【チーム力を高めるアイデア_01】社内オンラインハッカソン 事例詳細|つなweB

1. なぜ、リモートワークの最中にハッカソン?

エンジニアのやる気をつなぎ留めるイベントを!

新型コロナウイルス感染症の影響で、世の中のイベントが中止や延期を余儀なくされた2020年上半期。そんな状況下であっても「オンラインでもしっかりとイベントが行えるという実績をつくりたい。社員にも、オンラインでイベントができるのは当然なんだと思ってほしい」と考えたのは、クックパッド(株)CTO成田一生さんです。

そう考えたきっかけは、毎年2月に開催されていた社外向け技術カンファレンス「Cookpad TechConf」が中止されたことでした。このカンファレンスは、社内のエンジニアがクックパッドの技術を公開プレゼンするもの。ここでの登壇に向けて開発を進めたり、プレゼンテーションの練習をしたりと、エンジニアたちにとって一大イベントです。しかし本イベントの中止を皮切りに、月1回程度で開いていた社外向けの発表イベントはもちろん、社内向けの勉強会などの中止が次々と決定しました。この状況に成田さんは、エンジニアたちの考えや自分の持っている技術、やりたいことを表現する場がどんどん減っていくのでは…と焦りを感じたと言います。

「みんなが出社できない状況は、長期的に続くだろうと思っていました。一旦は中止して、また落ち着いたら集まってやろうといっても、空白期間がどんどん長くなるばかり。そうなると、エンジニアたちのモチベーションや会社の雰囲気に影響してくるだろうなと、懸念していました。その状況を打開するために今できることは何かと考え、そもそもこの状況の課題を解決するためにもハッカソンをオンラインでやったらいいのではないかと思いました。まだリモートワークに慣れていない時期だったので、自分の環境をよくするために、みんな柔軟に頭を使って考えていましたから。それをうまく活かしたイベントができたらいいのではないかと思い、オンラインハッカソンを企画しました」

社内ハッカソンは、「Hackarade (Hack + Paradeの造語)」と銘打って、もともとエンジニアの技術力向上のために年3回行っていました。それを、今行うからこそ意味のあるものにしようと、テーマは「私のWork From Homeの課題解決」と設定。ほとんどの人が直面する最大公約数的な課題ではなく、家の中で仕事をする上で自分が困っていることを自分で解決することに主眼を置いたテーマ設定にしたのだそうです。

 

イベントを通し感じてほしい「同僚の存在」

また、成田さんはリモートワーク中にも、「同僚の存在」を感じてほしいという想いもありました。自宅で仕事をしていると、業務上で関係があるチームの数人しか視界に入らなくなります。会社に出社して仕事をしていれば、なんとなく視界に入り意識することができていた他部署の人も、意識の中での存在感が薄れ、忘れてしまうかもしれない。他の部署の人の名前や、悩みを視界に入れる機会を意図してつくれないかと思い至ったのがイベントでありハッカソンだったのです。

「自宅で作業をしていると会話が減ると言います。しかし、チームで定例のミーティングを開いたり、マネージャーとは1on1を行ったりしていますので、業務上で必要な会話はそんなに変化はないはずです。つまり、減っているのは、業務上必要ない情報。例えば隣の部署から聞こえてくる会話の内容とか、コーヒーを淹れにいくタイミングがいつも同じ人とする雑談とか。リモートワークになり、そういった無駄なことがどんどんそぎ落とされて同僚を感じにくくなっています。しかし、『組織』のあり方としては、『無駄や遊び』は重要なものです。この無駄なことや遊びを、会社がどれくらい用意できるかが、事業の次につながっていくのだと考えています。実は大切な業務上に直接かかわりのない人とのつながりを、いい形でつくりたいと思っていました」

誰かがわざわざ音頭を取らなければ実施できないイベントは、まさに「無駄や遊び」を具現化したもの。参加者全員が、一斉に時間を取れない状況も踏まえて、オンライン用に参加や応募のルールを調整することも必要でした。

【オンラインハッカソン提出作品】無駄なつながりをマッチングするサイト
オンラインチャットを誰かと繋ぎっぱなしにして黙々と作業をする通称「さぎょイプ」を、Zoomで行うためにマッチングを支援するWebサービス。自宅で作業をしていると、どんどんそぎ落とされていく「無駄」なつながりを担保

 

