自社の顧客体験で「上げどころ」はどこ? 身近な例から考えよう。 事例詳細|つなweB

商品・サービスを選択し利用し続けてもらうには顧客体験が大切…ということは誰もが感覚的に理解しているでしょう。では、商品・サービス提供側として顧客体験の何を重視すればいいのか、具体的なポイントを意識していますか? 自社の取り組みを見直してみましょう。

 

教えてくれたのは…須藤勇人さん
株式会社Emotion Tech マーケティング部 部長 兼 HR 事業責任者 同社のシステムを活用した、企業の顧客評価や従業員評価向上を推進する 株式会社Emotion Tech (エモーションテック) 顧客・従業員の感情データを AI・統計を用いて分析するクラウドシステム「Emotion Tech」「Employee Tech」の開発・運営を行う。 https://www.emotion-tech.co.jp/

 

接点は別々でも体験はつながっている ??? 顧客が得る総合的な価値を考えよう

顧客が商品・サービスに対して感じる価値には、利便性や使いやすさなどの「機能的価値」と、その商品・サービスやブランドへの信頼、愛着、喜びといった「情緒的価値」の2つがあります。「顧客体験」とはこの両方を総合したものであり、「顧客体験の向上」はその総合的な価値を高めていこうという取り組みです。

企業から顧客との接点を見ると、潜在顧客のための広告、店頭での接客、電話サポートなど複数の部門に分かれ、担当者も対象者も別々です。しかし、顧客にとっては一つの商品・サービスに関わる体験としてつながっています。さらに、クチコミの印象、ポイントやクーポン、知人にほめられたなどの要素も加わります。企業はこれらも含めて一つの顧客体験と考え、総合的な価値を高める方法を考えていかなくてはなりません。では、そのために何をすればいいのでしょうか。

大切なのは、顧客の選択に影響力のあるポイントを見つけることです。まず、自分が顧客になる状況から考えてみましょう。例えばコーヒーを買うとき、何を理由に選んでいますか?

 

期待と現実、そのギャップが顧客体験の「上げどころ」

コンビニコーヒーへの不満、購入を諦めてしまうポイントは?

ここで一度自社のビジネスを離れ、自分が顧客として「コーヒーを買う」ときのことを想像してみてください。

例えば、出社前にコンビニのコーヒーを買うケースを想像してみましょう。朝、会社の近くにある店舗に入り、レジで会計し、コーヒーマシンで抽出し、店を出ます。

出社の途中に立ち寄りやすく、安いので毎日でも買うことができます。味の評価は高くありませんが、インスタントよりは良く、日常的に飲むには妥当なので、購入意向にはあまり影響しません。逆に一番のネックは、短時間で買えることを期待しているのに混雑で待たされてしまうこと。急いでいると購入を諦める場合もあります。

全体の中で、期待の高さに対して現実の評価が特に低いのがこの点です。他の評価が高くても、このように期待と現実のギャップが大きい点があると、その一点のために利用をやめてしまうことがあり得ます。逆に店舗から見れば、改善によって顧客の期待に応えることができる、顧客体験の「上げどころ」となるのです。ここが顧客体験を改善するために優先的に取り組むべきポイントになります。

 

 

 

商品力は同じでも、店舗に期待するものは異なる

次に、カフェチェーンの店内で飲む場合を想像してみましょう。価格は多少高くてもあらかじめ覚悟しているので評価のギャップは小さめ。味は良く、店内でゆったり過ごせることを期待しています。しかし同様のカフェがいくつもある中、何が店舗選択のポイントになるのでしょうか。

味・価格・メニューなどの機能的価値が似通っている場合、差がつきやすいのは接客です。

仕事の移動途中に立ち寄る場合、休日に友達と過ごす場合、ゆっくり本を読みたい場合など、場所の特性や時間帯によって店舗に期待するものは異なります。店舗側からすれば、商品力の似通った競合がひしめく中、ニーズに対して各店舗が接客を最適化することで期待に応えることができます。これが顧客体験の「上げどころ」となるわけです。

この他、焙煎機の見学やワークショップ開催など、もともと期待が存在しなかった部分で驚きや感動などプラスαの体験を得ることもあるでしょう。基本的な機能的価値やニーズに合った接客が顧客の期待を満たすものになっていれば、こうした取り組みも効果的です。

 

 

 

自社の商品・サービスなら顧客体験の「上げどころ」は?

顧客との接点をもう一度整理してみよう

では、先ほどの視点で自社のビジネスを見直してみましょう。まずカスタマージャーニーマップを作成し、顧客との接点を整理し直します。上の図は「アウトドア用品をオンラインで購入する」体験を例にしています(本来は正しい手順で作成すべきですが、ここでは簡易的なモデルを用います)。

SNSで商品を知り、詳細を調べるため複数の情報に当たります。特長や使い方はわかりますが、サイズ感や重量感は実感しにくいかもしれません。自分の車に載るか、子どもでも使えるかといった個別の疑問も出てくるでしょう。また、購入時にはクレジット決済が安全か、配送指定日を間違えなかったかなど不安がつきものです。

このように、顧客が各フェーズで何と接し、何を期待し、現実とどんなギャップがあるかを整理していきます。それに対し、企業としてできる取り組みを行うことが顧客体験の改善なのです。では、優先すべき顧客体験の「上げどころ」はどこなのでしょう。こればかりは実際に質問し分析してみるほかありません。顧客体験向上の取り組みにおいて、アンケートが重要になるのはこのためです。

 

 

 

こんな状態は要注意! 自社の顧客体験を見直すタイミングかも

顧客体験向上は、しばしば従業員の奉仕精神・おもてなしの心といった精神論で語られることがあります。しかし実際は、マーケティングの考え方に基づいた具体的なアクションによってつくり上げることができるものです。顧客体験の本質を知り、効果が期待できる取り組みを考え組織的に導入する方法を考えていきましょう。

 

 

 

Text:笠井美史乃 illustration: 高橋美紀