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リモートワークにおける心のリスクと予防策 産業医の先生に聞きました

リモートワークが拡がりを見せる中、急な環境の変化やどうなるかわからない不透明な先行きによる不安や悩みも耳にします。産業医であり精神科医でもある堤多可弘先生に、いま必要なメンタルケアについて伺いました。

リモート下の心的不調原因はコミュニケーション不足

コロナ渦の影響でリモートワークが余儀なくされ、クリニックへの相談も増えています。よく聞く悩みの原因のひとつは「コミュニケーション不足」です。リモートワークにより、対人ストレスが軽減したというメリットもある一方で、雑談が減ったことや人が集まる機会がなくなったことで孤独感を感じるようになった人が増えました。また、いわゆる「空気」を感じることができなくなったことで、コミュニケーションがしにくくなったと感じている人も少なくありません。

会社のデスクで仕事をしていたときには煩わしく感じていた「オフィス雑音」に注目してみましょう。リモートワークになり、この雑音から解放されたと喜ぶ人もいると思います。しかし一方、会社では、相手の表情や素振り、忙しそう度合いを「空気」で察し、ちょっとした隙を見て隣の人に話かけることができました。

リモート環境下でのやりとりの基本はチャットやメールです。文字のみで行うチャットやメールでのコミュニケーションにはもちろん空気感はなく、今まで無意識で感じていた隙がわからなくなってしまいます。そのため「聞いていいのかな、いけなのかな」という状況に陥り、不安や孤独感につながっていくのです。

他にも、ちょっとしたやりとりにも注意が必要です。例えば「この仕事やっておいて」という何気ないセリフは、対面では何も感じないと思います。しかし、表情や感情が読めないチャットやメールで読むだけだと、「怒られているのかな…」と深読みをしてしまうことも。これでは、コミュニケーション不全を引き起こしてしまいます。

こうした状況下では、周りの空気に左右されないような、いわゆる“KY”な人ほど、ストレスフリーに業務に取り組める傾向があります。KYになろう、とまでは言わなくても、物事に一喜一憂しすぎず、物おじせずに行動や発言ができると良いでしょう。

コミュニケーション不全を解消するためには、チャット上で「雑談部屋」をつくることもおすすめです。仕事用のチェンネルでは、「こんなこと聞いてもいいのかな」「今聞いてもいいのかな」と迷いが生じますが、「雑談」とあると、そのハードルはぐんと下がります。ちょっとした工夫でコミュニケーションは活性化し、安心感が生まれます。

 

病気につながりかねないオンオフ切り替え問題

コミュニケーション不足の次に多い悩みが、「生活のリズムの乱れ」です。リモートワークは、どこでも仕事ができる状態。逃げ場をなくしたビジネスパーソンは、朝も夜も仕事を続けてしまいがちです。これが続くと次第に生活のリズムが崩れ、結果としてパフォーマンスの低下を引き起こしてしまいます。

生活リズムの乱れは、健康にも影響します。人間には、活動時に活発になる交感神経と、リラックス時優位になる副交感神経とがあります。通常、昼間には交感神経が夜には副交感神経が優位になるよう、バランスよく働いています。しかし、生活のリズムが乱れたり昼夜が逆転したりすると、常に交感神経が優位な状態に。これが続けば睡眠の質が悪くなり、メンタル不調を引き起こすことも。放っておくと、自律神経失調症といった状態へと発展しかねません。

この負のスパイラルを断ち切るためには、オンとオフを上手につくることが大切です。そこでおすすめしているのは「じぶんカレンダー」。これは、仕事だけでなく、休みや気分転換の予定をスケジュールに組み込むだけです。

もうひとつは「2つのキョリとソトオキ化」です。「2つのキョリ」とは、時間的キョリと空間的キョリのこと。まずは仕事をする時間を決める。仕事と仕事の間にはインターバルを置くことも重要です。また、仕事をする場所と生活をする場所に距離を置きましょう。場所を変えるのが難しい場合は、パソコンを閉じるでも構いません。また、「ソトオキ化」とは、仕事終了後に仕事に関することを思い出したらメモだけ取って、後は忘れましょうということです。また、1日の終わりにTo Doリストを振り返らないのも、オンとオフを切り替えるコツ。1日の終わりに振り返るのは、「今日はこんな1日だったな」というふわりとした感想のみだと覚えておきましょう。

要は、脳を休ませる時間をどうつくるかということですが、思考はストップさせつつ体を動かすジョギングやヨガなどは、いい気分転換になると思います。特に有酸素運動はBDNF(脳由来神経栄養因子)という、神経を修復させる物質を加速させる働きがあります。ちょっとしたメンタル不調であれば、有酸素運動で改善を見ることも。無理のない範囲での運動はとても有効です。

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在宅ワーク化による変化と精神面におけるメリット・デメリット

 

