アンブッシュ・マーケティング ~便乗はどこまで許されるのか~ 事例詳細|つなweB

新型コロナウイルスの感染拡大による不況の中、映画『鬼滅の刃』が記録的なヒットとなり、コンビニなどでも正式にライセンスを受けたコラボ商品が溢れています。その一方で、島根県の「奥出雲たたらと刀剣館」で展示されている、たたら製鉄という伝統的な製鉄方法で生産された玉鋼を原材料にした黒い日本刀が、主人公の炭治郎の使う「日輪刀」に似ていると話題になるなど、作品と無関係なものまでが人気を集めています。 

これは意図せずに作品の人気が波及した例ですが、世の中には正式なライセンスを受けずにわざと作品の人気に便乗する手法があります。『鬼滅の刃』に登場するキャラクターをイメージさせる緑色のちくわや、市松模様の柄を使ったマスクなどが例です。これらは明らかに作品の人気に便乗しているのですが、ライセンスを受けているわけではありません。こういう手法をアンブッシュ・マーケティング(便乗商法)といいます。

アンブッシュ・マーケティングで問題になるのは商標、不正競争防止法、そして著作権です。まず商標ですが、例えば、『鬼滅の刃』という作品名、『禰豆子』などのキャラクター名は既に商標登録されていますし、市松模様などの着物の柄についても、まだ登録はされていませんが、登録のための出願がなされています。登録された商標はライセンスを受けないと使用できません。ですからアンブッシュ・マーケッティングでは商標そのものを使わず、「鬼滅の刃『風』」や、「禰豆子『になれる』」といった表現が使われます。こういう使い方であれば商標権の侵害にはなりません。不正競争防止法についても同様です。

著作権については、作品のタイトルや登場人物の名前には著作権がありませんので、これらを使っても著作権の侵害にはなりません。ただ、キャラクターのビジュアルには著作権が成立していますので、イラストなどを使うと著作権侵害になります。市松模様などの着物の柄は、古典的なもので著作権は既に切れていますから使っても著作権侵害にはなりません。

このように商標、不正競争防止法や著作権に注意し、権利が認められている言葉やビジュアルを直接使わなければ、アンブッシュ・マーケッティングであっても違法ではないわけです。

ただ、法律上は問題なくても、社会的に問題になったケースはあります。例えば、2015年、変更前の東京五輪エンブレムに似せたPOP(右図)を使ったところ、組織委員会からクレームが入り、使用をやめたことがありました。法律上は特に問題ないのですが、五輪やW杯などの世界レベルの大会は重要な収入源であるスポンサーの利益を重視して、アンブッシュ・マーケッティングに対してクレームを入れる傾向があるので、十分注意が必要です。

「うどんすき」「巨峰」など、社会で一般的に使われているような商標は、商標としての役割が希釈化し、一般名称化していると言える
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2021年4月号(2021年2月18日発売)掲載記事を転載

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