LINEのUI設計指針とは?変更理由や企業ビジョンを徹底取材! 事例詳細|つなweB

[Creative]気づかれないのが「狙い」

国内の4人に3人以上のユーザー数を抱えるコミュニケーションアプリ「LINE」が、2020年12月のアップデートでUIデザインを刷新しました。コンセプトは「Simple, Wide and Bright」。ホーム画面ではネイビーのヘッダ領域がなくなり、全面が白地になるなど、UIの構成がよりシンプルになりました。

従来までの仕様やデザインと新UIを比べると、さまざまな変化に気づきやすい一方で、決して大きく、ガラッと変えた刷新ではありません。「気づかないまま、使い続けるユーザーも多いのでは?」という疑問に、同社クリエイティブセンターでエバンジェリストを務める小林謙太郎さんは「そこが狙い」と語ります。

「LINEの大きな課題の1つに、数々のサービスが乱立してLINE全体の統一感が出せていないというジレンマを長らく抱えてきました。一方で、LINEは大変多くのユーザーに支えられたサービスですので、慣れ親しんだ現状を変えづらい現実もあります。雑然とした状態をすっきりさせつつ、今までのユーザーの使いやすさを担保もしたい。今回は、両者の実現を目指した刷新となります」

水面下の検討はすでに4年以上前に始まっていたとか。2020年3月に正式プロジェクト化し、今回の新UIへと至ります。

キーカラーは若干明るく
キーカラーは各画面のデザイン変更とあわせて検討。白が基調になる画面に対し、従来の緑では白の中で沈んで見えるので、明度を調整しました。明るみが増している緑をアイコンの色にも採用しています。
ホーム画面は全面を白地に
大きな変化としては、ネイビーのヘッダがなくなったこと。そのほか、ヘッダ内のメニューアイコン位置や、サムネイル画像の四辺が角丸になるなど、全面の白地をベースに、各所の微調整が行われています。
各画面で際立つタイトル
トークなどの各画面では、左上にタイトルを大きく表示。黒い太字が際立ち、よりシンプルな印象を受けます。トーク画面では、未読メッセージ数を表す丸の色に新しいキーカラーが採用されているとわかります。
白地に映える、メッセージ上のアイコン
従来は各サービスアイコンの仕様が定まっていないため、並べた時の統一感を欠いていました。変更後は、輪郭以外の塗り潰しをなくすなど、白ベースの背景にあわせて、細かい部分まで調整しています。

 

[Concept]目指すは「Life on LINE」

小林さんは、「今の時期を狙った是が非でも、という全面UI刷新でもありません」と付け加えます。更新ありきで新UIが生まれたのではなく、地道で慎重に改善作業を進めてきた背景には、LINEならではの難しさとも関係しています。LINEは国内だけでも約8,600万の月間アクティブユーザー(以下MAU)、LINEが指定する主要4カ国/地域(日本に加えて台湾、タイ、インドネシア)だと1億6,700万MAUが存在します。それだけの大多数のユーザーに支えられているサービス、プラットフォームだからこそ、LINEは「誰もが迷わず、使いやすくあること」を大切にし、LINEが掲げているビジョン「Life on LINE」を最重要視しているのです。

「24時間365日、どのような時にもLINEがみなさんの生活をサポートしたい。となると、焦らず見直しの機会やタイミングを図りながら、着々と地道に準備を続ける必要がありました」

正式プロジェクト化する前には、内部で大規模な調査も実施したそうです。

「調査目的の1つは、私たちが抱える課題の確認や、改めてユーザーニーズを掘り起こすこと。もともと、ストアレビューや各種のソーシャルリスニングの内容を検証しながら使いづらさ、ニーズの有無は検証していましたが、正式なリサーチで確たる裏づけが欲しいと考えていました。もう1つが、ブランドアイデンティティの棚卸しです。LINEというブランドについてのユーザーの考えを検証したかったのです」

結果は、多数のユーザーと広範なサービスを提供する複雑さについて、改めて突きつけられる形だったそうです。

「国籍や性別、年齢、属性がどこかに大きく偏らず利用されているサービスだからこそ、シンプルさ、統一感を重視し、使いやすさを実現することが必要だと思い知る結果でした。となると、目新しさや先進性を優先するリニューアルとは一線を画する方針になります。これは社内で考えてきた感覚ともズレておらず、目的を再確認できました」

刷新の契機になった企業ビジョン「Life on LINE」
コミュニケーションアプリをはじめ、LINEは24時間365日、ユーザーのどのタイミングにも寄り添うサービス提供を目指すとして、「Life on LINE」というビジョンを掲げています。また、各サービスを通じて、統一されたLINE体験を享受できることを理想としています。

 

[Action]成功の指標は「反響のなさ」!?

今回のプロジェクトは、プロジェクトマネージャーなどで構成するコアメンバーの13名を軸に、総勢170名弱のメンバーが参画しました。ニュースなどの「LINE」ブランドを掲げる他サービスにも今回の刷新が波及するため、複数部署で連携しながら、全社的にプロジェクトを進めています。

「サービスの提供状態が一気通貫となるために、コアメンバーのプロダクトデザインチームが、コンセプトやガイドラインを固めながら、何度もプロトタイプをつくりました。つくるごとに、コアメンバーに紐づく各チームがそれぞれの立場からフィードバックして、集約しながら調整していきます。コミュニケーションアプリのLINEは、ニュース、電子決済、エンタメコンテンツなど、多くのサービスのプラットフォームになっています。各サービスにデザイナーも多数いるので、さまざまな部署を巻き込みながらの進行でした」

そのほか、LINEを取り巻く外部要因には深く配慮した、と小林さんは刷新に伴う別の難しさも明かします。

「時代によって、デバイスやアプリに関わるデザインの潮流があるので、ユーザーがトレンドに慣れていく時間にも配慮が必要です。だからこそ、私たちの一方的な思いや判断でドラスティックに変えるべきではない、ユーザーにもっともメリットがある状態とは何か、を追求していました。世の中の動きを考えながら、LINEとして究極の普遍性を追い求め、4年以上の年月をかけて合意形成を図ったとも言えます」

続けてうかがった「反響がないことが、成功の指標かもしれません」という言葉には、サービスが置かれた状況によって、UI「刷新」の意味が変わることを示唆しています。さらに小林さんの言葉を借りると「ユーザーにとって気が利くコンシェルジュであってほしい」というLINEは、常にユーザーへの配慮に立ち返る謙虚さがあったからこそ、全方位納得型の刷新が実行できたのです。

プロジェクトに関わったメンバーの職種
プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャーなど、「コアメンバー」と呼ばれる主導的な立場が13名。それ以外に関わったメンバーの職種はグラフの通りです。総勢170名弱の体制で進められました。
プロジェクトにおける大枠の流れと期間
2020年3月に正式にプロジェクトとして発足し、リリースまで約9カ月かけて動きました。コアメンバーが主導しながら、各サービスのプロダクトチームにも共有し、ブラッシュアップしたうえで進行していきます。

 

Interviewee>>小林 謙太郎さん
LINE(株)クリエイティブセンター エバンジェリスト
遠藤義浩
※Web Designing 2021年2月号(2020年12月18日発売)掲載記事を転載

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