関係人口?定住人口?理想の生活から考える地域とのつながり方 事例詳細|つなweB

データで理解する移住の傾向の変化

地域とつながるといった場合、さまざまな方法がありますが、真っ先に想像できるのは「移住」でしょう。そこで、まずは移住の現状をみていくことにします。私たちのもとには、日々多くの移住希望者が相談に来ていて、来訪者や問い合わせの数は年々増加中です(01)。希望者の年齢や希望する地域などの傾向も近年で変わってきています。

2008年~2018年の「センター利用者の年代推移」を示したのが02です。移住希望者の年齢において顕著なのが、20代、30代の問い合わせが増えている点。昔は50代以上が多く、移住といえば、豊かなセカンドライフを送るためのものでしたが、最近では、いわゆる現役世代の若い年齢層も積極的に移住を考えています。

若い世代の移住検討が増えている背景には、個人の価値観や働き方の多様化があります。リーマン・ショック、東日本大震災、国の地方創生政策にはじまる各自治体の移住施策の充実といったことも要因になっているでしょう。

加えて、スマートフォンやSNSの普及も大きな理由だと考えています。例えば、SNSのタイムラインに出てきた地元の友人が「家庭を築いた」「戸建てのマイホームを建てた」といった事実を知った時に、「東京ではハードルが高いな」と感じて、地元に戻る「Uターン移住」を考えはじめる、といった具合です。出身地とは別の地方に移り住む「Iターン移住」のケースでも、Web上で移住に関する情報が手に入りやすくなったことは影響していると思います。

また、相談に来る人が希望する移住先の傾向にも変化があります。目立っているのは、地方都市を希望する方が増えていることです。地方移住というと、自然が豊かな農村、山村、漁村といった場所を想像してしまいがちですが、当然、県庁所在地のような地方の市街部も移住先の選択肢となります。

就労の場を求める若い世代の移住希望者が増えたことに比例し、農山村などよりも雇用がある地方都市のニーズが増えていると分析します。

※01、02ともに「2018年度 都市と農山漁村の交流・移住実務者研修セミナー資料集」(ふるさと回帰支援センター)をもとに作成

 

移住は手段。理想の生活から考える移住は手段。

移住とは、生活スタイルを変える手段です。そのため、「サーフィンに行ってから通勤する生活を手に入れたい。だから湘南に移住する」のような、東京勤務の働き方は変えず、千葉や神奈川といった首都圏内で移住するパターンもあります。

「それは引越しじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、移住と引越しの違いは、「生活スタイルを変えたいという意思の有無」だと私は考えます。仕事や家庭の事情で住む場所だけ変えるのであれば、ただの「引越し」ですし、生き方そのものを見直して、その結果として住む場所を変えるのであれば、それは移住です。

もし漠然とした憧れだけで移住を検討しているのであれば、理想の生き方や暮らし方を明確にする必要があります。昨今の充実している移住支援制度に頼った「支援金目当て」ともとれる依存的な姿勢や、「都会は疲れたから田舎でのんびりしたい」のような現実逃避的な発想を動機とする移住は成功しません。

移住すればのんびりできる、というのは幻想であり、移住先では、新しい人間関係や環境など、大きな生活の変化が訪れます。「なぜ、その地域に移住するのか」をはっきり言えないならば、その移住は失敗する可能性が高いです。移住は、あくまで手段であることを忘れず、自分が何を求めているのか明確にしておきましょう。

WebやITといった業種の方は、比較的場所を選ばない働き方を実現しやすいです。実は、私たちの団体のWeb担当者もリモートワークを実施しており、月に1度は東京に来てもらって打ち合わせをしますが、基本的にはITツールを駆使して遠隔で仕事をしています。技術的にも制度的にもリモートワークの環境は整ってきています。生活スタイルを変えたいという強い意思があれば、リモートワークを前提に地方を拠点にする選択もあり得るかもしれません。

 