緊急事態に感じる不安まずはセルフチェック

今世の中が経験しているコロナ禍は、未曾有の状態。どんなことが起こっているのか、これからどうなるのか、わからないことだらけです。ニュースで報じられる感染者数も増加の一途をたどるなど、とにかく漠然とした不安が増していったのではないかと思います。また、ニュースやネット等で目にする断片的な情報は不安を助長させてしまいます。

不安になると、非常に脳のリソースを消耗します。なぜならば、不安に対して考えられる選択肢が無数にあるからです。例えば、「○日後に地震が起こるかもしれない」という情報に触れたら、「食料を買っておこう」「安全そうなところに引っ越そう」など、何から手を付けたら正解なのか、わからないような選択肢をあれこれと考え始めてしまいます。それはまるで、パソコンがバックグラウンドでアプリをどんどん立ち上げるかのような状態です。それが、不安が原因となる心のストレスの理由です。

また、不安は裏を返すと攻撃性につながってしまうことがあります。その攻撃性が社会との分断と孤立を助長してしまい、さらにメンタルを不安定なものにしてしまうこともあります。今話題の「自粛警察」は、その状態の象徴かもしれません。

そうならないためにも、「正しく不安になる」ことが大切だと考えています。まずは、自分の中の不安を客観視し、て分解し、優先順位をつけることが大切です。いろいろな不安があると思いますが、自分にとって重要なことと重要でないこと、できることとできないことを分類しましょう。自分の努力で改善できない不安は、切り捨てるべき不安だと思えることが必要なのです。

もし、過度な不安でメンタル面が心配になったときには、セルフチェックをおすすめします。この時にチェックして欲しいのは「食う・寝る・遊ぶ」の3点です。普段との食欲の違いや食生活や味覚の変化はないか、寝つきや熟眠感が良いか、趣味は楽しめているか意欲はあるかといったことを確かめましょう。もし、1~2週間、不調が続いた場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。

セルフケアとしては、前述しましたが、やはり生活リズムを整えることが大切になります。起きる時間、運動習慣などはルーティーン化しておきたいです。

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「食う・寝る・遊ぶ」の観点からセルフチェック
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リモート時に生活リズムを整えるルーティーン

 

リモートワーク下で管理職ができることは?

オフィスワークで上司が見ていたものは「勤怠・仕事ぶり・服装・表情・口調」などです。オフィスに入ってきたときの表情や、ちょっとした言動などの空気で察してきました。でも、リモートワークでは表情や服装は見えないし、言動や声色なんて分かりようがありません。唯一可能なのは、仕事ぶりを見るくらいです。つまり、今まで「空気で見ていたもの」については、上司が能動的に見にいく必要があるのです。

そこでみるべきなのは、前ページでも触れた「食う・寝る・遊ぶ」の3項目。チェックリストとしてヒアリングするのではなく、雑談の中で上手に聞き出していくことがポイントです。コツは、自己開示してもらうこと。例えば、「私も以前は睡眠が不足しがちだったけど、8時間寝るようになって、すごく元気になった。ところで君は何時間寝れている?」といったようなオープンな質問をします。「寝てる?」とイエス/ノーで答えられるような聞き方をしてしまうと、反射的に「はい、大丈夫です」と答えが返ってくるでしょう。しかし、オープンクエスチョンをすることで、相手に一呼吸考えさえることができます。自分の言葉で答えてもらうことが重要です。

また、部下と話す際の話題に使える「3つの“しごと”」もおすすめです。「仕事」と「私事」の話はイメージしやすく頻度も高くなると思いますが、将来の目標など、「志事」に関する話題もたまには意識することで、より自己開示をしてもらえるようになります。

このようなコミュニケーションを行っていると、部下の変化に気づくかもしれませんが、「食う・寝る・遊ぶ」に変化があった場合、配慮すべきです。例えば「最近は以前より、甘いものを食べることが増えている。でも、よく寝れているし、自転車に乗るのが気分転換になっている」というような軽微な変化は、気にしなくても大丈夫。しかし、「3時間睡眠になった」「食事は1日1回」「休日は何もする気が起きない」は要注意。「食う・寝る・遊ぶ」で2つが変わっていたら、すぐに専門家につなぎましょう。

また、Zoomなどで1on1を行うと、実際に部下の様子を見ることができます。「先週はきちんとした服装をしていたのに、今週はひげがぼさぼさだぞ」など、変化に気づけるので、短期的には、1on1を重ねていくことがよいでしょう。

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部下の体調を確認するときの手がかり
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管理職が部下に聞くべき3つの“しごと”

 

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教えてくれたのは…堤多可弘
VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 副院長 精神科医かつ産業医のドクターだけで運営する、ビジネスパーソンを応援するメンタルクリニック。「働き続けること」を前提に、心の不調を来した方にとって最良の治療とサポートを提供する。 https://vision-partner.jp/

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