「ミドリムシ」の会社ユーグレナ、刷新の舞台裏と真意に迫る 事例詳細|つなweB

[Start]実“仲間”に自分ゴト化してほしい

「ミドリムシ」の会社として知られる機会が多かった(株)ユーグレナが、創業15周年にあわせて、“ユーグレナ・フィロソフィー”として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を発表。コーポレートロゴも刷新しました。

背景には、2020年や15周年という区切りもありながら、経営戦略部の北見裕介さんは「私たちは社員のことを“仲間”と呼びますが、15年間で広がった仲間一人ひとりが、在籍する年数は関係なく、ユーグレナのことをもっと自分ゴト化しやすくしたい」という狙いについて、解説してくれました。

「拡大した組織全体を見直したかったのが大きいです。15年間で、その時代ごとに最適化した内容を理念、ビジョン、スローガンとして、それぞれ発表してきました。時代とともに事業が広がり、仲間たちも増えたことで、すべてが浸透できているのかどうか今こそ立ち止まって考えるべきだと判断しました。入社タイミングや所属部署などの違いで、理解の仕方や度合いにも違いがあるかもしれません。社外に対しても、複数のメッセージの存在はわかりづらさがあるでしょう。そこで、統一した芯となる言葉に刷新できれば、もっと伝わるはず、という問題意識が刷新の原動力です」

ユーグレナのコーポレートロゴ
ロゴ右上には、ユーグレナの頭文字「e」とサステナビリティの頭文字「S」との組み合わせ、また、持続可能を意味する「∞(無限大)」を意味するマーク。その位置にも「右肩上がり」の意味が込められています。

 

[Process]リモート環境下でのPJ進行

ユーグレナは創業当時から「人と地球を健康にする」という経営理念のもと事業展開を続けてきましたが、今回の刷新は、ユーグレナが未来に対して「どうありたいか」という芯を見つめ直すことを表します。2020年1月からプロジェクトがスタート。広報、マーケティング、通販、経営戦略などの複数の部門から10名弱のメンバーでプロジェクトの中核を形成。特に2月以降は、コロナ禍で全社的にリモートワーク化という社の決定を受けて、定期的な対面型の会議をなくし、すべてリモート、オンラインミーティングで進めていきます。

当初は、コーポレート・ロゴを優先的に刷新する考えもあったそうですが、ロゴは芯となる考えを反映してこそ生み出されるものなので、社内外向けに用意されていた言葉(経営理念、ビジョン、スローガン)も正式に変えることを決断。ロゴデザインを担う外部パートナーも、1月末から折に触れてリモート会議に参加する体制を築きます。

「今回のような対外向けにも強く関わる言葉やロゴを刷新する会議が、リモートで成立するのかという疑問は当初こそなくはありませんでしたが、これからはリモートやリアルという環境の差異を問わず、最善の成果を得ることが求められる時代だと考えるようにしました。自分たちの事業を通じて、社会、世の中をよりよくしたい。そうであるためには、これからの時代のあり方(リモート環境)に対応できてこそ、だと思うからです」

リモート環境の難しさを尋ねると、北見さんからは「色の確認」が挙がりました。

「今回はコーポレートカラーも刷新していますが、以前の黄色味の緑から、深緑とスカイブルーを足した色へと変えるにあたって、資料と違って画面共有ができないことに気づきました。色は参加メンバーのディスプレイ環境で差異が生じてしまい、同じ状態の色が確認できないからです。この部分はやはり色見本を手元に置いて対応するしかありませんでした」

CI刷新の始まりから出来上がるまで
全社員が自分ゴト化するためのCI統一を目指したユーグレナは、リモートワークを余儀なくされた状況で刷新PJTが進行。次ページでは、「ユーグレナ・フィロソフィー」「コーポレートロゴ」を紐解いていきます。

 

[FOCUS1]伝わりやすさを第一に

今回の刷新で、新たに生まれたのが「ユーグレナ・フィロソフィー」としての言葉「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」です。ユーグレナ・フィロソフィーとは、経営理念・ビジョン・スローガンとして掲げていたそれぞれの言葉を一本化したもの。時代とともに増えた、社内外向けの言葉を1つに収めるには、社内でも特に議論を重ねたことの1つ、と北見さんは語ります。長年の事業活動を通じて、もしかすると、知らず知らずのうちに経営理念がToDoリストのタスク感覚になっていなかったか? 経営理念で謳われているから取り組んでいるのではなくて、もっとシンプルに訴求できる、ユーグレナが仲間たちとともに「どうありたいか」に向き合う作業として一本化を進めた、とも話します。

