新しいEC戦略・戦術が必要です。

 

「クッキーレス時代」は2023年

1994年に開発されたクッキー(Cookie)は、ECの普及や発展とともに2000年代から広く使われるようになりました。楽天やAmazonで、例えばみかんやお米を見た後、Facebookを見たら、広告欄にみかんやお米の広告が表示されていてびっくりした方も多いと思います。これが「サードパーティクッキー」を使った技術です。クッキーは「サードパーティクッキー」と「ファーストパーティクッキー」に分けられます(図01)。サードパーティクッキーは第3者がデータを見ることができるのですが、ファーストパーティクッキーはそのサイトを運営している事業者だけが見ることができるデータだとお考えください。

Google Chromeのサードパーティクッキーは2023年半ばにはそのサポートを3カ月かけて段階的に廃止するとしています。つまり、もうすぐクッキーレス時代になってしまうということです。ちなみにAppleが提供するWebブラウザ「Safari」は、すでにサードパーティクッキーを完全にブロックしています。

このサードパーティクッキーは、ECにとってとても重要な技術で、外部サイトからの流入を分析したり、ターゲティングするために使われています。サイト横断(ドメイン横断)でユーザーの情報を連携させ、パーソナライズな広告配信などを可能にしています。この配信分析からECのコンバージョンの最適化を図っていたのが、今後はなくなるということです。

 

01 ファーストパーティとサードパーティの違い
ECにおいて特に影響のあるポイントで違いを並べてみました。例えばDSP(ディスプレイ)広告を実施したとしても、サードパーティクッキーを使わざるを得ない第3者はその広告をクリックした人の識別も流入経路も知ることができず、結果的にリターゲティング広告などの実施が困難になるということになります

 

スマホのトラッキングデータはほぼ取れない

ECでもスマートフォンからのアクセスが多く、多いところでは90%以上スマホからのアクセスといいます。例えばiPhoneの場合、OSが14.5以降になると、トラッキングの許可をユーザーから取る必要があります。しかし、appsflyerの調査によると(https://www.appsflyer.com/jp/blog/att-opt-in-rates-higher/)、ほぼすべてのユーザーがトラッキング許可をしていないので、すでにトラッキングできていないと見てよいのです。

では、どうすればよいのでしょうか。ファーストパーティクッキーを使って売上を上げる、要するに自社サイトに訪問してくれたお客様のデータを取得して、購入していただくECを実施すると考えておけばよいと思います。「それって今までやってきたことだよね」と思いませんか? つまり、最近で言えばD2C(ダイレクトトゥコマース)、お客様へ直接販売するということです。「だったら今までと同じじゃん!」とも思う方が多いと思います。しかし、そうではないのです。

 

中小企業がファーストパーティデータを取得するには

2007年くらいから、大企業がネット広告に大量投資して、大規模なデジタルマーケティングを実施してきました。彼らがクッキーレス時代に何をやるかといえば、顧客の囲い込みです。もともとあったブランド構築をさらに進め、CRMをいかに回していくかを考え実施するはずです。ガッチリお客様を固められたら、そこから漏れてくるユーザーはわずかでしょう。中小企業にとっては今まで以上に厳しい時代になってきます。これからは「ECサイトを構築してGoogleアナリティクスで分析、KPIをアクセス人数と転換率、客単価として売上を見ていく」なんていうことは、過去の遺物になります。では、中小企業はどうすればよいでしょうか?

それは、「お客様のことをもっと具体的に理解する」ことです。一つの手段として、アンケートだったりクイズだったりが考えられます。購入時にクイズを出す、「何を購入するとあなたにぴったりか?」「あなたの家族に合うか?」などをクイズにします(図02)。また、購入後になぜ購入したかをアンケートにして取るのもよいでしょう。ただ、ロイヤリティの低い状態で大げさなアンケートをやってもほぼ回答してくれません。そこで役立つのが、お客様の期待値をちょっとだけ上回るサプライズ、いわゆる「おもてなし」です。

Webサイトアクセス時、購入時、商品が届いた時、使った後などにちょっとしたサプライズを用意しておきます。このサプライズがクイズやアンケートの回答率を高め、実際に即したデータが取れるようになります。このクイズやアンケートはSNSでも簡単にできるはずです(図03)。このようなデータを自ら取得していくことが、事業者が獲得できるファーストパーティデータなのです。

クッキーレス時代は、自らお客様のデータを取得して、売上を上げていく必要があります。そのためにはお客様とのエンゲージメントが大事です。それを高めていくには、今までのEC戦略は限界があります。新しい時代には新しいEC戦略、それに沿った戦術が重要になってきています。

 

02 スナックミーの「おやつ診断」
安心、安全なおやつの定期便「snaq.me」では、注文する際に「おやつ診断」と称しいくつかの質問をすることでお客様の好みや傾向などを把握、それに沿った菓子を提供しています。お客様にとっては自分の込みに合わせてくれるというメリットとして受け入れられ、スナックミー側は顧客データを取得できるという仕組みになっています。また、届いた箱の中にもスゴロクや子どもが喜ぶサプライズが隠されているなど「おもてなし」が施されています
03 榮太郎總本舗のSNSアンケート
東京・日本橋に本店を構える和菓子店の老舗「榮太郎總本舗」ではTwitterの公式アカウントからの定期発信の中にアンケートを挟み込んだりしています。SNSでは無記名によるアンケートは簡単にできるようになっているので、使わない手はないでしょう

 

川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。 http://jeccica.jp/

 

Text:川連一豊