ソーシャルビジョンとは?社内外のブランディングへつなぐプロセス 事例詳細|つなweB

[Start]実態に即したCIを目指して

美容・ヘルスケアの求人事業を中心に手がける(株)リジョブが、2020年1月に新ソーシャルビジョンと新コーポレートロゴを公開しました。刷新の背景について、「2019年11月に創業10周年を迎え、リジョブとしての組織および事業規模の拡大・成長と時代の潮流にかなったソーシャルビジョンとコーポレートロゴへと変えたかった」と同社CHO(Chief Human Officer)を務める窪田みどりさんは話します。

「以前まで掲げてきたビジョンは、じげんグループに参画した2014年につくったものでした。世界的に美容やヘルスケア業界に対する日本の評価は高く、当時のビジョンには“日本が誇る技術とサービスを世界の人々に広め”という言葉を採用していました。5年以上が経過し、リジョブでは介護事業をはじめ外国人労働者プロジェクトや地方創生プロジェクトなど、新規のCSV(Creating Shared Value)事業も手がけるようになりました。そこで、日本から世界へという方向性だけでなく、日本と世界を双方向で行き来する内容に変えた方がいい、と判断しました」

よりリジョブの実態にリンクした内容へと刷新し、社員だけでなくさまざまな形で関わるどの人たちにとってもしっくりくる内容を目指す一新だったのです。

リジョブのコーポレートロゴ
2019年末に創業10周年を迎えたことをきっかけに、2020年1月、ソーシャルビジョンを刷新したほか、コーポレートロゴも新しく変更した

 

[Process]想いを大切にする風土が作用

リニューアルは、同社代表取締役社長を務める鈴木一平さんと、組織全体の責任者の窪田さんが中心となってスタート。新規事業の立ち上げや、組織づくりを行う若手社員たちにも、適宜コミュニケーションをとり、新たなソーシャルビジョンのあり方について想いを深めていったそうです。ソーシャルビジョンに基づいてできていたコーポレートロゴも必然的にリニューアルとなるため、約3カ月の時間をかけてビジョンとロゴを見直します。

窪田さんにリジョブの特徴をうかがうと、「スピード感はありながら社内コミュニケーションが活発な土壌があるとともに、社員一人ひとりが会社に抱く想いがとても強い」と評します。

「リニューアルにあたって、例えば定例でメンバーを募って会議を開くことはしていません。ただ、じげんグループとして再スタートを切ってからは、折に触れて、ディスカッションを重ねながらリジョブのカルチャーをつくり上げてきました。当事者意識の強い社員が多いので、日々のコミュニケーションの中からこれからのリジョブに共鳴するビジョンが何か、どういう言葉で表現できるのかを話し合ってきました。代表の鈴木自身が、社員一人ひとりや業界・社会課題への想いを大事にしたい考えを持つので、ビジョンの取りまとめには多くの社員の想いを反映し、外部ライターさんにも参画いただきながら、今とこれからのリジョブになじむ内容を意識して策定しました」

一般的にビジョンやロゴといったCIを変更するハードルは高く、「組織の成長にあわせたいから」といって簡単に変えられない側面もあります。その点についての考えも聞いてみました。

「変えるかどうかは大切な経営判断ですが、リジョブは見え方の変化を恐れず、根本の“想い”を大切にする会社です。以前のままではしっくりこない現状があるならば、リジョブに関わる多くの人たちの想いが反映された、納得しやすい状態にしたいというのが、私たちの考えです」

完成までの全体像
事業と組織の実態や時流にあわせたCI刷新を決断したリジョブは、最初にソーシャルビジョンをリニューアルし、そのビジョンをもとにロゴを制作した。次ページでは、ビジョン、ロゴそれぞれについて掘り下げていく

 

[FOCUS1]旧ビジョンを拡張したキーワード

ソーシャルビジョンは、以前までの「日本が誇る技術とサービスを世界の人々に広め心の豊かさあふれる社会を創る」から、「人と人との結び目を世界中で増やし心の豊かさあふれる社会を創る」へと刷新します。

「リニューアルが検討されたタイミングが、創業10周年のほかに、採用向けWebサイトのリニューアル時期とも重なっていました。採用サイトのコンテンツに代表鈴木のインタビューを用意するために、外部ライターさんを起用していたのですが、その原稿に“結び目”という言葉がありました。人と人の結びつき、異なる国や文化を尊重しながら、世代を越えて相手との結びつきを大切に考える私たちにとって、“結び目”という言葉はとてもしっくりくる一語でした」