「突き詰めると、創業の意図や会社が大事にしてきた信念の“芯”が何なのかに行き着きます。創業当時は、今と違って、SDGs(持続可能な開発目標)といった言葉がまだ飛び交う前でした。でも、実現しようとしたかったことは持続可能な世界にするために社会課題を解決したいというSDGsが示すようなことでした。もちろん、今もそれは変わりません。議論を重ねながら、言葉としてしっくりきた最終形が“サステナビリティ・ファースト”。社内向けに発表したのが7月でしたが、特に“サステナビリティ”は当初から欠かせない要素だと考えていたので、サステナビリティに絡む言葉を念頭に置きながら、新ロゴの準備を並行して進めていました」

ユーグレナ・フィロソフィーが決まった後、新ロゴを考える上で肝に据えたことが、誰にとっても「サステナビリティ・ファースト」が伝わりやすく、体現されたロゴにすべき、ということです。

「事業拡大にあわせて、例えば店舗の売り場など、もっと多くのみなさんがロゴを見かけるようになるはずです。その接点で“サステナビリティ・ファーストを大事にするユーグレナ”とわかってもらえる伝わりやすさ、わかりやすさを心がけました

複数あったCIを一本化
創業から15年の間、経営理念をはじめビジョンやスローガンと銘打った言葉が、別々に設けられていました。これらを一本化し、「ユーグレナ・フィロソフィー」と称して、言葉を統一しました。
フィロソフィーが生む理想の状態
企業としての考え方、昨今の時代背景が反映された「サステナビリティ・ファースト」という言葉が目指す先には、企業としての成長と社会問題の縮小が両立される未来があります。SDGs時代とも言われる今、多くの企業が目指している一つの形です。

 

[FOCUS2]ロゴのカタカナ表記を決断

新コーポレートロゴには、一般的なアルファベット表記でなくカタカナを採用。すでに国外拠点を置く同社の状況を考えると、かなり思い切った決断です。意図的にカタカナを採用した背景には、ミドリムシの学名でもある「ユーグレナ(euglena)」がラテン語であることも関連します。

「ラテン語ですので、ユーグレナのユーの綴りがeuになります。euを“ユー”と読める人は限られますし、以前のロゴ時代から綴りが読めない、という外部からのご指摘はよく受けていました。加えて、代表取締役社長の出雲充からも、みんなが読める、わかりやすいロゴにしてほしい、という要望も出ていました。日本国内で読めないと感じる人がいるロゴで事業をすること、商品を提供することは不親切なスタンスです。読めないハードルは、カタカナ表記なら克服できる、という判断を最優先に取り入れました」

外部パートナーの協力のもと、オリジナルフォントを作成。ゴシック系の読みやすさをベースとしつつ、最終的には温かさも伝わるような、毛筆の手書き感が漂う明朝系へと仕上げていきました。また、新コーポレートカラーは、ベンチャー時代に通じる快活さが感じ取れるビビットな黄色味の緑から、深緑とスカイブルーを混ぜた色へと変更。挑戦・ベンチャーマインドとともに、持続可能性というユーグレナ・フィロソフィーに通底しやすい落ち着きのあるカラーを採用。色に込められた背景1つをとっても、変化への整合性が強く感じられます。

さらに、「いきる、たのしむ、サステナブる。」というタグラインも用意。ユーグレナ・フィロソフィーをわかりやすく示す意図と同時に、社内で共有された目的への強い意思も読み取れます。

仲間には会社を自分ゴト化できるツールとして、顧客にはわかりやすく認知してもらえるものを。今回の刷新を深く探ってみると、徹底した相手目線によるCI設計がうかがえました。

社内外の双方を意識したCI設計
刷新したCIは、すべての社員に会社が目指すべき方向を示し、あえて概念的な言葉にすることで、それぞれが自分なりの「サステナビリティ」を考えてもらうことにつながります。また、顧客向けには、認知と親近感を意識した役割が果たされています。
新ロゴに込めたメッセージ
カタカナで誰にとっても読みやすいロゴに。「サステナビリティ・ファースト」という思いを感じ取ってもらうために、「いきる、たのしむ、サステナブる。」というタグラインも沿えています。

 

Interviewee>>北見 裕介さん
(株)ユーグレナ 経営戦略部 コーポレートコミュニケーション課
遠藤義浩
※Web Designing 2020年12月号(2020年10月17日発売)掲載記事を転載

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