オーディブル・キャプションは日本法で認められるのか 事例詳細|つなweB

2019年8月、アメリカの大手出版社7社が、アマゾン傘下でオーディオブックサービスを提供しているオーディブルに対して、ニューヨーク地方裁判所に訴訟を提起したとの報道がありました。理由は、オーディブルが提供しているテキスト表示機能「オーディブル・キャプション」が著作権を侵害しているというものでした。

オーディブルは、もともと書籍を音声にしたオーディオブックを提供している企業です。日本でも2015年7月からサービスを開始し、風間杜夫さんの朗読した「ハリー・ポッター」シリーズの配信などでも知られています。オーディブル・キャプションは、オーディオブックの再生中に字幕を表示できる機能で、2019年7月に発表されました。仕組みとしては、人工知能で独自に音声をテキストデータにして表示しているといいます。

訴えた出版社は、オーディブルに対して音声データの提供は許可したが、出版物のテキストデータの表示は許可していないと主張しています。オーディブルは、テキストは音声データから独自に作成したもので、出版物とは違うため許可を得る必要はないと主張しているようです。裁判で問題となるのはアメリカの法律ですが、日本の著作権法ではどうなるのか考えてみたいと思います。

まず、出版物を音声データ化することは出版物の「複製」となります。そして、人工知能を使って音声データをテキストデータにすることは、音声データの「複製」となります。つまり、テキストデータは、出版物を複製したデータをさらに複製したものですから、結局、出版物を複製したことになります。楽譜に従った演奏から楽譜をつくれば、最初の楽譜とほぼ同じものができあがるのと同じことです。ですから、少なくとも日本法では、「独自に作成したため、出版物とは別のもの」というオーディブルの主張が認められる可能性は低いでしょう。

また、日本語の場合、改行の仕方、漢字の旧字体と新字体、漢字とひらがなとカタカナなどの使い分けなど、音声では読み取れない作家独自の言葉の用法もありますが、これらを正確にテキストデータ化することは人工知能でも難しいでしょう。そのため、テキストデータは出版物とは細かな表記に違いが生じてしまいます。それにより、作家の持っている著作者人格権のうち、勝手に作品を改変されないという同一性保持権を侵害してしまう危険性も高いといえます。

アメリカの裁判でどのような判断が示されるかわかりませんが、少なくとも日本でオーディブル・キャプションのようなサービスを提供するためには、出版社または作家の許可を得た上で、音声データからではなく、出版物からテキストデータを表示するのが安全だと思います。

オーディブル・キャプションについて紹介されている動画「Introducing Audible Captions」※執筆時点では公開中 https://youtu.be/TbQgyzKRzJY/
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2019年12月号(2019年10月18日発売)掲載記事を転載

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