旧ビジョンをベースに「結び目」というキーワードを取り入れ、社内で検討を続けます。刷新のきっかけとしても触れたとおり、旧ビジョンを定めた2014年から、美容サロン向け集客予約システムを提供する(株)リザービアのグループ会社化などを経て、企業の規模は明らかに大きくなりました。事業規模(新事業など)と組織規模(人材の多様化、規模拡大)の両面で、当時と今では状況に変化が生じていたため、リジョブの今とこれからを表す本質についてコミュニケーションを重ね、深く探る必要があったのでしょう。

「事業が多様化する中で、各事業に共通する想いを大切にしたい。事業の拡大で本当に多くの人たちが関わるようになっていますので、想いを継承しながら働いている人たちが実感しやすい内容へと変えることが第一目的でした」

これまでの「日本の技術とサービスを世界へ」という方向性に、時代の変化や事業の拡がりとともに「世界から日本へ」という方向性が加わり、双方向のつながりを意識した組織へと進化したリジョブ。国内ではまだまだ珍しい、ソーシャルビジョンの英語バージョンを用意したのも、そう考えるとごく自然なことです。

ソーシャルビジョンのリニューアル
新ビジョンでは、日本と世界を双方向のベクトルでつなぐ意識を反映し、英語版「WE BRING HAPPINESS BY CREATING HUMAN BONDS.」も定めることで、その想いを、ビジョン自体でも体現した
ビジョン変更を検討すべきタイミング
事業と組織の視点から企業の現状を捉えた時、片方あるいは双方が大きく変化していることがある。そうなると、変化する以前に定めていた今のビジョンとのギャップが生じている可能性を疑う必要があるだろう。変化後の事業や組織にも見合ったビジョンへの刷新を検討することで、社内外におけるブランディングにもつながる

 

[FOCUS2]後からじわりと伝わるロゴに

新たなソーシャルビジョンの見通しがついた段階で、ビジョンを象徴するロゴのリニューアル作業にも着手。はじめに、ビジョンづくりで力を借りた外部ライターがディレクターとなって、外部デザイナーとともに10の案が提出されます。

「事業を通じて人と人との結びつきを増やす、心の豊かさを大事にするといった、新ビジョンが伝えたい本質を反映したいと考えていました」

当初の10案は一気に3案に絞られます。その中で、最終的に決まったのは第一印象の受けがいい案でも、代表の鈴木さんが当初気に入っていたベンチャー感が漂う案でもなく、「後からじわりと良さが伝わる現在のロゴ」だったそうです。

「代表の鈴木自身が、社員の考えを尊重するスタンスが強く、自分の好みや希望より社員の合意形成が得られるロゴを望んでいました。冷静に、時間を置いて検討すると、シンボルマークに込められた意味とともに、現行案が最有力候補に浮上しました」

シンボルマークの不完全な円形マークについては、「心の豊かさの象徴としての太陽をモチーフに、意図的に未完成な状態にして、円と縁とをかけあわせながら、ご縁(円)をつくり出す過程や、現状に納得せず成長するという想いを込めています」と解説してくれました。最終的には、細部の調整を経て完成に至ります。

「リジョブは桜をモチーフにしてきたので、引き続きピンクをベースとしながら、ややビビットな色味を加えて、快活なベンチャー感も引き立つようにしました。リジョブの独自性も感じさせながら、多くの人たちに長く愛される新マークになることを念頭に置いて、最終決断しました」

現在のリジョブには、組織ロゴのほかに、各事業を表現する事業ロゴやプロジェクトロゴも存在します。これらのロゴの多くは、コーポレートカラーの桜のモチーフを共通で使用。各事業同士が結びついて全体へと連なるリジョブの、11年目の躍進に今後も要注目です。

コーポレートロゴのリニューアル
ビジョンを表現すべく、豊かさを表す太陽をモチーフにデザイン。旧ロゴでも“求職者に春を届ける象徴”として採用した桜を想起させるピンクはそのまま、以前のカラーよりビビッドにし、社名の字体も太くすることで、力強さを加えた
事業/プロジェクトロゴとの一貫性
リジョブが“コーポレートフラワー”としている桜の花びらはコーポレートロゴ、事業ロゴ、プロジェクトロゴすべてに共通のイメージとして採用。そのため、社内外に一貫したメッセージを発信できる

 

Interviewee>>窪田 みどり
(株)リジョブ Chief Human Officer
遠藤義浩
※Web Designing 2020年10月号(2020年8月18日発売)掲載記事を転載

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