起業と継業で得る地方ならではのやりがい

移住先の地域でビジネスをはじめたいという希望も、移住の理由としては多いです。「地元や好きな地域を盛り上げたい」といった社会貢献意識から、特に若い世代が小商い的な起業を行うケースがよく見られます。

「地方ならでは」のビジネスを行うための移住は、生活スタイルだけを意識したものではありません。当たり前ですが、仕事内容も大きく変化させることになります。

地方を舞台とする起業のキーワードは「ソーシャル」「ローカル」「シェア」「リノベーション」の4つ。売上を求めるというよりも、地域コミュニティの拡充や自己実現のための社会起業といった特徴が読み取れます。

ゼロから立ち上げる起業に対して、後継者のいない地域の生業を引き継ぐ「継業」という概念もあります(03)。移住者にとっては、既存の生業を継ぐことで、すでに地域と関係性のある状態でビジネスをはじめられるメリットがあります。地域にとっても、長年続いている地元に根ざした店舗や産業を廃業の危機から救うことが可能です。

継業で面白いのは、もともとあった地域の生業と移住者のアイデアやスキルが結びつくことで、ビジネスの多角化につながり、ただ引き継がれるだけでなく進化を遂げるケースです。例えば、農家を継いだ人が民宿業をはじめて見たり、豆腐屋を継いだがWebでPRをやってみるなど、プラスαの継業を行なっている事例が存在します。

Web系のスキルを持つ人が継業すれば、WebページやSNSによるPR、EC販売など、地方の魅力を国内外に発信することが可能です。都市部のビジネスでは競争相手が多く差別化も難しいですが、地方であれば、“地方発”という点も特徴になります。Webと地方を掛け合わせた切り口で、地域を活性化しながらビジネスを行うのも、移住の一つのきっかけになるでしょう。

起業や継業を目的とした移住を検討する際に考えるべきなのは、仕事、そして生活そのものを変える覚悟があるのかという点です。

生活まで変化させるのが難しいなら、都市部にいながら自身のスキルを活かす発想で地域とつながることもできます。この発想に関しては、次のページで詳細を解説します。

 

 

専門スキルも活かせる関係人口という選択肢

ここまで移住を中心に話をしてきましたが、移住はハードルが高いと感じる人も多いことかと思います。そうした人に知ってほしいのが、関係人口という選択肢です。

関係人口とは、特定の地域に関心を持って継続的に関与する外部の人々。観光以上、移住未満の関わり方で、交流人口と定住人口の中間です(04)。

関係人口になる側の視点でいえば複数の地域と関わることも可能です。そのため、地域側は、まちづくりに関わってくれる貴重な人口をシェアできます。生産年齢人口が減少していく中、政府も地方創生のキーワードと捉えており、各自治体も関係人口の獲得へと積極的に取り組み出しています。

都市部在住の住民が特定の地域の関係人口になるための具体的な方法としては、「定期的に地方に赴いて地域づくり活動に参加する」「副業としてローカルビジネスに関わる」といったことが挙がります。ふるさと納税なども、寄付を通じて関係人口になる活動です。

また、WebやITを生業とする方であれば、自身のスキルを活かす形でも関係人口になれます。そうした専門的な知識・技術は多くの地域で必要とされますし、スキルを求めている地域とマッチングしてくれるサービスもあるので、Web制作者にとっては、地域と関わりやすい環境になっています。

「移住したいけど今すぐには…」という方には、関係人口でのスモールスタートもおすすめです。また、移住を検討していない人でも、関係人口になって副業やボランティアで地域に関わっているうちに、より深く関わりたい気持ちが芽生え、ゆくゆくは移住の可能性が出てくるかもしれません。

地域とつながる手段は必ずしも移住だけではない、ということは頭に入れておくといいでしょう。関係人口という選択肢も含めて、希望する生活スタイルや、自分の置かれた状況にあった地域とのつながり方を考えていただければと思います。

観光以上、定住未満である「関係人口」。移住前の一段階前のステップとしても捉えられる
編集部
※Web Designing 2019年10月号(2019年8月17日発売)掲載記事を転載

関連記事