2. 業務を越えて課題に共感。視界に感じた「同僚の存在」

環境に応じたルール設定で参加のハードルを下げる

通常だったら、参加者の業務を1日完全ブロックし、時間の確保をして行う社内ハッカソン。しかし、リモートワーク、特に在宅勤務だと、作業環境も家庭により変わります。子どもにご飯を食べさせるなど、Googleカレンダーには入っていない予定もたくさんあり、一斉に8時間という長時間を確保することは難しい。そのため、エンジニアたちの参加の障壁を下げるべく、「今回は提出締め切りまで1週間ほどの猶予を設け、その1週間の中で、業務時間の合計8時間まで開発に使ってよいというルールにしました」という成田さん。また、提出様式についても、完成品を納品するのではなく、動作を動画に撮ってアップロードするという方式に変更しました。

「作品の審査に関しては、動作確認のタスクがたくさんあるので審査員の負荷が大きい。今回、『アプリを持って散歩をすると、その記録が取れる』というアプリの応募があったのですが、それを持って散歩に行かなければ動作確認ができない。そういう作品が出てくることは予測されたので、動画での提出にしていました。これは参加者側にもメリットで、完成していない途中段階でも、審査に必要な動作を動画で撮影し、編集すれば応募できる。そういう猶予があったのはよかったようです」

業務との兼ね合いで、全員がアウトプットまでたどり着けたわけではありませんが、想像以上の応募があったと言います。「動画投稿まではいかなくても、時間があればこういうものがつくりたかったなど、構想やアイデアの発表を含めると、かなりの数でした!」と成田さんは手応えを感じていました。

 

応募作品のほとんどが、共感度高い日々の「困った」

「みんな運動不足になるから、健康維持系の何かは出てくるだろうな。コミュニケーションツールも出てくるだろうな」と予測していたという成田さん。社員間のコミュニケーションを解決するものが圧倒的かと思っていたけれど、成田さんが選出するCTO賞の受賞作品「リモートユーザーインタビュー便利くん」は、予想を反してユーザーとのコミュニケーションのためのツールでした。

「クックパッドではサービス開発をする際に、ユーザーに開発中のプロトタイプを触ってもらい、インタビューすることがあります。しかし今、ユーザーを会社に集めて、声を集めることができません。そこで、Zoomを使い、プロトタイプ画面を触ってもらうのですが、クックパッドのアプリ画面を共有してもらいアプリ上の動作を確認すると、同時にユーザーの表情を見ることができません。ユーザーインタビューを実施しているチームから『ユーザーの表情や反応を感じ取れないのは、本当に困る! 誰か解決してくれないかな?』と依頼があり実装したのが『便利くん』です」

その他上がってきたアイデアは、社内ブログシステムにメンバーがアップしている日報を読みやすく管理するリーダーだったり、家庭の時間との兼ね合いで複雑になりがちな勤怠管理を楽にするツールだったり。毎日作業をしている人ではないとわからない課題に対しての解決策が多く、成田さんは「目的を果たせた」と満足そうでした。

 

部署を越えて課題の共有関係が希薄な同僚が視界に

今回のオンラインハッカソンでは、「チームでの参加を期待していた」という成田さん。しかし、チームでコラボレーションし短期間で成果を出すのは難しく、チーム出品は1つもありませんでした。

しかし、社内オンラインハッカソンを通して、「部署を越え、業務を越えて他の人の課題やアイデアに共感し、刺激を受けることができた」と、その成果を振り返ります。

「自分の困っていることに自分で解決策を出したことに、話したこともない他部署が『それ、確かに困ってた!』と思ったり、『自分だったらこういう実装ができるかもしれない』と考えたり。ともすれば忘れてしまい兼ねない同僚を、視界に入れることができたかなと思っています」

「リモートユーザーインタビュー便利くん」&「リモートユーザーインタビュー便利くんfor Web」
成田さん選出のCTO賞を受賞した「リモートユーザーインタビュー便利くん」(左)。リモート環境下では、アプリのユーザーインタビューを実施する際、スマートフォン1台しか持っていないユーザーの表情や反応をキャッチアップするのが難しかった。そこに、インカメラとiPhoneに写っている動画とを同時に配信できるよう機能を追加。また受賞作品とは別のスタッフが、「リモートユーザーインタビュー便利くんfor Web」を応募
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どこまで読んだか管理を楽に! 「Nippo Reader」
社内ブログに書かれた同僚の日報を読みやすくするアプリ「Nippo Reader」。毎日やっている人でないと気づくことができない視点で、課題を解決した作品

 

教えてくれたのは…成田一生さん
クックパッド株式会社 執行役CTO 日本を含む世界74カ国・地域、32言語で料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」を展開。生鮮食品EC「クックパッドマート」、幼児向け食育絵本「おりょうりえほん by cookpad」など、料理を通して人、社会、地球の豊かな未来を目指す
八波志保(Playce)
※Web Designing 2020年8月号(2020年6月18日発売)掲載記事を転載

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